827話 夢幻の女神は力を取り戻す・後編 【レナ視点】
今話で今章が終わり、明日からは新章開幕となります!
いつものような幕間のお話が無いクライマックス編へと突入しますので、
明日からのお話もどうぞお楽しみに!!
「は? 何か言った?」
「お姉ちゃんに酷いことをしないで!! お姉ちゃんを苦しめないで!! お姉ちゃんは、レナちゃん達を傷付けようなんて絶対にしないの!! それなのに、無理やりこんなことするなんて酷いよ!!」
泣き叫ぶエミリは全身震えていて、尻尾や耳も恐怖から垂れ下がってしまっている。
それでもなけなしの勇気を振り絞って、自分より圧倒的に強い存在に抗議している。
「お姉ちゃんはいつも、優しく笑ってくれてた! わたしがひとりぼっちだった時、お姉ちゃんが家族になろうって手を伸ばしてくれた!! そんな優しいお姉ちゃんに、わたし達を攻撃させないで!!」
エミリの叫びを無表情で聞いていたソラリアは、すっと手をかざしてきた。
このままじゃマズイ! そう思ったのはあたしだけじゃなかったらしく、シリアもエミリの前に入って庇おうとする。
でも、誰よりも先に行動していたのはティファニーだった。
「くぅっ!? うううううううううぅっ!!!」
どす黒い赤混じりのレーザーを防護結界で防ぎながら、ティファニーも叫ぶ。
「エミリの言う通りです!! お母様は、誰よりも優しいお方でした! どんなに自分が大変でも、どんなに苦しくても、目の前で傷ついている人がいたら手を差し伸べてしまう! そんなお母様が、無理やりティファニー達を攻撃させられているのです!! それがどれほど苦しくて辛いか、あなたには分からないのですか!?」
「分かる訳ないじゃない。あたしはあんたの母親でも無ければ、そこのケモノの姉でもないのよ!!」
「うぅっ!? きゃあああああああああああああああ!!!」
「ティファニー!!」
ティファニーの結界が破られるギリギリであたしがカバーに入り、二人でゴロゴロと転がる。
怖くて怖くて仕方がなかったティファニーは、あたしの体を強く抱きしめながらボロボロと大粒の涙を流し始めていた。
そんなティファニーをぎゅっと抱きしめ、あたしはソラリアを睨みつける。
「誰かから愛情を与えられることが無かったから、誰かの幸せを平気で踏みにじれる。あんたは悲しい存在よ、ソラリア」
あたしだって、親から愛情を注がれたことなんてない。
それでもあたしがあいつみたいにならなかったのは、唯一味方でいてくれたおばあちゃんのおかげ。
だからあたしは、おばあちゃんから教わった言葉をそのままぶつけてやる。
「誰かに愛されたいなら、まずは自分から誰かを愛しなさいよ。誰かに認められたいなら、まずは自分から他人を認めなさいよ! 何もしないのに、ただ自分だけが愛されたい、認められたいだなんて、そんなのは子どものワガママよ!!」
ソラリアの眉根がぎゅっと険しくなる。
だけど、その間に割り込むようにシリアが立ちはだかった。
「レナの言う通りじゃ、ソラリアよ」
「は……?」
「貴様のやろうとしていることは、己が個を認められずに喚き散らすだけの童と何も変わらん。貴様は願いを叶え、他者に与えたと言っておったが、それは貴様自身がそ奴に寄り添った結果か? ただ、業務的にこなしておったからこそ、大神様も最後の審判で擁護せんかったのではないのか?」
「何を、知った風に……!!」
ソラリアから再び、赤黒いレーザーが放たれる。
シリアはそれを杖先ひとつで防ぎながら、言葉を続けた。
「他者に寄り添う事は簡単ではない。妾とて寄り添ったつもりでいたが、その実自己満足に過ぎず、一人の人生を狂わせた。じゃが、人という生き物じゃろうと神じゃろうと、共通の理解を得ることができる。それが何か分かるか?」
「人間の分際で、あたしに説教をするつもり!? ナメるのもいい加減にしなさいよ!!」
シリアの隣に、プラーナが並び立つ。
「それは言葉を交わすことです、ソラリア様。我々が他者の心を理解するためには、言葉を用いなければ理解することができません。言葉を交わし、互いの心情を汲み取り合い、時には許しあうことで理解を得ることができるのです」
「裏切り者のお前に、何も言われたくない!!」
プラーナの言葉を受けたソラリアが、レーザーの威力をグンと上げた。
シリアは涼しい顔でそれを受け続けているけど、あまり長くは持たないとあたしでも察せてしまう。
「ならば妾が代わろう。貴様はグランディアの者に手を貸し続けていたとシルヴィが言っておったが、そ奴と心は交わしたのか?」
「交わすわけが無いでしょ!? あたしは神、あいつは人間!! そこには絶対の壁があるのよ!!」
