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797話 騎士団長は推測する

 とても立っていられないほどの地面の揺れに危機感を覚え、フェアリーブーツを発動させて空へと逃げると、ほぼ同じタイミングで皆さんも上空へと逃げてきました。

 咄嗟に自分だけ逃げてしまったことを後悔し、エミリ達の姿を探しますが、彼女達はメイナードの背中に乗って避難することができていたようで、メイナードの背中の上で耳を塞いで蹲っているのが見えました。


「何!? 何なの今の!?」


「何ですかレナさん!?」


 少し離れたところからレナさんが何かを尋ねてきているようですが、先ほどから続いている咆哮に耳がやられてしまわないように塞いでいるため、上手く聞き取れません。

 恐らく何が起きたかについて確認したかったのだとは思いますが、それを聞かれても私が分かるはずがありません。


 そんな中、私の隣に並んだシリア様が念話で呼びかけてきました。


『見よシルヴィ! 大地が(うごめ)いておる!!』


『蠢く……!?』


 シリア様の言葉の意味が理解できないまま、先ほどまで戦っていた場所へと視線を戻すと、言葉通りの意味で地面が蠢いているではありませんか!

 いえ、先ほどの場所だけではありません。上空から見るとよく分かるのですが、このオルゲニシア山脈そのものが大きく揺れ動いているのです!


『シリア様! こんなことがあり得るのですか!?』


『あり得る訳が無かろう! 妾の土魔法でも不可能じゃ!!』


『では、これは一体どういうことでしょうか!?』


『恐らくですが、この山脈そのものがダンジョンだったのではないでしょうか』


 唐突に念話に混ざって来たラティスさんの声に、私達は同時に振り返ります。

 ゆっくりと私達と同じ高度に降りて来た彼女は、顎先を摘まみながら言葉を続けました。


『考えてみてください。この世界にはドラゴンと呼ばれる種族はほぼ存在しておらず、いたとしてもダンジョンの奥深くのみと言われていました。それなのに、私達の前にこうしてドラゴンが二体も姿を見せている……。単純に考えれば、この山脈が彼らの縄張りであり、私達が知らなかっただけという可能性もありますが、それだけでは説明が付かない点があります』


『何のことじゃ』


『リィンが引き連れて来た死者です』


 ラティスさんは、ある一点を指で示しました。

 そこには、術者が空へと逃げたことで使役範囲から外れ、再び土へと帰っていく死者の軍勢がありました。


『いくら標高の高い山脈であるとは言え、あそこまで死者が出ていれば、登山禁止令などが敷かれるでしょう。しかし、そんな話は一度も出たことがありません。そして、ここがダンジョンだったとすれば、多くの冒険者が訪れるはずですが、冒険者がここを踏破しようとしている話もまた、聞いたことがありません』


『それは、魔術師の方々の拠点だったから、彼らが結界か何かで立ち入りを禁じていたのではないのでしょうか?』


『そう考えることもできるでしょう。では逆に問いますが、魔術師だけであれほどの死者を生み出せると思いますか?』


『……いや、その線は無いじゃろう。元より魔術師は、魔女に比べて絶対数が少ない。あれほどの死者ともなれば、魔導連合に所属する魔女の半数以上を殺していることになろう』


『その通りです。では、あの死者はどこから来たか? という疑問に行きつきますが――』


 ラティスさんは続けて、指先で一点を示します。

 そこに私達が視線を移した瞬間、私達の視界に入って来たそれに驚きを隠すことができませんでした。


『なっ――』


『何ですか、あれは……!?』


 全てを飲み込むような漆黒の渦が、ひび割れた山の間から顔を覗かせていたのです。

 魔力視を用いて注意深く見てみると、それは亜空間転移と近い性質を持っているようにも感じられました。


『自然が生んだ、空間の亀裂です。恐らくですが、あそこから各地に点在するダンジョンと繋がっているのでしょう』


『バカな!? ではプラーナらは、ダンジョンを本拠点としていたと言う事か!?』


『リィンが拠点としていたところを除いて、そうなるでしょうね』


『待ってください! ではリィンさんが呼び出した死者の魂は――』


『あの亀裂を通して呼び出された、各地のダンジョンで命を落とした冒険者でしょう』


 ラティスさんの答えが受け入れられず、土へと還っていく死者へと視線を戻します。

 ですが、その死体を見れば見るほど、フェティルアやカイナなどで見た冒険者達の服装に似ている気がしてしまい、それが真実であると認める外ありませんでした。


 あの穴から、各地のダンジョンに繋がっている。

 そう仮定すると、ダンジョン内にしかドラゴンが生息していなかったという話も筋が通る気がします。

 さらに、今思い返せば、魔術師の方々がフェティルアを襲った際に大暴れしていたあの大蛇――バジリスクをどこで管理されていたのかという疑問も、これで晴れることになります。

 ダンジョン内であれば、何が生息していてもおかしくはない。太古からあるその共通認識を逆手に取り、彼らはダンジョン内で研究をしていたのでしょう。


『ではラティスよ。プラーナらは、あの先にいると言う事じゃな?』


『いえ、彼女達ならあそこです』


 そう言うと、ラティスさんは一点を鋭く睨むように見据えました。

 その視線の先――オルゲニシア山脈の山頂には、私達を見下ろしている小さな影が二つあります。

 あの独特な嫌な感覚は間違いありません。魔術師の統率者プラーナさんと、【夢幻の女神】ソラリア様です。


 私達をじっと見下ろす彼女達が、何かを仕掛けてくる気配は今のところ無さそうですが、高所を位置取られている以上、警戒を怠ることはできません。

 この先戦うことになるお二人を見返していると、徐々に咆哮が収まっていくのが分かりました。


 しかし、その咆哮と揺れ動く大地はほんの始まりに過ぎなかったことを、私達は知ることになるのです。


「な、何よ、あれ……」


 驚愕と混乱に満ちた声色で、レナさんがそう呟くのも無理はないでしょう。



 私達が先ほどまで戦っていた場所は、切り崩された山の斜面などではなく――オルゲニシア山脈に巻き付くように眠っていた、ドラゴンの背中だったのですから。

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