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782話 魔女様達は変わらない

 翌日。

 いつもより少し早く目が覚めてしまった私が体を起こすと、部屋の中にシリア様の姿が無いことに気が付きました。

 エミリの腕から抜け出し、そっと部屋を出てみると、ふわりと食欲をそそる香りが食堂から流れてきていました。


 どこか懐かしくて、安らぎを覚えるような香りに誘われて食堂へと向かうと。


『む? おぉ、もう起きたのかシルヴィ。今日はまた、一段と早起きじゃのぅ』


 猫姿のシリア様が食器を魔法で操りながら、食事を作っていらっしゃいました。

 今日はそんな予定はなかったはずですが……と困惑する私へ、シリア様はくふふと笑います。


『何、たまには朝食を作ってやろうと思うてな。ほれ、塔を出る前に妾が手料理を振舞ってやると話したことがあったじゃろう? 夕食は作ることもあったが、朝食を作ってやったことは無かったなと思い出したのじゃよ』


「そんな……わざわざすみません」


『よいよい。忘れる前にやっておかねば、機会を逃し続けるからの。ほれ、お主も身支度を済ませてこい』


 私にそう笑って料理へ戻るシリア様に甘えて、今日はシリア様の朝食をいただくことにしましょう。





 全員を起こして食卓に着かせる頃には、すっかりシリア様の朝食は出来上がっていました。

 今日の朝食はやや厚めのトーストに、器用に猫の顔を象られた目玉焼き。そして懐かしい香りのするあの太めのソーセージと、お手製のクラムチャウダーです。


「うわー! すっごいシンプル! シルヴィが毎朝凝って作る料理も好きだけど、朝ってこれくらいでいいのよねー」


「ではレナさんの朝ごはんだけは、今後はこのくらいシンプルにするようにしますね」


「う、嘘よ嘘! 冗談だって! どっちも大好き! いただきまーす!」


 慌てて食べ始めるレナさんに全員で笑いながら、シリア様が作ってくださった朝食をいただきます。

 エミリとティファニーがたっぷりとジャムを塗りたくり、大きな口で頬張って幸せそうに顔を蕩けさせる隣で、フローリア様が食べかけのトーストに目玉焼きを乗せ始めていました。


「見て見てレナちゃん! 最高に美味しいトーストの食べ方よ!」


「あんたそれ、どこで覚えて来たのよ……。あたしの世界でも、割とお行儀が悪いって言われてる食べ方よ?」


「お行儀が悪い食べ方って、結構美味しかったりするのよ~? あむっ」


 それは齧った瞬間に黄身が零れてしまうのでは……と危惧した矢先、フローリア様の口とトーストの間からたらりと半熟の黄身が零れてきてしまいました。

 フローリア様が目を見開いて慌て始めるおかげで、黄身がお皿の上ではなく服に付着してしまい、流石に見かねたレナさんがそれを拭い取ろうとします。


『やれやれ、ほんに品の無い女神じゃのぅ。神を名乗らず、遊び人でも名乗った方がいいのではないか?』


あふぉうぃんも(遊び人も)ふぁもひふぉうよめ(楽しそうよね)~」


「食べながら話さない! もうー!」


 遊び人と言えば、冒険者に登録する際に見た“一芸で仲間達を楽しませ、緊張を解すことで戦闘力を上げる”という職種だったはずです。

 ですが、神様を辞めてまでやりたいことなのでしょうか……。


 やや呆れ気味に苦笑しながらソーセージを切り分けていると、一口大に切ったはずのそれが無くなっていることに気が付きました。

 もしかしてエミリでしょうか? と隣へ視線を移してみるも、エミリはまだジャムたっぷりのトーストを満喫している最中で、自分のソーセージにも手を付けていません。

 では一体、どこへ……。と視線を戻した時、視界の端で小さな嘴が私のお皿からソーセージを盗んでいるのを見つけました。


「メイナード! 私のソーセージを食べないでください!」


『一向に手を付けんから、不要と判断したまでだ』


「食べやすいように切っていただけです! あなたのはちゃんとあるでしょう!?」


『無いが?』


 呆気からんと答える彼のお皿には、確かにソーセージの姿はありません。

 ですが私は、彼のお皿にこんもりとソーセージが乗っていたのを見ています!


「お代わりが欲しいのならシリア様に言ってください!」


『もぐ……。いいことを教えてやろう、この世は弱肉強食だ』


「意味が分かりませんし、人の物を食べて良い理由付けにもなりません!」


 朝から意地悪をしてくるメイナードに頬を膨らませ、私は追加のソーセージを用意するべく立ち上がろうとしました。

 しかし、シリア様はそれすらも読んでいたかのように、笑いながら私のお皿にソーセージを追加してくださいました。


『ほれ、お代わりなら用意しておる。ケンカせずに食べよ』


『ふん……。この程度で騒ぐとは、意外と小物だな。主よ』


「わ、私が悪いのですか……!?」


 驚きのあまりに声を失う私を他所に、メイナードは器用に一口大に切り分けて食べ始めてしまいます。


「お姉ちゃん、わたしのソーセージ食べる?」


「お母様、ティファニーのも分けて差し上げます!」


「大丈夫ですよ二人共、気持ちだけで十分です。……メイナードも二人のように、気遣いができればよかったのですが」


『何か言ったか』


「いいえ、何でもありません」


 わざとらしく、彼にツンとした態度を取る私を皆さんがおかしそうに笑います。

 私達の決戦の朝は、いつもと変わらない日常とともに始まるのでした。

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