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822話 魔女様は不意を突かれる

 ソラリア様を固有結界“聖なる王(ルヴニール・)女の箱庭(オ・ミスティ)”へ閉じ込め、持久戦に持ち込んだ私でしたが、違和感に気が付いたのはそれから間もなくでした。


「ほぉら!! どうしたの王女様ぁ!? あたしの魔力、吸い尽くすんでしょ!?」


「くっ……!!」


 そう。ソラリア様の魔力量に減少が見受けられないのです。

 実践でも何度も効果は確認済みですし、総量の少ないレナさんなら十秒、エルフォニアさんなら二分ほどで吸い尽くせます。シリア様ほどとなると五分以上はかかるものの、確実に魔力切れを起こすことができるはずなのですが、もう三分戦っていると言うにも関わらず、彼女の魔力に変動が一切無いのです。


 何かがおかしい。それは分かるのですが、その何かを突き留めなければ時間切れを狙う事すらできません。

 魔力視を使って、ソラリア様の周囲の魔力の流れも確認はしているのですが、特段不自然な魔力の流れも無ければ、彼女の魔力が一定値を下回ることが無いのです。


 その違和感に翻弄されながら戦っている内に、全身に小さな切り傷が増え始めています。

 ある程度は活性効果で治癒が追いついていますが、少し深めに切られてしまった部分は、まだ回復が追いついていません。


 一度距離を取り、痛みに顔をしかめながら治癒魔法をかけつつ、今の状況を冷静に考えます。

 魔力が無くならない。そんなことが現実的にあり得るのでしょうか。

 そう考えた瞬間、前にフローリア様が言っていたある言葉を思い出しました。



『当ったり前よ~。私達には神聖守護(かみのまもり)がデフォルトで掛かってるから、如何に光属性の治癒魔法と言えど所詮はアンダーワールド……ううん、何でもないわ。とにかく、効き目は半減以下になっちゃうのよねぇ』


『これが無くなっちゃうとそこらの人間と同じくらい打たれ弱くなっちゃうけど、まぁまずあり得ないわよ。それこそシルヴィちゃんがこの前やりかけた、神殺しの拘束とかが起きない限りね!』



 神聖守護!

 そうです、フローリア様がシリア様の魔法を何度も直撃させられてもほぼ無傷でいられるのは、彼女が特別打たれ強いからではありません。彼女を守ろうと、神として基本的の備わっている防護機能があるからです!


 シリア様も同じ神ではあるのですが、シリア様は人から神へ昇華した特殊な存在であるため、フローリア様のようにデフォルトで備わっているそれが無いから、私の結界内で弱体化することができていたに違いありません。

 そうと分かれば、まずは外殻を護る神聖守護から崩さなければ……!


 私は神力を活性化させ、結界内全域に神力を織り交ぜます。

 吸収する対象は魔力ではなく、神力です!!


「うっ!?」


 大鎌を振りかざしていたソラリア様の足が止まり、ガクンと大きく体が揺れました。

 やはり正解です! 神聖守護は神々の力で編み上げられている物。つまり、神力が乱れれば維持できなくなるようです!


「ホンット、頭が回る王女様ね!! 一々ムカつくわ!!」


 だんだんと動きが鈍くなり始めているソラリア様の攻撃を防ぎ続けていると、ソラリア様から小さな光が弾けました。

 それと同時に神力の吸収もできなくなったことから、恐らくは神聖守護が完全に剥がれたのだと思われます。

 吸収対象を神力から魔力に切り替えると、推測通りに急速に魔力を奪い始めることができました。


「チッ……! やめろって言ってんでしょうが!!」


「やめません! 私は、あなたを止めなければなりませんから!!」


 本気で苛立っているソラリア様が、これまでに無いくらいの荒々しさで大鎌を振り回してきます。

 ですが、冷静さを欠いている状態のその攻撃は非常に読みやすく、私にとってはありがたい状況で――。


「まさか、読みやすいとか思って無いでしょうねぇ?」


 その言葉が聞こえた直後、私の体が何かにぶつかったような衝撃を受けました。

 それと同時に、体の内側に伝わってくるひんやりと冷たい何かの感覚。そして、唐突に込み上げてくる咳……。


 いえ、違います。咳き込んだのは寒さなどではなく、私の体が大鎌によって貫かれ、体内から込み上げてきた血です!


