817話 ご先祖様は言葉を交える・前編 【シリア視点】
シルヴィの奴は上手く戦えておるかのぅ。
などと考えておったら、妾の顔を目掛けて神殺しのレーザーが放たれた。
「おっと」
上半身を大きく後ろに逸らし、そのまま後方へと大きく跳ぶ。
そこへすかさず、追撃のカラスが三羽仕向けられた。
「くだらん!」
そ奴らへ杖を一振りし、無詠唱で魔法を放つ。
妾に向かって来たカラスが燃え上がり、地に落ちて行った。
……まぁ、あ奴のことじゃ。上手いことやれるじゃろう。
今は妾も、己が戦いに集中するとするかの。
魔力探知でリンディの姿を探そうと思ったが、魔力探知なぞ使うまでも無かった。
あ奴は黒い大蛇の上に立ち、悠々と妾と見下ろしておる。
「師を見下すとは随分と偉くなったものじゃのぅ、リンディ」
「貴女など師ではありません。それと、二度とその名で呼ばないでください」
「……っと。相も変わらず、頭に血が上りやすい奴じゃのぅ。お主がトゥナに手を挙げた時もそうじゃったしな」
妾の挑発にリンディは――いや、プラーナと呼んでやるべきか。奴は容易には乗らぬが、黙れと言わんばかりに周囲にレーザーを放ってきおった。
全く、血の気が多い奴じゃな。じゃが、このまま優位を示され続けるのも癪じゃ。妾もそろそろ動くとするかの。
「どれ、お主が蛇ならば妾はこれで行こうぞ! 出でよ、イーグル・ゴーレム!!」
妾の地面が隆起し、鷲を象ったゴーレムが姿を見せる。
徐々に白鷲へと変化していくその背に立ち、空へと舞い上がる妾に向けて、プラーナは追尾性のあるレーザーを放ってきおった。
空へ逃げながら迎撃をしていくと、直後に嫌な気配を感じた。これはもしや――!
急旋回しながら右へと大きく避ける。
その直後、妾が飛んでいた場所を二本のレーザーが穿った。
「石化の邪眼! ゴルゴンか!!」
「ご明察です」
神獣召喚をも成せる領域まで至っておったか。
かつての弟子の成長が著しく喜ばしい反面、妾に向けられておる殺意の根底にあるものが嘆かわしくなる。
何故お主は、トゥナなんぞに醜い嫉妬をしてしまったのじゃ。
妾ならば、より高みの景色を見せてやれたものを……。
……いや、それを嘆くのはお門違いと言うものか。
あ奴が道を違えてしまったのは、妾にも責がある。
ならばやはり、師として正しき道へ引き戻すのもまた、妾の務めと言えよう!
ゴルゴンの眼光、そしてプラーナ自身からのレーザーを躱しきれなかった鷲から飛び降り、フェアリーブーツで足場を確保しながら魔力を練り上げる。
そこへすかさず、神殺しのレーザーが放たれる。じゃが、もうネタ晴らししても良かろう。
妾はそれを、真正面から受けることにした。
「なっ!?」
詠唱を中断し、避けることに専念すると踏んでいたのであろう。
撃った本人が驚くとはおかしな話じゃが、まぁ無理もない。
「忘れたかプラーナよ。妾は一度見た魔法は全て、己が物に出来るのじゃぞ?」
それがオリジナルだろうと禁術だろうと、魔法に変わりはない。
一度受けた魔法ならば尚更、無効化の術式を編み上げることなぞ容易と言うものじゃ。
「お主程度が操れる魔法が妾に扱えんとでも思ったか? 果てよ神獣! ディヴィニティ・イレイザー!!」
妾が受けた神殺しのレーザーを、遥かに威力を増したものとしてゴルゴンへ叩き込む。
この妾が寸前で神格防護を張らねばやられていた一撃じゃ。召喚された神獣が耐えれるはずはない!
『シャアアアアアアアッ!!!』
大蛇は断末魔の咆哮を上げ、全身を塵へと変えていく。
その頭から大きく跳躍したプラーナが、信じたくないと言わんばかりに妾に向けて同じレーザーを放ってくるが、そのいずれもが妾に届くことは無かった。
「……私が二百年かけて編み上げた神殺しの魔法を、こうも容易く模倣されるとは」
「模倣ではない。お主から学び、己が力としてさらに改良を施した物じゃ」
「これだから天才は嫌になります。あなたを夢見たかつての同胞が、あなたに至るまでの道の険しさにどれだけ挫折したかなど、ご存じも無いでしょう」
神殺しのレーザーは効かんと理解したプラーナが、蛇の頭を模した闇魔法を無数に放ってくる。
妾はそれらに光の槍を差し向け、迎撃させながら答える。
「妾の才を羨み、やがて妬み、妾の下を去っていった者なぞ山のようにおる。じゃが、そのいずれもの顔を忘れたことは無いぞ」
「ご冗談を。セドリック、ハル、レミィ、ギルバード、イルル……。他にも沢山の同胞が貴女についていけないと魔女の道を諦めました。その誰もが口を揃えて、こう言っていたのもお忘れですか?」
杖に魔力を纏わせ、闇の剣と化したそれと共に、プラーナは突撃してくる。
妾の杖を光の槍へと形を変え、妾も同じように空を蹴り、接近戦へ持ち込む。
互いの獲物が激しく衝突し、周囲に暴力的なまでの衝撃波が迸った。
「“シリア様は私達に合わせる気など無い。だがトゥナにだけは合わせている”と。貴女の態度は、私だけではなく第三者から見ても露骨に変わり過ぎていたのですよ」
 




