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803話 暗影の魔女は対峙する 【エルフォニア視点】

「カラミティ・ストーム!!」


『ギャオオオオオオッ!!』


 エリアンテが放った風属性の最上級魔法が、周囲にいたドラゴンの群れを一掃する。

 だけど、流石はドラゴンと言ったところかしら。その一撃を耐える個体もいれば、竜巻から抜け出してこちらにブレスを吐こうとしている個体までいる。


 面倒極まりないわね。と溜息を吐きながらも、影で生み出した無数の剣を飛ばし、ブレスを吐こうと大口を開いていたドラゴン達の口の中に突き立てる。口から喉奥まで剣が突き刺さったドラゴン達は、痛みに悶え苦しみながら味方にブレスを当て始めた。


「エルフォニアさんすごーい!!」


「流石ですエルフォニアさん! では、ティファニーも!! ――セイクリッド・ブレードレイン!!」


 無邪気に喜ぶエミリの後ろから、ティファニーが光の剣を出現させてトドメを刺していく。

 ……本当に、桁違いの火力だわ。これでシルヴィ(あの子)の五分の一程度しか魔力が無いと言うのが、未だに信じられないくらい。

 何もかもが全部終わって、シルヴィの制約が無くなった暁には、彼女の本気の攻撃を見てみたいものね。そんなことを考えながら眺めていると、遂にエリアンテが膝を突いた。


「ごめん……! もう、厳しいかも……!」


「よいよい。あとは妾達が引き受ける、お主は休んでおれ」


 顔色を悪くしていたエリアンテに、シリア様がマジックポーションを投げて渡した。

 それを受け取り、一気に喉へ流し込んだエリアンテは、「ぷは~! 生き返るぅ!」と感想を零す。

 範囲火力に優れているのがエリアンテだったからと言って、あれだけの魔法を十発も連続で撃てば魔力も枯渇する。無理もない話だわ。


「シリア様ー、こっちもいい感じに回収できてますよー! もちろん、リィン自身もいい感じに昂ってますけど!!」


「そこで一人で慰めておれ。こっちに近寄るでないぞ」


「そんなぁ!? いいんですかシリア様!? そんなことを言うなら、リィンはドラゴンを使って火照りを解消し始めますよ!?」


「貴様はドラゴンも性欲の対象なのか……?」


 シリア様が心底引いた様子で、後方に控えていたリィン様に呆れて見せる。

 エミリとティファニーが戦いに集中しているからか、もしくは性に関する知識がないからかは分からないけれど、この話に反応を示さないのが何よりの救いね。

 私個人としても聞いていて気分のいいものではないけれど、この局面ではリィン様がいなければどうなっていたか分からない以上、ある程度彼女の好きにさせるべきでしょう。


 深く溜息を吐き、彼女が回収できたというドラゴン達へ視線を向ける。

 もうどれだけ倒したか分からないほどの数になっていたドラゴン達は、リィン様の魔法によって無理やり生き返らせられ、彼女の手駒として再び戦わされていた。

 死という概念をも支配する魔法に感嘆するべきか、死者への冒涜として認めないべきかなど、とうに考えなくなった。それほどまでに、死が転がっている状況におけるリィン様という戦力は凄まじかったのだから。


 改めて今の戦況を見直しているところへ、鋭いレーザーが撃ち込まれてきた。

 影の剣を振り抜いてそれを弾き、不意打ちを狙って来た人物を横目で捕らえる。


「ふむ。今代は大型新人が多いとは聞き及んでいたが、かくも優れた魔女だったとはな。近年稀に見る才能の持ち主だ」


「高く買ってもらえて光栄だわ。――ベルガモンド・ヴェーデリッヒ」


 今の一撃を防ぐ代償として、剣の形を保てなくなった影を粒子に戻しながら、彼の名を呼ぶ。

 私に名を呼ばれた彼は、風で乱れた銀の前髪を整え、彼が羽織っているコートと同色である紫の瞳を細めた。


「君ほどの魔女を殺すには、些か惜しいな。どうだろうか、私と共に」


 それ以上は言わせなかった。

 彼の髪を数本舞い散らせながら頬を浅く切り裂いた影の剣を見送り、ベルガモンドは小さく息を吐く。


「……随分と血の気が多いことだ。柑橘類はいかがかね? 柑橘類に含まれる成分は、血気盛んな人間に与えると鎮静化させることができると言うデータもあるが」


「結構よ。別に日頃から血の気が多い訳では無いもの」


「となれば、私の言葉が気に入らなかったのかな。どうやら君は、よほど魔術師を嫌っているように見える。死ぬ前に話すつもりは無いかね?」


「無いわ」


「そうか。いやはや、残念だよ。相互理解にはまず、言葉を交わすべきであると考えてはいるのだが……」


 何をふざけたことを。

 そう考えた次の瞬間、私の心臓が大きく脈を打った。

 それと同時に、思考が急激に重くなっていく。


「……いきなり洗脳を仕掛けておきながら、よくも相互理解だなんて言えたわね」


 何とか対処が間に合い、荒い呼吸を繰り返しながらも悪態を吐いた私に、ベルガモンドは興味深そうに頷く。


「何、理解を得るには言葉は必要だが、意思が必要という訳でもない。私は君の意思を尊重したまでだ」


「清々しいまでに研究者の考え方だわ。これだから大魔導士になりたがる堅物は話したくないのよ」


 そうは言いつつも、昔は自分もそちら側の人間だったはずと自虐気味に笑い飛ばす。

 シルヴィ達と関わるようになってからというもの、私も随分と丸くなったものね。血が通っていないだのなんだのと怖がられていた頃が懐かしいわ。


「すまぬエルフォニア! 無事か!?」


「えぇ、挨拶がてらに一発洗脳を仕掛けられた程度よ」


「それは無事とは言わんのじゃが、まぁよい」


 ベルガモンドの出現に駆けつけて来たシリア様が、鋭い目つきで彼を睨みつける。


「貴様がベルガモンドか。己が力に酔い、魔導を踏み外した外道め」


「その口調、その外見。なるほど、こちらが始祖シリア様か。これはお初にお目にかかる。私もまた、あなたのような偉大な魔導士を目指していた物だ」


「よくもまぁ抜け抜けと言えたものじゃな。貴様のような器が、妾に並べるはずが無かろう」


「至極正論だな。だがそれは、あくまでもあなたが歩んできた道の上での基準だ。離反したとは言え、私も魔導を極めると言うことに関しては同じ理念なのでね」


 ベルガモンドは魔法陣を複数展開させる。それに合わせ、私とシリア様も杖を構えた。


「ならば見せてみよ。貴様の魔導が世を照らせるかどうか、妾が見定めてやろう」


「シリア様。私も援護するわ」


「うむ。――ゆくぞ!!」

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