番外編 女神様のぶらり異世界旅行
ブクマ100件突破記念で、フローリアによる地球旅行を書き下ろしました!
今後も時々書くかもしれません。今回は、レナにお米を買いに行った時のお話です。
はぁ~い! いつもみんなに愛されてる女神、フローリアですっ♪
今日はレナちゃんが「お米が食べたい」って嘆いてたから、大神様に見つからないようにこっそりと異世界――地球に来てるわ!
今日遊びに……じゃなかった、買い物に来たのは「キョート」って言う街。レナちゃんと会ったのがこの街だったから、なんだか懐かしさも感じちゃう。レナちゃんがナンパされてた時のことを思い出しながら、ぶらぶらとお米の原料を探しながら街の雰囲気も楽しんでいると、可愛らしい服を着た女の子が馬車じゃなくて人が引いている乗り物に乗って、私の横を通り抜けて行った。
やっぱり、私達が暮らしてる世界とは全然文化が違うから目移ろいするわね。ガラスで出来ているような四角い建物なんてお日様に照らされてキラキラしてるし、少し離れたところにあったシルヴィちゃんの家に似た木造の建物は、ちょっと神聖さもあるし。
この世界の神様とか祭られてたりして? とか考えながら散策していると、道行く人達から視線を感じるような気がしてきた。ちらっと見てくる人もいれば、私を見ながら話してる人もいるみたい。
そんなに見つめられると照れちゃうわねーとも思うけど、男の人にじろじろ見られるのは好きじゃないし、あまり目立っちゃうとこっちの神様に怒られちゃうかもしれないから場所を変えることにする。
いつものように光に溶けて姿を消すと、「き、消えた!?」「なんだ今の! 幽霊!?」とかざわざわし始めちゃった。まぁきっと、すぐに忘れてくれるわよね! ポジティブポジティブ♪
いっそのこと、空の旅に切り替えて観光しようかしらと思っていると、ちょっと先の細道で誰かを探してるような女の人を二人見つけた。歳は二十代後半くらいかしら。あの服は確か、スーツって名前だったっけ。まだまだ若くて美味しそうだけど、ちょっと食べるかどうか考えられなさそうな雰囲気ね。
でもなんだか困ってそうだし、たまには人助けして善行を積みましょうか! なんとなくだけど、手伝ってあげればいいことありそうな気がするしね。
「はぁ~い! 何か困りごとかしら?」
「だ、誰!?」
……そんなに警戒しなくたっていいじゃない。目の前にこんな美人な女神様が出てきただけなのに。
「誰……そうねぇ、通りすがりの女神様?」
「は、はぁ……?」
「相手にするな。こんなのを相手にするより、早く主様を見つけないと」
「こんなのって失礼ね。で、あなた達はその主様っていう人を探してるのかしら?」
「……あなたには関係の無いことだ。失礼する」
せっかく手伝ってあげようとか思ったのに、二人は私を無視してどこかへ走って行く。レナちゃんも言ってたけど、ホントにこっちの世界の人って他人に冷たいわね~。
まぁいいわ。私もお買い物しないといけないし、レナちゃん達が待ってるからぱぱっと済ませちゃわないとね!
再び姿を消して街を歩き続けると、他の建物とは比べ物にならないくらい、大きな建物が見えてきた。あそこは何かしら?
読めない地球文字を、ちょこっとだけ神力を使って読んでみる。えーっと……“ミオンモール”? 変な名前の建物ね。
でも、楽しそうにして入って行く人が多いし、きっと楽しい場所に違いないわ! 早速中に入ってみましょ!
ミオンモールの中は、沢山のお店がひとつの建物の中に集まってる広い建物のようね。あちこちで色んな物が売ってるみたいだし、ここならレナちゃん達に持ち帰る用のお土産が見つかりそうだわ!
可愛い服や美味しそうな匂いにどんどん楽しくなって来ちゃって、気が付けば前を見てなかったせいで何かにぶつかった気がした。私は何ともなかったけど、目の前に素敵なお鬚のおじ様が尻もちをついている。頭にタオルを巻いていて、服も真っ白なローブを着てるおじ様。お風呂上りだったのかしら?
