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831話 ご先祖様は憂慮する 【シリア視点】

 ……次にレオノーラが起きて来たのは、二日経った夜のことじゃった。


「んん~~~! よく寝ましたわ!!」


「寝過ぎじゃ、このたわけ!!」


「ふぎゃ!?」


 妾がぶん投げた本が見事に眉間に刺さり、レオノーラは伸びたままの姿勢で後ろへと倒れ込んだ。

 じゃが、即座に身を起こしてクワッと吠えてきおった。


「すぐに暴力に訴えるのは、貴女の悪い癖でしてよ!?」


「二日前のことを棚に上げてよう言うわ!」


(わたくし)はいいのです! 魔族の王ですから!」


「何を訳の分からんことを。そんなことを言うのであれば、妾も人を束ねる女王じゃが?」


「元、でしょう?」


 ……何だか、急に面倒になってきたな。

 阿呆に話を合わせるのを辞めた妾をクスクスと笑ったレオノーラは、妾が投げた本を拾い上げてこちらへと寄ってくる。


「それで、戦況はいかがですの?」


「貴様が苦戦しておった死神兵が出てきた時のみ、ちと慌ただしくはなるが……。まぁ概ね安定しておる。戦は散発させて長期化させればさせるほど、国力が物を言うようになる。その点、国全体の士気が高い魔族に比べ、人間側は王都しか戦に対して前向きではないからな。その内戦線も瓦解していくじゃろうて」


「うふふ! まさか二千年も経ってから、魔族側(わたくしたち)が戦争を仕掛けてくるなんて思いもしなかったでしょうね」


「うむ。グランディア城内の偽装に加え、王都への出入りの制限による疑似統治で手一杯の状況に、魔族による開戦宣言じゃ。とてもソラリア一人では対処しきれんじゃろうよ」


「そうですわねぇ。実際、私がその立場であったなら、王都の制限を捨てるしか選択肢は無いと思いますわ」


「グランディア城内は奴にとって本拠地。そこの改ざんが露見することは、奴にとっても大きな痛手となるはずじゃ。して、戦に敗れれば次は王都まで攻め込まれることとなる。王都に防御を集中させ、シルヴィの力で籠城するなら対処は出来ると予測できるが、そうなれば今度は人間の大半も魔族に(くみ)することとなり、敵の数が爆発的に増加する」


「だからこそ、戦線は維持し続けなくてはならない。いずれは王都の情報統制が崩れてしまうとしても、と。全く、流石は【魔の女神】となった魔女ですわ。やり口が狡猾でしてよ?」


「戦とは常に、相手が嫌がることを押し付け続けた者か、己が得意とする物を最大限に引き出し続けた者が勝つ。今回はシルヴィという最強の盾がいるから、前者を選ばざるを得なかっただけじゃよ」


「魔女になって二年も経っていない新米魔女のシルヴィを前に、かの【偉才の魔女】ですら手出しができないなんておかしな話ですわ」


「なら貴様が単独で攻め込むか? ん?」


「私、できないことはしない主義ですの」


 さらっと“自分では敵わない”と口にする魔王。

 そんなレオノーラに笑ってしまうが、こ奴の言う通り、妾とてあの大結界を前に力技で押し通ることはできん。


「物理は無効、神力は反射、魔力はほぼ遮断。全く、これで魔力も反射されよう物なら何も手出しができんところじゃったな」


「良くも悪くも、シルヴィの性質をそのまま使いまわされて幸運でしたわね」


「奴も奴で、全てを同時にこなすには時間が無かったのじゃろうて」


 一か月前のあの日。

 魔術師が用意しておった“新世界計画”を無理やり乗っ取って発動させた結果、世界は大いに歪んだ。

 魔女の消失、魔術師の浸透、グランディア王家の遡及(そきゅう)。ここまでは予想できておったが、奴はさらに異世界との繋がりを断絶した上で、“神堕とし”という大罪を犯した。

 天界を消失させ、神々を地上へ引きずり落とす“神堕とし”によって、大神様はもちろん、他の神々も現界させられた上で、その神力の大半を封じられていた。


 不幸中の幸いじゃが、元々現界していた【魔の女神】である妾と【(とき)の女神】フローリア、そして【空間の女神】コーレリアと【運命の女神】スティアはそれを逃れていた。しかし、やはり大神様という中心核を封じられたのは痛手じゃ。


 痛手と言えば、やはりレナが異世界に戻されたことも言えよう。

 あの日を境に、レナを始めとした異世界人は全て地球に追い返されたらしく、魔導連合の技術の要でもあったヨウスケも姿を消していた。

 異世界の文化が深く根付いておる神住島(かすみじま)は、それそのものが妾達の世界と融合した存在であったことから難を逃れておったが、それでも妾達が把握していなかった異世界人は全員消えていたらしい。


 異世界渡りは、元の世界から存在が消されて、初めて成立するイレギュラー。

 その存在が消された世界に無理やり戻されればどうなるか。その話を大神様から聞いた時は、フローリアは気でも触れたかのようにパニックになっておったな。


「異世界からの来訪者を全員、異世界に送り返すほどとは……。やはりソラリアにとって、それほどまでにレナが脅威に見えたのじゃろうな」


「実際、レナのあの力は脅威以外の何物でもありませんわ。魔力とも神力とも異なる力を、フローリア様の加護と重ね合わせて振るってくるんですのよ? 完全な対処なんて、とてもできませんわ」


「最強の盾を誇るシルヴィと、最強の矛を得たエルフォニア。そしてその中間に立つように、最速と状況次第で最強になり得る、(ことわり)外を持つレナ。先の戦いで本気でソラリアを止めることができたのなら、何とかなっていたのやも知れぬしな」


「だからこそ、レナを消しておきたかったのかもしれませんわね。原則として攻撃ができないシルヴィと、瞬間的に悪魔化するエルフォニアはともかくとして、一番の不安定要素ですもの」


 レオノーラの言う通りではある。

 妾もその三人のどこから潰すかと問われれば、恐らくレナを狙うじゃろうしな。


 溜息を吐き、レオノーラに席を明け渡そうと立ち上がったと同時に、政務室の扉がノックされた。


「魔王様、こちらにいらっしゃいますか?」


「何ですの、ミナ?」


「あぁ、良かったここだった~! そろそろ夕食が出来上がりますので、シリア様とご一緒にお越しください!」


「えぇ、後で向かいますわ」


 遠ざかっていく足音を聞きながら苦笑していた妾に、レオノーラは不服そうに頬を膨らませる。


「その笑いは何ですの?」


「いや、お主らは変わらんなと思ってな」


「世界を歪められた程度で関係性が崩れるほど、魔族は弱くありませんのよ。さぁ、食事にいたしましょう」


「そうじゃな」


 レオノーラに続いて政務室を後にする。

 今頃レナはどうしておるのかは気がかりではあるが、フローリアが大神様と策を練っているはずじゃ。

 そちらはフローリアに任せ、妾は妾の為すべきことをしておくとするかの。

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