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793話 魔女様達は覚悟する

 ユリアナさんとライゼットさんが出て行ってから、既に三十分が経過しています。

 これだけ待っても戻ってこないと言う事は、概ねお二人は魔術師側へ戻っていってしまったと言う事でしょう。


 いよいよ、覚悟を決めないといけないのかもしれません。

 そう考えていたのは私だけでは無かったらしく、レナさんやフローリア様を始め、この場にいる全員が暗い表情ではあるものの、どこか決断を下した目をしていました。


「……時間だ。敵対したとみなしていいですね? ラティス様」


「えぇ、残念ですがそう見る外無いでしょう」


 拠点の整備を終えたアーデルハイトさんも合流し、遂に最終判断が下されてしまいました。

 できることなら、ユリアナさん達とは良好の関係を築いたまま先に進みたかったのですが、彼女達も自身の家族を人質に取られてしまっている以上、仕方がないと割り切るしかありません。


 あまり気乗りしない私達の意識を惹くべく、アーデルハイトさんが机をノックするように数度叩きました。


「今話した通り、これまで捕虜となっていた【流星】のユリアナ、及び【夜刃】のライゼットが再び敵対することになった。よって、第五拠点では【罠士】ロジャーを含め、魔術五指の三名との戦闘となる。この戦闘を買って出たい者はいるか?」


 その問いに対し、真っ先に手を挙げた人がいました。


「あたしが行くわ。【罠士】ロジャーは、あたしが倒す」


「そうか。他に希望者がいなければ、【罠士】ロジャーは【桜花の魔女】に一任する」


 アーデルハイトさんの確認に対し、誰も反応を示しません。

 それを見た彼は頷きながら、レナさんへ言います。


「なら、お前に任せよう。サポートが必要なら適切な人選を行ってくれ」


「ならフローリアを連れて行かせて。アイツをぶっ飛ばしたいのはフローリアもだから」


「え、私は別にそこまででもな――あ、あぁ~そうね! 私もなんだか、戦いたい気分だわ~!」


 恐らく“そこまででもない”と言おうとしたのだと思われますが、レナさんが有無を言わせない目力を飛ばしてきたことで遮られていました。

 何とも言えない表情でそれを承認したアーデルハイトさんは、続けて私達に問いかけてきます。


「では次だ。【流星】のユリアナと【夜刃】のライゼットだが、立候補者はいるか?」


「なら、私がライゼットに行くわ」


 そう言いながら立ち上がったのは、エルフォニアさんでした。


「それは構わないが、殺さずに無力化させることが最優先だ。お前に出来るか?」


「努力はするわ。でも、ここは戦場よ。敵に情けを掛けて自分が殺されるようなことになるくらいなら、私は容赦は出来ないわ」


「……いいだろう。なら、お前の補佐は」


「あたしが行ってやるよ」


 ドアが開かれたと同時に聞こえて来たその声に、私達全員が振り返ります。

 そこには、にぃっと笑っているネフェリさんが立っていました。


「【常闇(とこやみ)の魔女】、何故お前がここにいる。お前には退路確保のためにと、第一と第二拠点周囲の安全の確保を任せていたはずだが?」


「んなもん、とっくに終わって暇してたんだよ。第一と第二は後方部隊の外にもセリがいるし、第三はリィン様がいるから、あたしがいたところで過剰戦力だろ」


「過剰かどうかを判断するのはお前ではないと言ったはずだろう! 未だに正体を現さない【傀儡師(くぐつし)】が、どこに潜んでいるかも分からないんだぞ!?」


「どこから出てこようと大した相手にはならないだろって。万が一何かあったとしても、テレポーターを置いてるんだからすぐに駆け付けられるさ。だから、な?」


 いたずらっ子のように笑って見せるネフェリさんに、アーデルハイトさんは深く溜息を吐きながら額を押さえました。

 アーデルハイトさんの心労は少しだけ理解できますが、ネフェリさんのような自由奔放な方に待機を命じるのも無理があったのかもしれません。


 ケラケラと笑うネフェリさんに苦笑していると、ふとアーデルハイトさんが口にした単語が気になりました。確か、【傀儡師】でしたか。


「エルフォニアさん。【傀儡師】という方も、魔術五指の一人なのでしょうか」


 私が質問すると、エルフォニアさんは何故か冷たい目でこちらを見下ろしてきました。

 ……いえ、違います。これはきっと、“そんなことも知らないで戦いに来ていたのかしら”と、呆れと侮蔑が入り混じった物です!


 罪悪感に体を小さくしながらも回答を待っていると、彼女は溜息を吐きながらも教えてくれました。


「【傀儡師】ベルガモンド。魔術五指の中でも頭一つ抜けた戦力を持つ魔術師よ。主な戦い方はその肩書き通り、強力な魔獣を使役したり、時には人間すらも操ると聞いているわ」


「つまり、洗脳系の魔術の使い手ということでしょうか」


「洗脳かどうかはわからないけれど、概ねそう考えて良さそうね」


「その説明に付け足すとすれば、彼は元大魔導士です」


「「えっ!?」」


 ラティスさんからの補足に、私とレナさんの声が綺麗に重なりました。

 大魔導士と言えば、魔導連合の中でもトップクラスの魔法を操る方々であり、そのいずれもが偉大な魔法使いとして肖像画が作られるほどだったはずです。


「ラティス様の言う通りだ。ベルガモンドは元々、【誘滅(ゆうめつ)の魔導士】として魔導連合に所属していたが、ある時を境に我々の下から去り、魔術師に与するようになっていた」


「他者を操り支配する必要がないこの平和な時代において、彼の持つ洗脳魔法はあまりにも強大過ぎたため、魔導連合で縛るしかありませんでした。その抑圧に耐えられなくなり、魔導連合ではなく魔術結社を選んだのです」


「じゃ、じゃあ、プラーナ以外にも魔法が使える魔術師がいるってこと?」


「その通りです。それも、最上級の洗脳を用いてくる相手です」


 正直に言えば、特訓したとはいえ完全に洗脳を防げるかどうか、自信がありません。

 こんな敵地の中心で洗脳され、味方同士で戦わされるなんてことにならないよう、最大限警戒しないと……と気を引き締めていると、アーデルハイトさんのウィズナビが着信を報せる子猫の鳴き声を上げました。


「私だ」


『あぁ、総長様!! 申し訳ございません! (わたくし)、もうどうしたらいいか分かりません!!』


「落ち着け【豊穣(ほうじょう)の魔女】。お前が取り乱すなんて珍しいとは思うが、まずは状況を――」


 通話の相手はセリさんのようですが、どうやらパニックを起こすほどの切羽詰まった状況であるようです。

 一体何が起きているのでしょうか。と、アーデルハイトさんの問いかけに対する回答を待っていると。



『ドラゴンが! ドラゴンが襲来して拠点を破壊し、仲間たちを連れ去っていきました!!』



 私達が予想もしない奇襲に見舞われていたことを、明らかにするのでした。

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