とりあえず姿を見せて、謝っておかないとね。
「ごめんなさい、前を見てなかったもので」
「いや、私こそよそ見を……」
おじ様は私が差し伸べた手を取ろうとしたけど、私の顔をじっと見るばかりでなかなか立ち上がろうとしてくれない。
やがて、そのおじ様は私を見ながらポツリと零した。
「女神様だ……」
「あら? よく分かったわね~。私は【刻の女神】フローリアって言うの。怪我は無いかしら?」
「は、はいっ。私こそ、女神様に無礼を働いてしまい申し訳ございませんでした!」
おじ様は急に立ち上がると、私に深々と頭を下げてきた。うーん、私の教徒の子にはこういう子はいなかったと思うけど、こっちの世界でも私を崇めてる宗教があるのかしら?
ともあれ、いつまでも謝られちゃうとちょっと目立っちゃうから、何とかしないとね。
「ふふっ、大丈夫よ。頭を上げて?」
私の言葉に、恐縮しながらも頭を上げ、何かを伺うような顔をするおじ様。これはあれね、うちの教徒の子達がたまにやってる「お詫びに何をしたらいいですか」の顔だわ。
私がぶつかっちゃったんだからおじ様は何も悪くないけど、せっかく女神だって分かってくれてるんだし、ちょっとだけ案内してもらおうかしら。
「私、ここに来るのは初めてなのよ。お米を探してるんだけど、売ってる場所知らないかしら?」
「オコメ……。あぁ、ライスですか! 分かりますよ、ご案内させてください!」
「ふふ! ありがとう!」
彼についていくと、いろんなお米が並んでいるお店を紹介してもらえた。
どれが良いか分からないけど種類までは聞いてないし、お米であればきっとレナちゃんに喜んでもらえるわよね!
どれにしようか物色していた私に、お髭のおじ様が恐る恐る尋ねてきた。
「あ、あの、女神様。その、お金は持ってきておられますか? この世界では、買い物する時はお金が必要なのですが……」
「お金? ……あぁー!?」
そうだわ! シルヴィちゃんが持ってたお金をちょっと借りてきちゃったけど、こっちじゃ全然違うお金なんだっけ!?
どうしよう、これじゃ買い物ができないわ!! と慌てていると、おじ様が紳士的な顔になって言葉を続けてくる。
「女神様、よろしければ私にお支払いさせていただけないでしょうか。私、石油王というものでして、お金は沢山あるのです」
「あら、嬉しいわ! ……って言いたいところだけど、私はあなたの信仰してる神様じゃないかもしれないわよ? 見返りは無いけどいいの?」
「はい。長い人生の中、こうして女神様にお会いできただけで私には過ぎた幸せです。ですのでどうか、女神様が欲するものを私からの贈り物とさせていただけませんか」
「……ふふっ! 素敵だわセキユオーさん! じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかしら!」
「お任せください。では、どちらをお買い求めされますか?」
せっかくだし彼の好意に甘えることにして、とりあえず名前が可愛かった“こしぴかり”と“いつつぼし”ってお米を二袋買ってもらおうかしら。セキユオーさんはそれを会計するところへ持って行くと、お金じゃなくて黒いカードをお店の人に渡していた。
「それがこの世界のお金なの?」
「いえ、これは特殊でして。このカードで支払いをすると、私の口座から買った代金を引いてくれるのです」
「へぇ~。不思議なお金のやり取りをするのね~」
「お金を持ち歩かなくていいというのは、大きなメリットですよ。……お待たせしました女神様、こちらがオコメです」
「ありがとう、セキユオーさん」
彼から受け取ったお米を亜空間収納へ放り込むと、お店の人にぎょっとした顔をされた。そうだわ、こっちの世界だと魔法の存在は秘匿されてるんだったかしら。
「ふふ! どうかしら、私の手品。すごいでしょ!」
呆然とする店員さんに誤魔化して、変なこと聞かれるのも嫌だからささっとお店から出ることにする。
セキユオーさんは、私の後に続きながら声を掛けてきた。
「女神様。もし他にも何か気になるものがあれば、女神様へ贈らせていただけませんか?」
「えぇ? 気になるのは色々あるけど、買ってもらってばかりって言うのは気が引けちゃうわ」
