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812話 魔女様は家族と寄り添う

「あ! お姉ちゃんだ!!」


「お母様ー!!」


 私が近づいてくるや否や、二人は歓声を上げながら私に抱き着いて来ました。

 可愛い妹達を愛おしく撫でていると、ふとエミリだけあちこち汚れていることに気が付きました。


「エミリ、かなり汚れてしまっていますよ」


「え? わっ、ホントだ!」


 エミリの汚れを浄化魔法で落としていると、奥からのしのしとメイナードが歩み寄ってきます。


『エミリは元の姿に戻ってこそ本領を発揮できるからな。ドラゴン相手に大暴れした代償だ』


「なるほど。ではエミリは狼になって頑張ってくれていたのですね」


「うん! いっぱいドラゴン倒したよ!」


 満面の笑みで答えるエミリを抱きしめながら撫でまわします。

 私の妹はドラゴンすらも容易く倒せてしまう、強くて可愛い妹です!

 そんなエミリに嫉妬したのか、ティファニーが背中から抱き着きながら抗議の声を上げます。


「お母様! ティファニーも頑張りました! 倒した数もエミリに負けていません!」


「ふふっ、ではティファニーもたくさん撫でてあげましょう」


「きゃあ~!」


 ティファニーも抱きしめ、頬をすり合わせながらたくさん撫でてあげます。

 それに合わせてふわりと甘い香りが立ち昇り始め、ティファニーがとても喜んでいるのが嗅覚でも感じ取ることができました。


 きゃあきゃあと喜ぶ二人を撫でていると、メイナードが隣に立った気配を感じました。


「どうかしましたか、メイナード?」


『何がだ?』


「いえ、あなたが食事の時以外で私の傍に来るのも珍しいと思いまして」


『我をそこらの犬どもと同列に見ているのか?』


「そう言う訳ではありませんが……」


 ギロリと睨まれてしまいました。

 そのほかでメイナードが私の傍に来るようなことと言えば……。


「もしかして、メイナードも撫でて欲しかったのですか?」


『……』


「痛っ!?」


 無言で足蹴にされました!

 (くちばし)ではないだけよかったのかもしれませんが、彼に蹴られると言う経験が無かったせいで余計ショックです!


「もう、何だと言うのですか!」


『ふん……。愚鈍な元主に呆れ果てていただけだ』


「あなたの考えていることは時々本当に分かりません……」


『分かる必要などない。我は人間などよりも遥かに強く、知的な種族だからな』


 唐突に種族アピールをしてくるメイナード。

 度々こうして謎に威張ってくることがありますが、今日は脈絡が無さ過ぎて全く理解ができません。


 メイナードのことは無視して、可愛い妹達を愛で直し始めると、メイナードはぽつりと言葉を零しました。


『運命とは、分からないものだな』


「いきなりどうしたのですか?」


 メイナードの言葉に首を傾げる私達に目も向けず、彼は淡々と続けます。


『我らカースド・イーグルは常に戦いに身を置き、己が力の研鑽に生きる種族だ。強き相手を求め、命を賭して挑み、己が糧とする。敗れれば無論、死あるのみ。だが、群れる必要があるのは弱者のみと、常に己の力のみで戦い続けていた』


『しかし我は主と出会い、多くのことを学んだ。絶対的な力で民を率いる者もいれば、力がありながらも誇示することも無く、民に尽くす者もいる。そして、力を持つ者同士が集い、互いの研鑽に励む者もいる……。我の生きていた世界では、到底考えられない生き方だ』


「それはカースド・イーグルの生き方と、人間の生き方では大きく違っているからでは……」


『だからこそだ。我の生きていた世界でしか見られなかった己の運命は、真の運命のほんの一端に過ぎなかったのだとな』


 メイナードは私に顔を向け、言葉を続けます。


『我はこの先も、己の運命がどういう末路を迎えるか……いや、どのように進んでいくのかを見てみたい。そこには、我の想定外のことしか成さない主が必要なのだ』


 そこまで聞いて、初めて彼が言いたいことが分かったような気がしました。

 言葉にはしないものの、彼なりに私のことを心配してくれていたこと。

 自分の運命と言いながら、恐らくは私との未来を楽しみにしてくれていること。


 そして何よりも、“ここで私という主を失いたくない”という気持ちが表れていること。


 日頃から口数も少なく、私をそっと見守ることが多かった彼ならではの優しさに、私は自然と笑みがこぼれてしまいました。

 エミリ達から離れてそっと立ち上がった私は、自分よりずっと大きな彼の体に正面から抱き着きます。


「どんな時でも私を見守り続け、想定外のトラブルが起きてもその背中で受け止めてくれるあなたがいたから、私は広い世界を知ることができました。私にも、あなたという翼が必要です。それはこれから先も、ずっと変わることがありません」


『……あぁ』


「きっとあなたの背中が、囚われた私を乗せて連れ出してくれるのだと信じています。だってあなたは、私の最高の使い魔なのですから」


『無論だ』


「だから、そんな不安そうな顔をしないでください。エミリ達だって頑張って我慢してるんですから」


 彼を見上げ、安心させるように笑って見せます。

 すると、いつもと変わらないように見せて、心配の色が浮かんでいたメイナードの瞳がゆっくりと瞼に閉ざされ、次に開いた時には普段通りの凛とした目に戻っていました。


『……我も随分と弱くなったものだな』


「ふふっ。前に、シリア様がこう言っていましたよ? メイナードも随分と人間らしくなったと」


『我を同列に見るなと何度』


「私ではありません。シリア様がです」


 言葉を遮るように言った私に、メイナードは深く嘆息します。

 そんな彼をクスクスと笑っていると、私の額に彼の額が押し当てられました。


『主を迎えに行くのは、従者の務めだ。安心して待っているがいい』


「はい。待っていますよ、メイナード」


 メイナードの頬に手を当てながら、そっと額を当て続けます。

 彼がこうして額を寄せてくれたのは初めてですが、とても温かな気持ちになると同時に、この先の決戦に向けて不安が募っていた気持ちが安らいでいくのが分かります。

 この感覚の正体を気にし始めるよりも早く、メイナードは私からすっと離れていきました。


『シリア様が待ちくたびれているぞ。そろそろ行った方がいいだろう』


「そうですね。そろそろ行こうと思います」


 私は最後にもう一度、エミリ達を抱き寄せて二人の頭を優しく撫でます。


「行ってきますね。エミリ、ティファニー」


「うん、頑張ってねお姉ちゃん」


「お家のことはお任せください、お母様」


「ふふっ、頼りにしてますよ」


 ぎゅっと二人を強く抱きしめ、二人から離れます。

 最後に待っているシリア様の方へ振り向くと、シリア様は優しい顔つきでこちらを見守っていてくださっていました。


『行ってこい、主』


「行ってらっしゃい、お姉ちゃん!」


「行ってらっしゃいませ、お母様!」


「はい、行ってきます!」


 大切な家族に見送られ、私はシリア様の方へと歩きだしました。

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