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779話 義妹達は懇願する・後編

「エミリ、ティファニー。私も、二人とは離れたくありません。私だって、好きでこの選択をしている訳では無いのです」


「じゃあ行かないで!! 戦わないで、みんなで逃げようよ!!」


「それはできません」


「なんで!?」


 いっそう、私を抱く力を強めてくるエミリ。

 少しだけ苦しさも感じますが、彼女を納得させられるまでこの腕は外せないでしょう。


「では、逆に質問です。私達が戦わないことを選んだ時、どんな問題が発生すると思いますか?」


「質問に質問で返しちゃダメって先生言ってた!!」


 どうやら、エミリに考えてもらいながら答えを引き出させることはできないようです。

 短かった学校生活の中で、しっかりと先生方の話を聞いていたことに嬉しさを感じながらも、ちょうどいい題材が出てきたので使わせてもらうことにしました。


「分かりました。では、戦わないで逃げてはいけない理由ですが、魔術師の方々がこっそりと隠れて、色々なところで魔女への妨害や悪事を働いていたことは知っていますね?」


 コクン、と頷くエミリ。

 その隣で、ティファニーが涙に濡らした顔で私を見上げてきました。

 やはり、ティファニーの方が少しだけお姉さんですね。彼女はもう、私が何を言おうとしているのか、薄々気が付いているようです。


「エミリも知っている通り、魔術師の方々はハールマナ魔法学園で魔法使い育成のレベルを大幅に下げたり、拠点確保のために領地を奪おうとしたり、私達の知らないところで魔女を殺したりしていました。そんな彼らが今、何も行動を起こしていないのは私達との約束を守ってくれているからです」


「うん……」


「ここで私達が戦いませんと言えば、彼らとの約束を破ることになります。そうなってしまえば、魔女と魔術師の関係はさらに悪化してしまいますし、下手したら、怒った魔術師の方々による大規模な戦争が起きてしまうかもしれません」


 あくまで推測の域を出ませんが、彼らがこの半年間、本当に何も事を起こさなかったのはプラーナさんがいたからだと思います。

 その彼女を直接交わした約束を反故するとなれば、間違いなくプラーナさんの反感を買うことになりますし、居場所が割れている私達のこの家も、無事では済まされないでしょう。


「そうなってしまったら、私達のこの家も壊されてしまうかもしれませんし、エミリ達が大好きなハールマナ魔法学園も狙われてしまうでしょう。もちろん、エミリ達とお友達になったクラスの子や、イルザさんも殺されてしまうかもしれません。それでもエミリは、私に戦わないで欲しいと言うのですか?」


「それはやだ! メイちゃんやリュウくん達は関係ないよ!!」


 初めて聞いた名前ですが、エミリのクラスメイトだった子でしょうか?

 男の子の名前が出てきたことは気になりますが、それは全部が終わった後に聞くことにしましょう。


「私が戦って捕まることで、エミリ達と三カ月ほど会えなくなってしまいますが、私が逃げれば学園の子達や先生方、もっと身近で言えばペルラさん達と一生会えなくなるかもしれません。そんなことはエミリだって嫌でしょう?」


 エミリの頭を優しく撫でてあげると、エミリは尻尾をゆらゆらと揺らします。

 その隣で、ティファニーも撫でて欲しいと言わんばかりに頭をお腹に埋めて来たので、苦笑しながら同じように撫でてあげることにしました。


「エミリとティファニーと離れ離れになるのは、私もとっても辛いです。ですが、私はそれを我慢することを選びました。だからと言って、エミリ達にもそれを強要する訳ではありませんが、私が戦わないという選択をしないことは分かってください」


 私の言葉に、エミリは尻尾を揺らすのを止めてだらんと垂れさせます。

 いつもなら“がっかりした”という感情の現れである動きですが、今までの話の流れから汲み取るのならば、“諦めて受け入れる”ことを選んだのでしょう。


「……ごめんなさい、お姉ちゃん」


「いいのですよ。エミリが私を大切に思ってくれていることくらい、言葉にしなくても伝わっていますから」


「ティファニーも、お母様のことは毎日お慕いしています」


「ふふっ、もちろんティファニーからの気持ちも受け取っています」


 愛おしい二人をきゅっと抱きしめ、私はこの話を締めくくることにしました。


「エミリ達が助けに来てくれる時まで、私は私にできることを頑張ります。だから二人も、シリア様やレナさん、フローリア様達と協力して頑張ってください。どんなに遠く離れていても、私は二人の心の中にいますからね」


「うん、わたしも頑張る」


「シリア様達に迷惑をお掛けしないよう、頑張ります」


「いい子ですね、二人共。全部が終わったら、沢山美味しいものを作ってあげますからね」


 二人から腕を離し、頭をなでながら微笑んでいると、視界の端でレナさんが壁を背にして、こちらを温かく見守っていたのが見えました。

 レナさんの気遣いに感謝しつつ、私は二人に立ち上がるよう促します。


「さて、そろそろレナさん達がお風呂から上がって来る頃です。私もお風呂に入ってきますね」


「お待たせシルヴィー……って、どうしたの?」


 いかにも、たった今来たと言わんばかりの演技をしてくれるレナさんに、私は笑いかけます。


「全てが終わったら何を食べたいか、リクエストを募っていたところです」

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