「ごほっ!! なん、で……」


「なんで? そんなの決まってるじゃない」


 ソラリア様は私の肩に自身の顔を乗せながら、下を見るように指で促してきました。

 私の胴を深々と貫き、真っ赤な血で染まっているそれからさらに下を見ると、私達の足元だけ花が消えていて、真っ黒な闇が出来上がっています。


 まさか、そんな。いえ、あり得ません。だって、ソラリア様にはそんな魔力は残されてるはずが……。


「あんたさぁ、誰と戦っているのか忘れてない? あたしは【夢幻の女神】。人の願いを叶える女神。だけど権能をはく奪された元女神。そんなあたしに願いを捧げる人間が、何の代償も無しに願いを叶えてもらえるとでも思ってた?」


 ソラリア様は私にも見えるようにと、マジックウィンドウを出現させます。

 そこには、ベッドの上で顔色を青ざめさせ、徐々に衰弱していっているのが分かる魔術師の方々がいらっしゃいました。


「まさ、か……!」


「そう、そのまさか。あたしに何かがあった時には、あたしを崇拝する魔術師共から魔力と生命力を吸い上げる仕組みを作ってたのよ」


 魔術師の方々から魔力や生命力を奪い取り、私の固有結界に一瞬だけ干渉し、分身を作り出していた。

 私が慢心したことによる、不意打ちです。


 絶望的な答え合わせが終わると、ソラリア様は私に突き刺していた大鎌を勢いよく引き抜きました。

 それと同時に、体の支えを失った私は地面に倒れ込み、強烈な痛みが全身を襲い始めます。


「あっ、ぐ、あああああああああああっ!!」


「あっはははははは!! 王女様、初めて刺された感想はいかが? 生まれてこの方、誰にも傷付けられることが無かった体に、ぱっくりと穴を開けられた気分はどう?」


 痛い、何てものではありません。

 胴が焼けるように痛み、込み上げてくる血で激しく咳き込んでしまうせいで、まともに叫ぶことすらできません。

 それでも歯を食いしばり、持てるリソースを治癒に回して耐えようとしていると、私の顔の前にしゃがみ込んだソラリア様が楽しそうに顔を歪ませました。


「あぁ……いい、いいわその顔。あの時もそうだった。あんたを庇おうと身を挺してきたあんたの母親を切り裂いた時も、あたしをそんな目で睨みながら耐えてたわね……!」


 言葉を返す余裕もなく、荒い呼吸を繰り返しながら必死に治癒を続ける私に、ソラリア様はどこかうっとりとした表情で続けます。


「あんたの父親もいい声で鳴いていたわね……。全身斬り刻まれて死にかけなのに、自分の命を捨ててまであんたを守ろうとしたあいつ。最後の最後まで、立派だったわぁ……」


「うっ!!」


 固有結界が切れて元の地面に戻っていた地表に、大鎌の柄でこめかみを強く突かれて押し付けられます。


「あんた達グランディアって、どうして揃いも揃ってしぶといのかしらね。しぶとい上に、全員同じ顔をする……。これも血の繋がりってやつなのかしら?」


「はっ……はっ……! きっと、シリア様の血を、継いでいるからでしょう……!」


「シリア。そう、あいつも気に入らないわ。人間のくせに神になるとか、神をナメてんじゃないわよ!!」


「ぐうぅぅぅっ!? ああああああああ!!!」


 まだ治りきっていない傷口を踏みつけられ、全身に鋭い痛みが駆け抜けます。

 ソラリア様は、そのままグリグリと踏みつけながら声を荒げました。


「あたしの代わりが人間よ!? 分かる!? 今まで人間に寄り添って色々してやってたって言うのに、そに人間に騙されたあたしを追放しておいて、よりにもよってグランディアの人間を神に据えたのよ!?」


「うあっ……!! や、やめ……!!」


「何が世界を救ったよ! 何が魔法を発展させたよ!? それはあたしよりも偉いわけ!? あたしがどれだけ人間に寄り添ってやってたかも知らないで!!」


 何度も傷口を抉るように踏みつけられ、痛みで集中が途切れそうになります。

 それでもなんとか耐え続け、治癒の手を止めずにいると、ソラリア様の動きがピタリと止まりました。

 今度は何を……とソラリア様を見上げると、彼女は大鎌の刃先を私の首に押し当ててきました。


「もう、このままあんたを殺そうかしら」


「っ!?」


「このままあんたを殺せば、グランディアは絶滅する。大神を殺す手立てはなくなるけど、それもそれでアリかもしれないわ」


 冷たい刃先が私の首元に触れ、薄皮を切り、血が滲み始めます。

 このままでは、本当に殺されてしまいます。何とかして、それだけは思いとどまらせなくては……!!

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