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814話 魔女様は決戦を始める

 しばらく山頂へと続く道を進み続けること、およそニ十分ほど。

 私達は遂に、山頂で待ち構えていたソラリア様達と相まみえることになりました。


「あ~ら、ようやく来たのね王女様。随分とのんびりだったじゃない。あのレナとか言うクソガキが死んで、カッとなってすぐ来るかと楽しみにしてたのに」


「レナさんをそんな風に悪く言わないでください。あと、彼女は死んでいません」


 宙に腰掛け、あくどい笑みを浮かべながら挑発してくるソラリア様にそう返すと、彼女は「ふーん?」と前屈みになって頬杖を突き始めました。


「お得意の治癒魔法で治してあげたんだ? 優しいわねぇ王女様ってば。でも、ただの治癒じゃ治らない特別な呪いを掛けておいたんだけど?」


「ソラリア様の呪いは非常に悪質で複雑なものでした。ですが、私はソラリア様以上に呪いに長けている人を知っていますし、その方から呪いの解き方を教わっていましたので、対処も問題なくできました」


「あーあ、ホンットに優等生な王女様ですこと。やっぱりあんたに、あたしの【加護】を与えるんじゃなかったわ」


「本を正せば、ソラリア様が身勝手にグランディア王家を襲撃に行かなければ良かったと思われます」


「今はそう言う話してないんですけど~? 何なのプラーナ? 殺されたいの?」


 静かに指摘されたソラリア様は、苛立ちを隠さずにプラーナさんへ牙を剥きます。

 それを気にするそぶりも見せずに受け流したプラーナさんは、私ではなくシリア様に向けて話し始めました。


「あの一撃で生きていたことに賞賛を贈るべきか、そのしぶとさを嘆くべきか……。流石は【魔の女神】と呼ばれるだけはありますね」


「貴様こそ、斯様な神殺しの術を独自に編み出すとは見事であったぞ、プラーナ。――いや、リンディよ」


 シリア様が口にした彼女の真の名に、プラーナさんの体がぴくりと反応を示しました。


「……そうですか。転生を繰り返し、姿形を変えたとは言え、やはり貴女には見抜かれてしまうのですね」


「あの時はどこか懐かしい感覚程度ではあったがの。貴様に核を破壊され、過去と振り返る機会があったからこそ紐づいたと言えような」


「へぇー? プラーナあんた、そこの【魔の女神】様と知り合いだったんだ?」


「……」


「あぁ、それであんたが王女様じゃなくてそっちを殺るって聞かなかったのね。ようやく分かったわ」


 どうやら、シリア様との過去についてはソラリア様も知らなかったようです。

 お二人は長いこと共に行動していらっしゃると聞いたことがありましたが、こちらは私とシリア様のような関係性ではなく、ただの利害関係の繋がりなのでしょうか。


 何も答えないプラーナさんに対し、ソラリア様はつまらなさそうに息を吐きました。


「ま、別にあんたの過去とかどうでもいいし、あたしの邪魔しないでくれるなら何でもいいけど。で? 今回もあんたがそっちのシリアを殺るってことでいいのね?」


「えぇ」


「了解。なら王女様は、あたしと遊びましょうね~」


 ソラリア様はそう言うと、すたっと地面に降り立ち、大鎌を出現させました。

 その隣では、プラーナさんが自身の背後に転移門を召喚しています。


「良い判断じゃな、リンディ。亜空間内ならば、妾と貴様の戦いに邪魔が入ることは無い」


「えぇ。逆に、貴女を助けにシルヴィさんが来ることもありません」


「はっ。一度不意打ちで勝ったからとイキがりおって。妾が負けることなぞ、万に一つも無いわ」


 シリア様からのケンカ腰の言葉に、プラーナさんは動じず転移門へと向かいますが、足を踏み入れる直前でこちらに振り返ると。


「師と言うものは、必ず追い抜かれるものです。それをご覧に入れましょう」


 と、閉じられていた赤い瞳を怪しく輝かせながら言い残し、亜空間の中へと姿を消しました。

 一瞬だけとは言え、凄まじい殺気に当てられてしまい体が強張る私でしたが、シリア様はふんっと鼻を鳴らすだけでした。


「妾とそこらの師弟を一緒くたにするでないわ、たわけが」


「不出来な弟子を持つと、師匠も大変ねぇ」


「くふっ、その点においては同意してやろう」


 ソラリア様にそう笑い返したシリア様は、私に向き直ります。

 そして、ご自身の杖を取り出しながら私へと言いました。


「ここから先はお主一人の戦いになる。……やれるな?」


「はい」


「うむ、お主ならばやれる。なんせお主は、この妾の子孫なのじゃからな」


 強きに笑うシリア様に、私も自然と笑みがこぼれます。

 緊張が緩みそうになる自分を律し直し、私はシリア様へ伝えました。


「シリア様、どうか見ていてください。私が積み上げて来た物を、ここで全部出し切ります」


「うむ」


「それでもダメだったら――あとはお願いしてもいいでしょうか、シリア様」


 先ほどのフローリア様を真似て少しおどけて見せると、シリア様は一瞬だけ驚きましたが、やがておかしそうに笑いだしました。


「くっはははは! 何じゃお主、ここに来て弱気になるではないか! あれほど揺るぎない覚悟を見せておったのは何だったのじゃ!」


「そ、そんなに笑わなくてもいいではありませんか! 私だって、フローリア様のように場の空気をですね!」


「よいよい、分かっておる! 皆まで言わんでもよい! くふっ、くっふふふふふ!」


 楽し気に笑い続けていたシリア様でしたが、笑いすぎて出てきてしまった涙を指で拭うと、いつもの頼もしい表情へと切り替えて頷きます。


「お主が上手くできんでも、妾がいる。お主はお主のやりたいように戦うがよい」


「ありがとうございます、シリア様」


「うむ。ではの」


 軽く手を挙げたシリア様は、ソラリア様の隣を通り抜けようとします。

 ソラリア様側から何かアクションがあるかと警戒はしていましたが、彼女は特に何をする訳でもなく、私達の会話の間が暇だったと言わんばかりに、大鎌を使って大きく伸びをしていただけでした。


 転移していくシリア様を尻目に見送ったソラリア様は、大鎌の持ち手を地面に突き、レナさんを切り裂いたあの死神を二体召喚しながら声を掛けてきます。


「で? 王女様はもう準備できてんの? あたしぐだぐだ話すのとか好きじゃないから、ちゃちゃっと始めたいんだけど」


 正直に言えば、戦う前から話し合いで終えたいところではあります。

 ですが、これ以上話を続けてもらえ無さそうな様子から、ここからは戦いながらになるでしょう。


 私は黎明の杖を取り出し、猫騎士(ゴーレム)を呼び出します。


「我が想いよ、剣となりてここに形を成せ! 勇猛(ニャイツ)なる(・オブ・)猫騎士(ブレイヴリー)!」


「「ニャー!!」」


「ソラリア様に話を聞いていただくためにも、私はあなたを止めて見せます!!」


「ふーん。なら、やれるものならやってみなさいよ、日和見王女様ぁ!!」

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