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805話 魔女様は間に合わない

 巨大なドラゴンの注意を惹きながら立ち回っていると、急にドラゴンの挙動がおかしくなりました。

 先ほどまでは私しか狙わずに様々な攻撃を飛ばしてきていたのですが、こちらに対して攻撃をしなくなったと思ったら、顔の角度を変え始めたのです。


 まさか、ターゲットが私から移ってしまったのでしょうか!?

 だとすれば、一刻も早く注意を惹き直さないと皆さんが危険です!


 空中で金色の魔法陣を展開し、神力を発動させながら彼らを呼び出します。

 今回は空中戦という特殊な状況である以上、必要なのは遠距離攻撃が得意なメンバーです!


「我が想いよ、剣となりてここに形を成せ! 勇猛(ニャイツ)なる(・オブ・)猫騎士(ブレイブリー)!!」


「「ニャー!!」」


 私の召喚に応じ、杖と弓を構えた猫達が数匹現れ、同時にドラゴンに向けて攻撃を始めました。

 純粋な魔法による攻撃、支援魔法で弓に属性を付与した弓の雨などなど、持てうる限りの手段で攻撃を行う猫達に、一瞬ですがドラゴンの目がこちらを向いたような気がしました。


「さらに畳みかけてください!」


「ニャニャ!」


 出力を上げ、魔法の威力を上げる猫と、一点集中に切り替えて強烈な弓を放ち始める猫に、遂にドラゴンが顔をしかめます。

 効いてはいる。そう確信を得たのも束の間、ドラゴンは大きく口を開いてレーザーブレスの構えを取り始めました。


 ――こちらに向けてではなく、何故かドラゴンの群れを見上げながら棒立ちしていたエルフォニアさんに向けて、です。


「エルフォニアさん!!」


 フェアリーブーツに魔力を回し、一気に加速します。

 しかし、私が彼女の下に駆けつけるには、あまりにも距離があり過ぎます。

 彼女に気づいてもらおうと、何度も名前を呼びかけながら手を伸ばしますが、ここからでは私の声は届かないらしく、エルフォニアさんはやれやれと溜息を吐いていました。


 お願い、届いて……! このままでは、エルフォニアさんが!!

 焦燥感に駆られながら全速力で空を翔けますが、現実はあまりにも残酷で、私は無力だと思い知らされることになります。


 彼女が顔を上げてドラゴンに狙われていることに気が付いた瞬間、準備が整ったドラゴンがエルフォニアさんを目掛けてブレスを放ったのです。


「……っ!! エルフォニアさん!!!」


 レーザーに飲まれ、エルフォニアさんは影すら見えなくなりました。

 完全な不意打ちが決まってしまい、ドラゴンの背中まであとわずかと言ったところで、私は膝から崩れ落ちてしまいます。


 私がもっと上手く注意を惹けていたら、こんなことにはならなかったのに。

 有事の際を見越して、ドラゴンの背中に印を刻んでおけば転移できたのに。

 ディヴァイン・シールドを遠隔操作できるようになっていれば、あの攻撃も防げたのに。

 不慮の事態を想定していなかった私のせいで、彼女を守ることができなかった……。


 津波のように押し寄せてくる後悔に、私の涙腺が決壊し、ぼろぼろと大粒の涙が溢れ始めます。


「ごめんなさい……ごめんなさい……!」


 謝罪することすらできなくなってしまったエルフォニアさんに、ただただ泣き崩れることしかできません。


「エルフォニアさん……! ごめんなさい……!」


 彼女と出会った思い出が、走馬灯のように脳裏を駆けていきます。

 技練祭で、初めて全力をぶつけて戦った彼女はとても強く、冷徹な孤高の人でした。

 彼女が我が家に来るようになってからと言うもの、それは徐々に軟化していき、レナさんとの口喧嘩も楽しんでいるような節もありました。

 シリア様と魔法の研究について議論している時は、シリア様でも関心を示すほどに深い理解力と応用力を見せていました。

 不愛想ながらも面倒見のいいお姉さんとして、エミリ達に接してくれていたエルフォニアさんの話を聞くたび、彼女にもそんな一面があるのですねと笑ったこともありました。


 そんな彼女を失ってしまった絶望と、自分が犯してしまった過ちに押しつぶされそうになっていると。


「いたっ……! え……?」


 指先サイズの黒い球体が私の額に当てられました。

 膝の上に落ちたそれを拾い上げると、それが何なのかと理解すると同時に、勢いよくドラゴンの背中へと視線を移動させます。


『はぁっ……はぁ……。勝手に、殺さないで貰えるかしら……』


 そこには、全身を血塗れにしながらも、悪魔化した状態で耐えていたエルフォニアさんが立っていたのです!

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