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813話 魔女様は覚悟を問われる

「シリア様」


 崖の上に立ち、どこまでも広がる森林を眺めていたシリア様に声を掛けると、シリア様は私へと顔を振り向きました。


「何じゃ、もういいのか?」


「はい。作戦を決めている間や、家を出る前にもある程度話は済ませていましたから」


「そうか。お主がそれで良いと言うのであれば、妾からは何も言わんよ」


 シリア様はそう言うと、全員に聞こえるように声を張り上げました。


「全員集合せよ! これより、本作戦の最終目標を開始する!」


 その号令に応じ、皆さんがぞろぞろと私達の方へと集まります。

 まだ自力では動けないレナさんはフローリア様に背負われていましたが、先ほどまでよりはだいぶ顔色が良くなっているようでした。


「もう行くのねシリア?」


「うむ」


 シリア様に確認を取ったフローリア様は、私の前まで移動すると、私の頬を優しく撫でながら微笑みました。


「頑張ってねシルヴィちゃん。シルヴィちゃんなら、きっと上手くできるわ」


「ありがとうございます、フローリア様」


「ふふっ! 万が一何かあっても、シリアがどうとでもしてくれるから気楽にね!」


「阿呆。妾でもどうにもならんことはあるぞ」


「えー? じゃあ何とかしてあげないの?」


「どうにもならんものはどうにもならん。じゃが、何事もやりようはあるじゃろうよ」


「それって何とかしてあげるって言うのよ? もう、素直じゃないんだから~」


 クスクスと笑うフローリア様に、シリア様はツンとそっぽを向いています。

 いつもと変わらない様子に和やかな気持ちになっていると、シリア様が咳払いをしてから話し始めました。


「ここから先は、奴らの誘い通りに妾とシルヴィのみで乗り込む。して、ネフェリとエリアンテ、ラティス、リィンらには予定通り、シルヴィ敗北後の対応を任せる」


「“新世界計画”の認知改変に対抗する術式の展開、及び各地域での術式の維持。えぇ、分かっています」


「任せとけってシリア様、あとはあたし達で上手くやっておくからさ」


「正直少し休みたいところですけど、こればかりは私達のような大魔導士クラスじゃないとできませんからねぇ。任せてください!」


「リィンは確か、魔族領でしたね。大丈夫です、覚えていますとも」


「うむ。フローリア、お主は」


「もう、心配性なんだから~。発動された術式に対して、コーちゃんと一緒に神力で中和。可能な限り天界への影響を抑えることでしょ? 分かってるわよ」


 ご自身が担当される役割を復唱するフローリア様へ、シリア様は少し驚いた様子を見せましたが、やがてこくりと頷き返します。


「ソラリアの最終的な狙いが、妾達神々への復讐である以上、この策に乗じて何を仕掛けてくるかが分からん。天界以外でも、危険だと判断したら即座に対応に回れ。よいな?」


「はーい」


 間延びした返事にシリア様は深い溜息を吐きましたが、概ね問題は無いと判断されたようでした。

 シリア様は再度全員を見渡した後、私へ最終確認を取ってきます。


「……ここから先に進めば、お主は奴に囚われ、“新世界計画”の要としてその力を使われることになる。故に、今一度お主の覚悟を問うぞ、シルヴィ。お主は何故、己が身を賭してまで世界を護ろうとする? お主にとって、この世界は護るに値するものなのか?」


 私はその問いかけを、改めて自分に問いかけます。

 この先、私はソラリア様に敗北して捕まり、ソラリア様の思い描く世界のために使われることになります。

 その過程で死ぬことは無いと分かっているとは言え、私自身にどのような影響が出るのか。

 そして、私が私でいられるのかどうか。

 それすらも分からないまま、私を差し出して世界の崩壊を一時的に防ごうとしているのです。


 何がそこまで、私に世界を護ろうと思わせているのか。

 それは今まででも、何度も自問してきました。

 そして辿り着いた答えは――。


「私は、シリア様が連れ出してくださったこの世界が大好きです」


「エミリやティファニーがいて、メイナードがいて、レナさんとフローリア様がいる我が家が大好きです」


「森の皆さんや魔導連合の皆さん、魔族領の方々に人間領の方々と、私に関わってくださった皆さんも大好きです」


「だから私は、私の全部を賭けてでもこの世界を護ろうと思えたんです」


 そう。私が、この世界が大好きだから。

 私を愛してくれている皆さんがいる、この世界が大好きだから。

 皆さんと共に生きていける世界を護るためなら、私を犠牲にすることも厭わないと思えたのです。


 ――その先に、ソラリア様とも手を取りあえる未来もあると信じて。


 それはまだ口にしませんでしたが、私の決意を改めて確認したシリア様は、深く頷きました。


「……分かった。お主の覚悟に揺らぎが無いのならば、共に参ろうぞ」


「はい」


 私は皆さんへと向き直り、全員の姿をその目に焼き付けます。

 例え目が覚めることが無かったとしても、(まぶた)の裏でいつでも会えるようにと。


 優しい顔、安心させるようにいつも通り笑う顔、凛々しくも私を応援するかのように見つめる顔。

 そのどれもが私の大切な宝物で、私が護るべき人々です。


「行きましょう、シリア様」


「うむ」


「行ってきます」「行ってくる」


 私達は、揃って前へと踏み出します。

 それぞれがつけるべき、決着のために。

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