「では、買い物が終わった後で私と食事をしていただけませんか。こうして女神様とお会いできただけでも十分なのですが、思い出を増やしておきたいものでして」
うーん。ご飯を一緒に食べてあげるだけでお礼になるなら、私は構わないわね。どうせいっぱい食べても世界渡りでエネルギー使うから、シルヴィちゃんのお昼ご飯は食べられると思うし。
「それじゃあ、あなたの好意に甘えようかしら! 女神と食べるご飯、楽しみにしててね!」
「ありがとうございます……!! では早速、女神様の気になったものを買いに参りましょう!」
その後、今の服だと目立つからと服をコーディネートしてもらって、シルヴィちゃん達が寝てる間にこっそり調べておいたスリーサイズから選んだ服やお目当ての“いね”をこれでもか! ってくらい色々買ってもらってから、フードコートと呼ばれるお店で楽しくお話ししながらご飯をご馳走してもらっちゃった。“はんばーがー”って料理がすっごい美味しかったから、帰ったらシルヴィちゃんに作れないか聞いてみましょっか。
せっかくだからお土産もいかがですかと提案されたから、試食しながらあれこれ選んで買ってもらっていると、聞き覚えのある女性の声が聞こえたような気がした。
「主様!! こちらにいらっしゃいましたか!」
お菓子を口にしながら振り向くと、私を無視して走っていった二人がセキユオーさんに膝をついて申し訳なさそうな顔をしていた。あの人達が探してた人はセキユオーさんだったのね~。
「突然いなくなられたので探しました……! ご無事で何よりです」
「警護の任を受けていたにも関わらず申し訳――ってあれ、あなたは通りすがりの女神様?」
「何故あなたが主様と……。まさか、主様に無礼を働いたのではなかろうな!?」
食べてる最中だったから笑顔で手だけ振って応じると、何故かセキユオーさんが厳しい声で二人を怒り始めた。
「お前達! 女神様に何という失礼なことを言うんだ! 謝りなさい、今すぐに!!」
「は、はい! 申し訳、ございませんでした……」
「申し訳ございません……」
別に怒ってないから謝ってもらうことなんて無いんだけど。
でも私が気にしないで~って言ったら、セキユオーさんの面目が立たなくなっちゃうから黙っておこうかしら。
「大変申し訳ございません女神様。この者共は、帰国次第油田に埋めておきますので……」
セキユオーさんの言葉に、ビクッと体を震わせて青ざめさせる二人。
ちょっとそそるけど、可愛い子が死んじゃうのは私のポリシー的にダメね。
「それは可哀そうだから、家に帰ったらとびきり可愛い給仕服を着せて、一日お給仕の罰にしてあげて?」
「分かりました。早速手配させます」
セキユオーさんは彼女達に命令を出すと、二人は短く返事をして急いでどこかに走って行っちゃった。護衛の人って大変ね。
さて、私も欲しかったものは揃ったし、そろそろ帰らないとね。
「今日は色々買ってもらっちゃってありがとう、セキユオーさん。楽しかったわ!」
「い、いえいえ! とんでもございません。女神様と共に過ごせた時間は、私の生涯の宝物にします」
「うふふ! あ、そうだわ。大したものじゃないんだけど、良かったらこれ持って行って」
たまには女神様らしいことしようかなって、教徒の子に授けるエンブレムを作ってあげることにする。
私を信仰してくれる子が集まる【クロノス教】のエンブレムは、時計のデザインの中に三本の縦線を横切る一本の横線が特徴的なのよね。私が作った物じゃないけど、“過去・現在・未来は一方通行である”って意味合いを込められたこのデザインは嫌いじゃないわ。
私は一方通行じゃないけどね~とか思いながら、出来上がった紫色のそれをセキユオーさんに手渡してあげると、セキユオーさんは両手を震わせて大切そうに包み込んだ。
「おぉ……! ありがとうございます女神様!! 家宝にさせていただきます!」
「ふふっ。それじゃあ、私はそろそろ帰らないとだから。また会いましょうセキユオーさん♪」
「はいっ! いつでもお待ちしております!」
顔をくしゃくしゃにして喜んでるセキユオーさんに笑って手を振り、私は世界渡りを始める。
うーん、やっぱりたまに来る異世界は新鮮で良いわね! 可愛い服もいっぱい買ってもらったし、美味しいお土産も沢山あるし、シルヴィちゃんのためにお料理の本も買ったし、これは褒めてもらえちゃうわ!
