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816話 魔女様は負けられない

 ソラリア様の固有結界に飲まれ、完全に視界を奪われました。

 さらに言えば、エルフォニアさんの物よりも強い効果があるらしく、空間内の音すらも聞こえづらいように感じられます。

 盾を構えながら魔力視を使い、空間全体の把握を行うと、その空間のあり方に言葉を失ってしまいました。


 ――私がいるこの空間は、どこまでも深く沈んでいく沼地のような影だったのです!


「ニャ!? ニャー!!」


 薄っすらとではありますが、猫達の悲鳴が聞こえたような気がしました。

 そちらへと視線を向けると、猫達の小さな手が助けを求めて天へと伸ばされています。

 猫達を助けなくてはと思う反面、私自身もまた、同じようにゆっくりと影に飲み込まれてしまっていて、上手く動くことができません。


「う……、抜けない……!!」


 無理やり足を引き抜こうとすると反対側の足が飲み込まれていき、もがけばもがくほど余計に沈んでいくこの状況に焦りを覚えます。

 ここは賭けではありますが、転移を使って――。


「あ~ら王女様、随分と無様な恰好じゃない?」


「っ!!」


 ソラリア様の声が僅かに聞こえたと同時に、私は躊躇わずに転移を実行しました。

 しかし、その判断は誤りだったと思わざるを得ませんでした。


「あうっ!!」


「はい、ざんね~ん! あんたが印を刻んだ位置に転移できることくらい、こっちも知ってんのよ!」


 私が転移した先にあったのは、レオノーラが使っていたあの鳥かごだったのです!

 内部からの魔法を封じ込める呪いの鳥かごに、触れれば燃え盛り逃がしてはくれない檻を前に、成す術もなく歯噛みしていると、影の中からソラリア様が姿を見せました。


「やっぱあんたって、狭い鳥かごがお似合いだわ。自由も無く、未来も無く、翼をもがれた惨めな鳥。それがあんたよ」


「私から翼を奪ったのは、ソラリア様ではありませんか」


「あんたから翼を奪ったのはあたしじゃないっての。あんたの親に文句言ってくれる?」


「ソラリア様がグランディア王家を襲撃しなければ、私の両親が私を護るために塔に隠すこともありませんでした」


「まっ、そう言われちゃうとそうなんだけどねー」


 ソラリア様は檻に寄りかかるように腕を当て、私に問いかけてきます。


「でもそんなお優しい親の気持ちも知らず、あんたは勝手に塔から出た。そのせいで、こうやってあたしに殺されそうになってる。ホント、親の心子知らずってよく言う物よねー。あんたもそう思うでしょ?」


「……確かに私は、両親が命を懸けて守ろうとしてくれた小さな世界から抜け出した、ある意味親不孝者なのかもしれません。ですが」


 私は檻越しにソラリア様を見据え、はっきりと言い切ります。


「あの塔にいたおかげでシリア様と出会うことができ、自分の運命は自分で決めるものだと学びました。自分の意思で道を選び、自分の手で切り開くことこそが正しい在り方なのだと知りました」


「へぇ~? それで?」


 自分の運命は自分で決める。

 それはつまり、どこで諦めるかも自分次第と言う事です。

 魔法が使えなくなっているからと、諦めてはいけません。

 触ることができないからと、脱出できないと決めつけてはいけません。


 まだ私には、やれることがあります!


「私の運命は、こんなところで終わるものではありません!!」


 シリア様の神力を活性化し、小さなナイフを作り出します。


「やあっ!!」


 掛け声と共に檻を切り裂いた私を見て、ソラリア様は楽しそうに笑いながら影の中へと姿を消します。

 ひとまず、無事に檻の中から出ることはできました。あとはこの状況を覆すだけですが、固有結界に対抗するとなると、やはり私自身の物もぶつけるしかありません。


「始祖シリアに代わり、我が名において命ず! あまねく魔力よ、我が下へ帰結せよ!! 聖なる王(ルヴニール・)女の箱庭(オ・ミスティ)!!」


 私を中心に金色の魔法陣が展開されると同時に、強い抵抗力を感じました。

 固有結界同士のぶつかり合い。今までに感じたことの無い魔力抵抗ですが、恐らくは拘束の応用で問題ないはずです!


 ソラリア様の魔力を押し退けるように、自分の魔力を流し込みます。

 しかし、ソラリア様自身も固有結界のアドバンテージを奪われたくないらしく、かなりの魔力を注ぎ込んできているのが分かります。


「さっさと諦めなさいよ王女様! あんたじゃ運命なんて切り開けないのよ!!」


「私は絶対に諦めません!! どんな絶望的な状況でも、諦めなければ運命だって切り開けます!!」


「切り開かせない! あんた達グランディアは、あたしが滅ぼす!! それがあんたの運命よ!!」


「それなら、私がソラリア様を跳ねのけてグランディアを繁栄させてみせます!!」


「繁栄なんてさせるかああああああああ!!」


「やあああああああああ!!」


 お互いの魔力が激突し、激しい衝撃波が生じます。

 ここで消耗を狙うのも手ではありますが、恐らく奥の手がまだ控えているはずです。

 ソラリア様の全力の一撃を引き出さなくてはいけない以上、ここは押し勝たなければならないのです!


 さらに魔力を流し込むと、今まで拮抗していた魔力のバランスが一気に崩れ、私の固有結界である花畑が一面を染め上げていきました。

 それと同時に、ソラリア様から奪い始めた魔力が花の色を変えていき、真っ赤な花々が咲き誇ります。


「ちっ……! 魔力吸収型だなんて、とことん嫌がらせがお好きなようね!」


「攻撃ができない以上、これが私の最善策です!」


 削られ始めていく魔力を押し留めながらも、ソラリア様が大鎌を振りかざしてきました。

 このまま持久戦に持ち込めば、ソラリア様はいずれ、何かしらの大技で固有結界ごと吹き飛ばそうとしてくるはずです。

 それまで、何としてでも持ち堪えて見せます!

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