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818話 ご先祖様は言葉を交える・後編 【シリア視点】

 妾の槍ごと切り捨てんと押し切ろうとするプラーナは、スッと瞳を開けた。

 その瞳は暗い失望と悲しみ、そして復讐に満ちた紅い輝きを放っておった。


「私はトゥナに、常々言い続けていました。貴女はシリア様に気に入られているかもしれないが、貴女の他にもシリア様から学びを得ようとしている者は多い。彼らの機会を奪うような真似はせず、節度を守った距離を取れと」


「……そうか。やはりお主がトゥナを悩ませておったのだな」


 思い返せば一時期、トゥナが妾に対して申し訳なさそうな顔をしながら避けようとしておった。

 今の話から、こ奴がトゥナを妾から引き離さんと影で動いておったのじゃろう。


「私達は皆、あなたの振るう教鞭に耐え続けていました。それがやがて、自分の力になるのだと。耐え抜いた先に、偉大な魔女になれるのだと信じて。ですが、そう信じると同時に、貴女がトゥナにだけ甘かったのが何よりも許せなかったのです。血反吐を吐く厳しい鍛練の中、あの子だけ気遣われるのを見た者がどう思うかなど、想像に難くないのでは?」


 大きく剣を弾くと、それを合図としてプラーナからの連撃が繰り出される。

 こ奴の言わんとせんことは分かる。事実、あの時もプラーナはそう言っておった。

 じゃが、妾にはそれだけには見えん。贔屓を妬むだけにしては、やたらとトゥナに対しての当たりが強すぎた。


 思い当たるとすれば一つだけじゃが、それはこ奴にも当てはまるのか?

 分からんが、確認を取らねば何事も解決せんと言うものじゃ。


「お主の言う通り、他から見て妾はトゥナに甘かったのじゃろう。じゃがあ奴は、幼い頃から親にも捨てられておった不憫な子じゃ。そんな幼子を気に掛けるなと言うのか? そうではないじゃろう」


 プラーナの剣技が若干鈍った。やはりそうか。

 こ奴は……いや、あの時の妾の下におった者は、皆そうであったのか。


 剣を強く上に弾き、胴がガラ空きとなったプラーナに妾は問う。


「お主らは単に、妾に甘えたかった。魔女となる以上、家族を捨てて魔導連合に入らなければならないという寂しさを、妾を通して母の愛で埋めたかった。違うか?」


 妾の問いかけにプラーナは何も答えず、ただ剣を振るう。

 その沈黙と行動が答えであると指摘するのも簡単じゃが、それだけでは些か面白みにも欠ける。


 ……どれ、少し揺さぶりを掛けるとするかの。


「魔女となる者は皆、家族を捨てておるのはお主も知っていよう。孤独な環境に身を置き、お主が言うような血反吐を吐く鍛錬に明け暮れる日々。そんな毎日で、心が弱るのも妾は知っておる」


「それがどうしたと言うのです」


「妾はな、トゥナのみを甘やかしておった訳では無い。親離れし切れず、愛に飢える者もまた、妾はよく面倒を見てやったものじゃ」


「出任せを。そのような話を、私が信じるとでも?」


「くっくっく。まぁお主が知らんのも無理は無かろう。寂しいと素直に打ち明けてくる者は、恥ずかしさからこの事は口外せん上に、妾からも悪戯に他言するなと言っておったからな」


 これは事実じゃ。

 当時の魔導連合の宿舎からは、中庭がよく見えた。妾も良く寝泊まりしていた物じゃが、その中庭で物憂げに顔を曇らせる者もいれば、日々の疲れや寂しさが堪え切れず、一人涙を零す者もいた。

 その者らに声を掛け、話を聞きながら茶を飲み、時には寝かし付けてやっていたものよ。


 プラーナは事の真偽を見極めようと、沈黙を続けている。

 ふむ、ならばもう一押ししてやるとするかの。


「さらに言えば、お主が口にしたレミィとギルバードじゃが……。あ奴らもまた、妾に甘えていた連中じゃよ」


「そのようなことは」


「ある筈がないか? ならば良く思い出してみるとよい。あ奴らが魔導連合を去る際に、妾とどのような会話をしておった? トゥナを妬み、妾をよく見ておったお主なら知っていよう?」


「私は聞いたことも」


「いや、ある。覚えておらぬなら、思い出させてやろう」


「……っく!」


 槍で素早く三度突き、奴の手から剣を弾き飛ばす。

 よろけたプラーナの影を槍で縫い留め、その場から動けぬようにさせた妾は、自分の頭から記憶を抜き出しながら続けた。


「とくと見よ。あの日、あの場所でお主が見聞きした記憶を。お主が復讐に狂い、封じた記憶を」


 瞳を閉じようとするプラーナを、無理やり開眼させたまま顔の位置を固定させる。

 さぁ、お主の言う“皆”がどれほど当てはまるのか。今一度確かめてもらうぞ、プラーナ。

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