「そこじゃよ。妾の推測じゃが、大神様は貴様に人の心を知ってほしかったのではないか?」
「はぁ!?」
「貴様はただ願われたから与え、願われたから叶えた。それは貴様自身がそ奴を知り、そ奴のためを思って叶えたものでは無い。そういう神だからと思考放棄し、ただ叶えていただけではないのか?」
シリアの言葉に、ソラリアが言葉を詰まらせる。
そこに追い打ちをかけるように、シリアはさらに続けた。
「神と言う物は、元来人の営みを支えるための存在じゃ。人の心の拠り所となり、人を守る。それが妾達神の正しき姿じゃ。じゃが貴様はどうじゃ? 貴様は人の心の拠り所となっていたのか? 願い、叶える以外で人を守れていたのか?」
「あたしにも信者はいた!! 知ったような口を利くんじゃないわよ!!」
「ならばその信者と接したことはあったか? 本当の意味で、そ奴らに信仰される神であろうとしたか? 貴様はそれを怠り、信者をただの力の供給源としか考えておらんかったはずじゃ。故に、大神様は貴様を追放した。神であることを捨てさせ、この世界の在り方を見直すようにとな」
シリアの言葉から、何となくだけど大神様が言いそうな雰囲気を感じる。
確かにあの人なら、大きな失敗をしたからってすぐクビにはしないだろうし、挽回のチャンスはくれると思う。それでもチャンスを与えずに追放したってことは、シリアの言う通りだったんじゃないのかな。
「貴様は大神様が貴様を捨てたと騒ぐが、逆に貴様は大神様を知ろうとしたことはあるか? 大神様が何故貴様を天界から追放したか、俯瞰して考えたことはあったか? いや、無いじゃろう。だからこその今がある訳じゃからな。違うか?」
「……黙れ。お前に、何が分かる!!」
「何も分からんよ。貴様自身が心を閉ざし、一人で騒ぎ立てているだけじゃからな」
故に、とシリアは続ける。
「他者に理解してもらいたくば、言葉を交わせと言うのじゃ。のぅ、ソラリアよ。前置きが長くなったが――貴様は何を欲しておる? 何を願っておる? 貴様の本心は、どこにある?」
シリアは杖を大きく横に振り、レーザー自体をかき消した。
ソラリアは何も答えず沈黙を続けていたけど、やがて小さく口を開き始めた。
「……よ」
「何じゃ」
「王女様もお前も! 同じことを聞いてきて!! 何様だって聞いてんのよ!!!」
激昂したソラリアは、天高く右手を掲げる。
それに呼応し、上空に現れていた巨大な魔法陣が輝き始めた。
「もううんざりだわ……!! 理解しろだの言葉を交わせだの、何様のつもりよ!? あたしを拒んだのは、お前達が先でしょうが!!!」
「……どうやらここまでのようじゃな」
シリアはあたしとフローリアに目配せをしてきた。
魔法が発動するから仕掛けを起動するよう連絡を出せ、と。
ウィズナビを操作して、手短にメッセージを送るあたし達に注意が行かないようにと、シリアは高密度の防護結界をドーム状に展開してくれる。
「この世界も! 神も!! 全て等しくあたしにひれ伏せ!!! 新世界よ、ここに終焉の幕を開けろ!!!」
メッセージを送信し終え、遥か遠くに細い光の柱が立ち始めたのが見えた。
仕掛けはちゃんと発動した。あとはソラリアが力を取り戻すまでの三カ月が勝負……!
魔法陣から、赤黒い光がソラリアを中心に降り注ぎ、それが一気に世界へと広がっていく。
その眩しさと荒々しさに腕で顔を覆っていると、あたしに異変が起き始めた。
「あたしの、腕が!?」
「レナちゃん!?」
光に混じって、あたしの腕が粒子になって消え始めている!!
突然のことにパニックになりながらも、全身に魔力を込めて抵抗を試みてみる。
だけどこれは魔法攻撃とかそういう物ですらないらしく、あたしの体がどんどん消えていってしまう!
「やだ!! なにこれ!? ねぇ、シリア! フローリア!!」
「何が起きておる!? 何故レナだけが消えかけておる!?」
「嘘、これってまさか!?」
何かに気づいたらしいフローリアがあたしに魔法を掛けようとしてくれるけど、効果が全く無いままあたしの消失が続いていく。
半ば狂乱し始めたあたしの耳に、ソラリアの高笑いが聞こえて来た。
「お前だけは絶対に許さないわよ、花園 恋奈!! あたしと同じ孤独の中で、苦しみ後悔しながら死ね!!!」
「何で、あたしの名前――」
どんどん消えていくあたしの体は、次第に何も聞こえなくなり、触れられている感覚すら無くなっていく。
最後に見たものは、泣きながら嫌々と顔を振りながら、何かを泣き叫んでいるフローリアの姿だった。
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