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800話 異世界人は困惑する 【レナ視点】

「よかったぁ~! メイナードくん、ばっちり間に合ったみたいよ!」


 歓喜の声を上げるフローリアに、あたしはほっと胸を撫で下ろした。

 これでこっちも、気兼ねなく戦えるってものよね。


 あたしは拳を構えなおしつつ、ドラゴンの背に跨っているロジャーを睨みつける。

 ロジャーはそんなあたしに、わざと怖がるそぶりを見せて来た。


「そんなに睨まないでよレナちゃん。せっかくの可愛い顔が台無しだとは思わない?」


「そうよレナちゃん! スマイル、スマーイル!」


「フローリアは黙ってて!」


「えぇー!?」


「全く……。なら可愛いあたしに免じて、抵抗しないでぶっ飛ばされてくれない?」


「それは困るなぁ。一応これも仕事だし、僕も手ぶらで帰る訳にはいかないんだよ。それに……」


「それに、何よ」


 微妙な間を開けようとするロジャーを急かすと、アイツは真剣な表情であたしを見据えて来た。


「なんかよく分からないけど、うちのボスがレナちゃんに興味を持ってるんだ。だから、レナちゃんこそ魔女を辞めてこっちに来てくれないかな?」


「は?」


 言ってる意味が分からない。

 何で魔法も満足に使えないあたしに興味を持ってるわけ?

 唯一可能性があるとすれば、あたしのこの理外の力って言う“魔力反転”だとは思うけど、今さら目を付けてくる理由なんてあるのかな?


 何にせよ、あたしがシルヴィ達を裏切る理由は見つからないわ。


「お断りよ。あんた達にいくら必要とされようとも、あたしは絶対に友達を裏切らない」


「まぁそうなるよねぇ。レナちゃんってば、本当にシルヴィちゃんのことが大好きだもんね」


 その言い方にイラっと来て、つい殴り掛かってしまう。

 だけどそれはドラゴンが放ったブレスによって妨げられた。


「短気は損気って言うだろレナちゃん? 最後の話せる機会なんだし、お互いに知りたい情報を引き出しあおうよ」


「必要無いわ。あったとしても、あんたをぶっ飛ばして捕まえてからよ!」


「つれないなぁ。でも僕は、魔術師と魔女と言う関係を抜きにして、キミのことがもっと知りたいんだ。何故キミは、魔法のような魔法ではない力を使えるのか。何故キミは、そこの女神様から加護を受けているのか。何故キミは――いや、キミのようなこの世界の住人ではない人間が、魔法を使えるのかってね」


 ロジャーが放ったその言葉に、あたしは体の奥からゾクリと震えた。

 こいつ……間違いない。あたしが異世界人だってことを知ってる!!


「その反応を見るに、どうやら僕の考えは当たっていたようだね。キミは本当にこの世界の人ではなく、別の世界から来た人なんだ」


「……だったら、何だって言うのよ」


「いやいや、僅かだけど僕の心が晴れただけさ。異世界から来た人間だから、僕達の理解が追いつかない謎の力を使える。その確証が得られただけでも、完璧の罠をことごとく壊された僕の尊厳が守られたってわけさ」


「前も言ったけど、あんたの腕が落ちただけでしょ。あたしが使う力と関係無いわ」


「それがそうでもないんだって。僕が使う罠はね? 魔女を捕らえて絶対に逃がさない特別仕様なんだよ。それは何故か? 答えは簡単さ」


 ロジャーは懐からロープを取り出すと、それをあたしの方に放り投げて来た。

 つい反射的に受け取ったそれに視線を落とすと、そのロープはただの荒縄ではなく、“魔術刻印”が模様のように刻まれているのが分かった。


「魔術刻印!!」


「正解。だから、並の魔女が使う魔法なんかじゃ絶対に壊すこともできないし、抜け出すこともできない。それこそ、彼女達のような大魔導士クラスが全力を出してようやくってところじゃないかな」


 アイツの視線の先には、空中という状況下でも縦横無尽に剣を振り回している団長さんと、生粋の錬金術に若干戸惑いながらも、そろそろ形勢を逆転しそうなネフェリさんがいた。


「あたしが神力を使えるって線は無かったの?」


「もちろん考えた。そこの女神様は何を隠そう、あの名高き【(とき)の女神】フローリア様だ。その彼女が力を貸しているんだから、キミ自身も神力を扱えるのではないかってね。でも、キミは神力を使えなかった。よく考えたら簡単な話だろう? キミはこの世界の神々とは、本来は無関係な存在なんだから」


 ……本当にコイツ、頭も口もよく回るわ。

 あたしもシルヴィと出会ってしばらくしてから、フローリアに神力を使わせて欲しいって頼んでみたことがあった。フローリアは悩みながらも試させてくれたけど、アイツの言う通り、あたしには神力を使うこともできなければ感じ取ることすら叶わなかった。


「でもそうなると、あの力の正体が謎に包まれる。魔法ではない。神力でもない。純粋な筋力だけでどうにかなる代物でもない。そう考えれば、残されるのは“この世界には存在していない力”だ。それが使えると言う事は、キミ自身がこの世界の人間では無いと言う証明になる……。どうかな?」


「半分正解、ってところよ。あたしがこの世界の人間じゃないのはその通り」


「へぇ、なら残りの半分は何だって言うんだい?」


 あたしはこれ見よがしに、ロジャーを挑発することにした。


「これはれっきとした魔法よ。偉大な【魔の女神】様が制定して存在ごと消された禁術らしいけど、魔法の一種なの。それも分からないなんて、敵に対して研究が足りてないんじゃない?」


「へぇ、それは魔法なのか! これは驚いたな、僕もまだまだ研究不足みたいだ」


 でもロジャーには大して効いてなかったらしく、茶目っ気を出しながら自虐された。

 ホント、どこまで行ってもムカツク奴だわ……。とか考えていると、表情を改めたロジャーがあたしに手を差し伸べてきて。


「どうかな、レナちゃん。僕と一緒に逃げないかい? キミのような子をボスに引き渡して、失わせるのは勿体なさ過ぎるんだ」


「……はぁ!?」


 駆け落ちの誘いめいた言葉を、あたしに投げて来た。

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