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847話 ご先祖様は八つ当たり気味 【シリア視点】

「うぅ……こうやって正座させられるのも、何か久しぶりだわ……」


「たわけが! 遊ぶことと酒盛りすることしか能の無い阿呆は、一生反省しておれ!!」


「うぇ~ん、大神様ぁ~! シリアが苛めるぅ~!!」


「……今回はお前の遊びすぎです。シリアの言う通り、少し反省しなさい」


「そんなぁ~!!」


「ほんに、この大酒飲みが! 妾の造った酒がほとんど無いではないか!」


 いつぞやの時よろしく、『私は働かずに遊んでいました。ごめんなさい』と書かれた札板を首から提げさせ、後ろ手に拘束した上で正座させたフローリアをきつく睨みつける。

 全く、こ奴はいつから飲んでおったのじゃ? 妾の酒もそれなりに量はあったはずじゃが、もうほとんど空になっておる。


「スティア、貴様も何故止めぬ。大神様が酒に酔って正常な判断が下せなくなったら、一番困るのは貴様じゃろう」


 何食わぬ顔で大神様の傍に立っておる給仕姿のスティアに矛先を向けると、奴はしれっと答えおった。


「大神様が、“久しぶりの現世ですし、人の子の娯楽も楽しんでみたいものですね”と仰っていたので、止める理由は無いと判断したまでです」


「限度と言う物があろう! 飲ませすぎじゃ!!」


 今もなお、妾が丹精込めて作り上げた葡萄酒をグラスに注ぎ直させ、小さく回して香りを楽しんでいる大神様。

 端正な顔立ちの男性となっておられるそのお姿じゃが、もう既に顔は赤く染まり、ただでさえ細めな瞳もとろんとしておられる。


「というかスティア、貴様も飲んでおったな!? 貴様も顔が赤らんでおるぞ!!」


「主が口に含む物に毒が入っていないかどうか、確認するのも給仕の仕事だと聞きました」


「まさか貴様、妾が酒に毒を盛っていると疑っておったのか!?」


「いいえ?」


 じゃあ何だと言いたいのじゃ。

 まさに今、そう口にしようとした妾よりも早く、スティアが言葉を続けた。


「大神様と同じ物を飲みたかっただけですが?」


「なら初めからそう言わんか!! ったく、何なのじゃ! どいつもこいつも、この忙しい時期に遊び腐りおって!! ほれ、酒盛りは終いじゃ! スティアは大神様を風呂に連れていけ! フローリアは片付けをせよ!」


「えぇ~!? これからが楽しいところなのに~!!」


「そうですよシリア。人の世界には“(えん)(たけなわ)”という言葉があるのでしょう? 盛り上がっているところに水を差すのは無粋ではありませんか?」


「何を偉そうに! そういう言葉が使えるのは、日々汗水を垂らして勤労しておる者だからこそじゃ! 文句があるならば働いてからにせよ!!」


 フローリアとスティアがブーイングをしておるが、働かざる者食うべからずどころか、飲むべからずじゃ。知ったことでは無いわ。

 ちとフローリアが持ち込んだあの技術に関心した途端これじゃ。全く、油断も隙もあったものでは――。


 妾が内心で苛立ちながら片づけをしていると、妾の手をそっと大神様が握るようにして止めて来た。


「大神様?」


「シリア。お前がシルヴィを取り戻そうと必死なのは分かっています。ですが、事を急いては仕損じます。たまにはお前自身にも、休暇を与えてはどうですか?」


「それは分かっています。ですが、とても遊んでいられる状況では」


「遊んでいられない。気を抜けない。そんな状況だからこそ、メリハリをつけなければなりません。常に気を張り続けると言うのは、自分が想像している以上に疲労が溜まると言う物です」


 ね? と優しく微笑む大神様。

 その顔を見ては、妾はそれ以上何も言うことができんかった。


「……分かりました。では、今日はもう何もしないと言うことにします」


「えぇ、たまには私とゆっくり話しましょう。かつてのように天界から全てを見下ろせなくなり、退屈していたところです」


 席にかけるよう促され、妾は対面の席へ腰を下ろす。

 気を利かせたトゥナが、他の魔女を連れて食堂から出て行くのを横目に見ながら、妾はつい皮肉を口にしてしまった。


「普段は見ているだけの現世の人間達に、こうして触れ合えるのはいい機会なのではありませんか?」


「ふふふっ。今日のお前は虫の居所が悪そうですね。でも、お前の言う通り、互いに触れることができなかった存在と言葉を交わし、酒を飲み交わせるのはいい経験です」


「それは何よりです。私の造った酒は、お口に合いましたか?」


「えぇ。お前が造った酒は一通り口にしましたが、その中でも特段美味だと感じたのは“異国の乾杯酒”と言う物ですね。あの喉に抜ける強い刺激と苦みが、これまでに経験したことの無い味わいを生み出していました」


「お褒めいただき恐縮ですが、それは私が造ったと言うよりは、レナの世界の酒を模倣した物です。あちらの世界の酒の方が、私が造るそれよりも遥かに美味でしょう」


「そうですか? 私はお前が造ったこの酒も、フローリアが隠していたこれに比べて遜色ないと思いましたが」


 そう言いながら大神様は、机の上に一本の缶を取り出した。

 妾には読めん文字じゃが、何やら獅子のような動物が雄々しく前脚を上げているのが特徴的な外見じゃ。


「あぁー!? 大神様、なんでそれを!?」


「お前が隠し持ち込んだものなど、全て把握していると伝えたはずです。それを取り出せるのもまた、当然でしょう」


「ずるいずるい! そんなことなら関税取らなくたっていいじゃない!!」


「それとこれとは別です。それに関税ではなく、お前が身勝手な行動を取ったことに対する罰だと言ったはずですが?」


 妾とスティアが冷ややかな視線を送る中、フローリアは悔しそうにキーっと喚いておった。


「それはさておき、この異世界の話繋がりにはなりますが。レナの件について、少し話しておきたいことがあります」


「レナ? 何か進展がありましたか?」


 大神様はコクリと頷くと、両の手を組みながら妾に答えた。


「異世界の神との交信が、ようやくできるようになりました。レナを連れ戻す前準備を、そろそろ始めようと思います」

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