なんてご機嫌で亜空間を移動してると、唐突に私の周囲が神々しい光で包まれた。
あ~あ。やっぱりバレちゃった……。
肩を落とす私に、優し気な男性の声が話しかけてくる。
『フローリア。聞こえていますね?』
「はぁ~い! ご機嫌いかがかしら、大神様?」
『お前がまた世界渡りをしたせいで、とても機嫌が悪いですよ?』
「あ、あはは~……。ごめんなさい」
『あれほど異世界間を勝手に移動されると、世界のバランスが崩れるかもしれないからやめるように言いましたが、全く分かっていないようですね』
「違うんです大神様ぁ! 今回はただ遊びに行った訳じゃないんです!」
『何が違うというのですか?』
「今回はレナちゃんが「お米が恋しい」って言ってたから、あっちの世界じゃ食べられないのは可哀そうだって思って取りに行ったんです! 私、大好きなレナちゃんを悲しませたくなくて……。ぐすん」
ここぞとばかりに、涙を零して大神様に言い訳をしてみる。すると、大神様はしばらく黙り込んだ後に溜め息を吐きながら口を開いた。
『……確かに、レナの意志とは関係なく連れていかれ、故郷の味が二度と食べられないというのは酷でしょう。彼女には辛い生活を強いているのも理解はしているつもりです』
「レナちゃん、魔女として毎日頑張ってるからご褒美をあげたかったんです……。お願いです大神様、レナちゃんに買ってもらったものをあげてもいいですか?」
『はぁ……。仕方ありませんね』
やったぁ! 流石大神様、レナちゃんの話になると弱くなるわね!
これでみんなで沢山買ってもらったお菓子でパーティが出来るわとか考えていると。
『ですが、お前の私欲で買わせたそちらのお菓子は不要ですね』
「えぇ~!? 待って待って大神様! これはレナちゃんの故郷のお菓子なんです! これも大事なんです~!!」
『なら、そんなに同じ種類を複数も買う必要はありませんよね? せいぜい二箱で十分なはずです』
「うっ……」
『ですので、不要な分は私が没収します』
大神様の非情な言葉に続いて、腕に下げていた紙袋の中からどんどんお菓子の箱が消えていっちゃう。
あのペラペラのお菓子、すっごく美味しかったのに~……。
「大神様の意地悪! いいじゃない少しくらい!」
『合計三十二箱。これのどこが少しなのですか?』
「み、みんなで食べればすぐなくなっちゃうから」
『言い訳が見苦しいですよ、フローリア。世界渡りを見逃してあげるのですから、我慢しなさい』
「はぁい……」
しゅんと項垂れている私に、大神様が何かの紙袋を破く音が聞こえてきた。
『これは……ほぅ、面白いお菓子ですね。中に餡子が詰まっているのですか』
「あぁ~!? 大神様、何だかんだ言って自分が食べたかったからじゃないんですかぁ!?」
『そんなことはありません。お前が持ち込んだものを検品しているのです。お前もさっさとレナの元へ帰りなさい』
そう言う大神様は、私を包んでいた神々しい光をさらに強め始めた。自分が早く食べたいからってそうやるのはずるいわ!!
「大神様の意地悪~!! 大人気ないわ~!!」
『何とでも言いなさい。……ふむ、これは中々に美味しいですね』
「ほらやっぱり食べてるじゃないですかぁ! 私のお菓子~!!」
『食事中です、静かにしなさい。レナによろしく伝えておいてくださいね』
「あっ、大神様! 私まだ文句言い終わってな――」
言い終えるよりも先に、私はシルヴィちゃんの家の一階に戻されちゃった。
紙袋の中が軽くなっちゃったのは悲しいけど、亜空間にしまっておいたお米や服が取り上げられなかっただけラッキーね。
今度はバレないようにこっそり動かないとねって気を取り直して、階段を登って食堂の扉を勢いよく開けながらみんなにお土産を披露する。
「たっだいま~! 見て見て、地球で色々買ってもらっちゃった♪」




