848話 異世界の神は配信者 【シリア視点】
異世界――レナの住んでおった地球と言う世界の神が、ようやく大神様との交信に応じた。
それが指すものは、ソラリアによって異世界へと戻されたレナが、消滅せずに済むやも知れぬという希望だった。
「それは本当ですか大神様!?」
「本当です。お前が来るのは想定外でしたが、ある意味ちょうど良かったかもしれませんね」
ちょうど良かったとは?
妾がそう尋ねるよりも早く、大神様はマジックウィンドウを出現させながら続ける。
「これから地球の神と交信をする予定でした。せっかくなのでお前も同席しなさい」
「わ、私も同席してもよろしいのですか? 私はフローリアのような、大神様の分体ではない神ですが……」
「構いません。むしろ、お前のようなイレギュラーがいる方が向こうも好ましいでしょう」
イレギュラーを好む神じゃと? ……何やら、嫌な予感しかせんぞ。
しかし、大神様の手前でそんなことは口に出来ず、妾は大神様の準備が終わるのを待つしかできんかった。
マジックウィンドウが白から黒へ、そして虹色へと忙しなく色を変え続けるのを見守っていると、やがてぼんやりとではあるが、人のシルエットが浮かび上がってきた。
『あー、あー。テステス、これもう聞こえてるかな? もしもーし?』
幼子のような舌っ足らずの声が、通信の確認を行おうとしておる。
まさか、地球の神は女児なのか?
「えぇ、聞こえていますよ。シーラ」
『んおっ! 良かったー、チャンネル間違えたかと思ったじゃんヴィジア! 社会人なら五分前行動って習わなかったのー?』
こ奴、大神様になんて口の利き方を……!
いや待て。こ奴は今、大神様を何と呼んだ?
困惑する妾の様子に、めざとくフローリアの奴が気づく。
「あら、シリアって大神様の名前知らなかったの?」
「知らぬも何も、大神様には個人名は無い物とばかり思っておったぞ」
「やだ~! 大神様だってちゃんと名前があるわよ! ね、大神様?」
「そうですね。今まで言う必要が無かったので言いませんでしたが、私にはヴィジアという名があります。と言っても、この名で呼ぶことは無いと思いますが」
大神様の回答に、妾はスティアとフローリアを見比べる。
どちらも今の回答を何とも思っておらぬことから、どうやら妾だけが知らぬ情報であったらしい。
「妾は、神になっても何も知らぬままじゃったのか……」
「そんな落ち込むことは無いわよシリア~。ほらスマイル、スマーイル!」
「こんな状況で笑えと言う方が無理じゃろう……」
衝撃過ぎる事実に打ちひしがれていると、マジックウィンドウの向こうの映像が鮮明になり、地球の神とやらの姿が映し出された。
そ奴は、一言で言うなれば子どもじゃった。
水色の髪を頭上で二つの団子にまとめ、ところどころに緑のメッシュが入っておるそ奴は、髪と同じ色の瞳を楽し気に細めておる。
じゃが、その瞳のすぐ下にある星の入れ墨は何じゃ? と言うよりも、大神様との面会であるにも関わらず、『休日出勤』と書かれた白いパーカーしか羽織っておらんとはどういうつもりなのじゃ?
怪訝に感じ始めた妾を無視して、地球の神とやらは口を開く。
『おっ! ようやく通信が安定してきたねー? 全く、異世界交信なんて滅多にやらないから不安定が過ぎるよ。危うく放送事故になるところだった』
「放送とは、どういうことですか?」
大神様の質問に、地球の神は嬉々として答えた。
『よくぞ聞いてくれました! ということで、改めて始めて行こうと思うよー! 今日のタイトルはぁ……こちら! じゃじゃん!』
地球の神が口で効果音を述べた次の瞬間、マジックウィンドウに急に大きな文字が現れおった。
『“異世界コラボ案件! あっちはハーレムなのにウチだけぼっちだ! まじぴえん!!” いえーい! ぱふぱふぱふぱふー!!』
「…………は?」
いかん。素の声が出てしまった。
何じゃこ奴。気でも狂っておるのか? とても会談に臨む態度では無いじゃろう。
嫌な予感と頭痛がし始めた妾を他所に、地球の神はどんどん続けて行く。
『はーい、皆さんこんにちはこんばんはこんシーラ! みんな大好き、創造神シーラちゃんだよー!! はい、って訳でねー、今日も元気よく配信していこうと思うよー!!』
『今日は何と、タイトルでも触れた通り大型コラボ案件をいただきました! しかもこのコラボ、まさかの異世界コラボなんですよー! わぁびっくり! こんなぼっちでも案件回してくれる企業様に感謝だねー!!』
『って訳で、じゃあ早速紹介していきたいと思うよー! はいっ、異世界でウチと同じ創造神をやっている、大神様ことヴィジアくんです! みんな拍手ー!!』
「こんシーラ。初めまして、ヴィジアです。よろしくお願いしますね」
『うっわぁー! なんてイケメンスマイル! まじぱない!! うっかり悩殺されるかと思った! ってかヴィジアくん魅了切って? ウチを惚れさせたいなら魅了じゃなく、お金になる案件回してくれないと!』
「あぁ、これは失礼しました。……これでいかがでしょう」
『うんばっちりー! ってことでね、甘いマスクで何億人と虜にしている罪な男ヴィジアくんはですねー、最近新しい女神を創ったそうなんですよー。あ、創ったじゃない? 召し上げただっけ? まぁ何でもいっか!』
『その女神ちゃんもね、今日は来てくれているんだってー! いやー、どんな子なんだろう!? きっとヴィジアくんのことだから、バチバチに顔が良くておっぱいでっかい子に違いない! ……おい誰だ今お前には無い物だなって打った奴!! 表出ろぉ! ウチにもちゃんとあるって分からせてやんよぉ!!』
『ってのは冗談でね! ウチの体はほら、高貴なものだからね! そんなパンピーに見せていいものじゃあ無いんですわ! あ、でもウチこれでもスィーはあるからね? そこんとこ覚えて帰ってね!』
『はーい! と言う事で、もう期待のカマタリさんしかない女神ちゃんにも登場していただこうと思いまーす! シリアちゃーん!?』
…………妾はこの日のことを、悪夢の一日として一生忘れることが無いじゃろう。




