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829話 ご先祖様は密偵を仕込む 【シリア視点】

 セイジらから一通り話を聞き終えた妾は、案の定の展開にこめかみを押さえてしまった。


「すいません、シリア様。俺達が不甲斐ないばかりに……」


「何、お主らだけの問題ではない。妾がソラリアを過小評価していただけのことじゃ。お主らはお主らなりのやり方で対処しておる。胸を張るが良い」


 シルヴィが連れ去られてから一か月。

 魔力の核を半壊させられたソラリアは妾達による追撃を恐れたのか、シルヴィの力を引き出し、王都ホルンストンを覆う形で結界を張った。

 さらにその結界を守るために、日中は兵士に擬態させた死神共を関所に配置し、夜間は宵闇に溶かした死神を無数に解き放って徘徊させ続けておった。


 王都に潜り込むこともままならぬ上に、王家から直接認められておる商人しか自由に出入りできぬという警戒っぷりに、当初は妾達もどう攻め入るかと頭を悩ませた。じゃが、そこで名乗りを上げたのがセイジ達(こやつら)じゃった。

 王家によって選ばれた勇者一行。その肩書きこそはく奪されておったが、その代わりに与えられておったのは“S級冒険者”と呼ばれる、超一流の冒険者であるという称号じゃった。

 C、B、A、Sの順で高位となっていく冒険者稼業じゃが、Sともなると王家から直々に依頼が課されることがあると言う。それを逆手に取り、可能な限り情報を集めてくると意気込んでおったのじゃが、そう簡単には行かぬようじゃな。


「それに、こんなこともあろうかと、妾の方で策は講じてあるしの」


「策、ですか?」


「うむ。もう直、来るとは思うのじゃが……」


 妾がそう言いながら宿屋の扉へと視線をやったと同時に、扉の向こうから控えめなノック音が聞こえて来た。

 ノックの回数は四回。して、その前二回は連続であるのに対し、後二回は一拍置きながらの物。どうやら到着したようじゃな。

 妾は魔法で解錠しながら、扉の奥にいる者へと声を掛ける。


「入れ」


「失礼します」


 扉を静かに開けながら入って来た甲冑姿の女に、セイジ達は即座に武器を構えようとした。

 悪くはない判断ではあるが、この場においては不要じゃな。


「座れ。お主らの敵ではない」


 短く制し、武器を収めさせる。

 その様子に、そ奴は灰色の三つ編みを揺らしながら申し訳なさそうに口を開いた。


「申し訳ありません。私をアンデットだと一目で見抜ける人だとは思わず」


「いや、妾が言いそびれていただけじゃ。気にするな、コレット」


 妾がそう言うも、コレットは水色の瞳を細めながら眉尻を下げる。

 未だに警戒が解けぬセイジらに、ちと説明してやらねばならんな。


「紹介が遅れたが、こ奴はコレット。お主らが察したようにアンデット族のデュラハンじゃが、元はグランディア王家に仕えていた騎士団長じゃ」


「初めまして、皆さん。私はコレット。この通りデュラハンではありますが、人間と敵対するつもりはありません」


「ひぃっ!?」


 挨拶をしながら己の首を取り外して見せたコレットに、サーヤが顔を青ざめさせながら怯えた声を上げた。

 仮にも聖職者であるお主が真っ先に怯えてどうするのじゃ。アンデットの討伐なぞ、聖職者の仕事じゃろうが。

 そんなことを考えておったら、サーヤの裏でメノウが泡を吹いて倒れておった。


「……メノウの奴、存外にビビリなのじゃな」


「昔からアンデットとかゴーストに弱いんです」


「小さい頃、肝試しで本物に驚かされてからダメになっちゃったよね」


「ほぅ。まぁそれはどうでもいいのじゃが、念のため診ておけ」


 サーヤが傍にしゃがみ込み、治癒を施し始めたのを端で見ながら、妾は本題に戻すことにした。


「王城内はどうじゃ?」


「非常に警備が厳しいです。あと、この半月で分かったことですが、今のソラリア様は外見で人を判別できないらしく、魔力の性質で判断しているようです」


「ふむ。核の破損の弊害が視力に現れたか」


「おかげで死神に混ざって潜入できているのもありますが、いつまでもという訳にはいかないかと」


「そこはお主の裁量に任せる。危険を感じたら即座に戻ってきて構わん」


「分かっています。私の主はソラリア様ではなく、グランディア王家の正統後継者であるシルヴィ様ですから」


 コレットはどこか誇らしげに胸を張りながら、己が右手をその上に置く。

 やはり、こ奴だけが世界改変から逃れたのは、こういう運命であったのじゃろうな。

 死してもなお、グランディア王家に忠誠を誓う真の騎士。妾の頃にも出会いたかったものじゃ。


「うむ。引き続き城内の様子を探りつつ、接触が可能ならばシルヴィとの接触を図るのじゃ。ソラリアの力の根源は、今は大部分がシルヴィ頼り。シルヴィさえ目覚めさせることが叶えば、弱っているソラリアを叩くことも容易じゃからな」


「はっ!」


「セイジ、お主らにも期待しておるぞ。妾達魔女は王都に入ることすら適わんからな」


「頑張ります!」


「うむ。頼んだぞ」


 妾は再びフードを被り、一足先に宿屋を後にする。

 さて、次は……レオノーラの奴に進捗を確認するとするかの。

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