774話 勇者一行は語る・後編
「グランディア王家の、真実……?」
困惑するアーノルドさんに、セイジさんは一度座るように促します。
アーノルドさんが座ったのを見計らい、セイジさんは語りだしました。
「まず、現グランディア王家――つまり俺の両親だが、本当は王族でも何でもない、ただの一庶民だ」
「そんなはずは!!」
「気持ちは分かるが、まずは聞いてほしい。俺も最初はシルヴィさんのことを疑ったし、あり得ないと信じたくなかったよ。だけど、証拠を揃えれば揃えるほど、それが真実なんだと思い知らされてしまったんだ」
どういうことだ、とアーノルドさんとシュウさんからの疑問の視線を感じます。
私は彼の言葉を引き継ぎ、説明を行うことにしました。
「グランディア王政が始まってから二千と数百年だと歴史上では語られていますが、今から二千年ほど前の政権で、一度グランディア王家は新生していました。当時、世界を統一しようと目論んでいた魔王を討伐し、腐りきっていたグランディア王家から王権を継承された勇者の一族。それが新生グランディア王家の始まりであり、シリア様の血族の証なのです」
「なっ――!?」
今度はドリームチェイサーの皆さんの視線が、テーブルの上で座っていたシリア様へと注がれます。
シリア様は小さく嘆息すると、魔力体の私の姿へと器を乗り換え、言葉を続けました。
「うむ。妾こそがかつての魔王を討ち、新生グランディア王政の初代女王であるシリア=グランディアじゃ。その伴侶となる勇者の名は、ユースと言う」
「知らなかった……勇者のおとぎ話に出てくる人達の名前なんて、どこにも書いてなかったよね?」
「あぁ、まさかその正体が神様だったなんてな……」
「神だから魔王を倒したのではない。妾が魔王を討ったという成果を以て、神に召し上げていただいたのじゃ」
「はい。そして、シリア様が立て直したグランディア王家も約二千年ほど安泰していたのですが、今から十五年ほど前、【夢幻の女神】ソラリア様の手によって王家は襲撃され、私を除いたグランディアの血は絶やされてしまいました。その穴埋めとして、セイジさん達一家が王家に据えられ、歴史が改ざんされる結果となっていたのです」
「うむ。現王家には妾が存在していたという記録も無ければ、シルヴィの両親に関する記録も無い。じゃが逆に、セイジの家系には過去のグランディアの者の名が残されておらん。この時点で、両家との繋がりは微塵も無いのじゃ」
「そう、なのか……? いやいやいや、ちょっと待て!! シルヴィ、今お前何て言った!?」
突然声を荒げたアーノルドさんに驚かされてしまいます。
ええと、私が今言った言葉と言えば……。
「セイジさん達一家が王家に据えられ、歴史が改ざんされたことでしょうか」
「違う! その前だ!」
「その前と言いますと、ソラリア様によって王家が滅ぼされたことでしょうか」
「違うって! お前がグランディアの一族だって言ってただろ!?」
「え? あぁ、はい。私はシリア様の血族の末裔で、歴史が改ざんされる前のグランディア王家の第一王女でした」
私が答えると、アーノルドさんは頭痛に耐えるように頭を抱え始めました。
様子がおかしくなっていたのは彼だけではなく、テオドラさんやシュウさんもぎょっとしたような表情を浮かべていて、ユニカさんに至っては現実逃避をするように料理を頼み始める始末でした。
……そう言えば、彼らには私が魔女であることまでは話しましたが、私がグランディア王家の者であることは伝えていないのでしたっけ。
ちらりとシリア様へどうするべきかと視線で問いかけると、シリア様はやれやれと首を振りました。
「今さらシルヴィの出自でこれまでの態度を悔んだり、改める必要なぞ無い。こ奴も出自を捨てた魔女じゃ、今まで通りに接するがよい」
「そうは言っても、なぁ……?」
「まさかお姫様だったなんて思いもしないよ……」
「お待たせいたしました、シーフードサラダでございます」
「美味しそう」
「お前は何を頼んでいるんだ? ……いや、それよりもだ。一旦シルヴィの件は置いておくにしても、何故王家にクーデターを起こす必要がある? 話を聞く限りでは、殿下――いや、こうなると殿下と呼ぶのも違うのか?」
「あぁ、無理に殿下と呼ばず、セイジと呼んでくれたらいい」
「分かった。セイジの両親は一般の出自なんだろう? クーデターを起こすと言う事は、彼らに刃を向けることになると思うが、そうする必要があるのか?」
シュウさんの疑問はもっともだと思います。
次はその点について説明する必要がありそうです。
「はい。皆さんにお願いしたいクーデターの対象ですが、私達の予想ではセイジさん達一家に対して剣を向けることにはならないと思っています。と言うのも、ソラリア様が私を手中に収めることで、再び歴史を改ざんして、正しいグランディア王家を再現するのではないかという推測です」
「それは何故だ? 改ざん前のグランディア王家に、何か執着しているのか?」
「ソラリア様は大昔に、グランディア王家に手を貸したことで世界を滅ぼしそうになり、神様の座から追放されています。その結果、グランディア王家に強い恨みを抱くようになっていましたので、本来のグランディア王家とは無関係のセイジさん一家を据え置き続ける必要は無いのでは……と考えています」
「無論、あくまでも推測の域を出んが故に、事が起きた後もセイジらが王家に居座り続ける可能性もあり得るがの。どちらにせよ、シルヴィと妾の結びつきが一番強いグランディア王城に籠城し、力を蓄えるはずじゃ。それを防ぐためにも、クーデターと言う大規模な妨害が必要となる」
「仮にセイジの両親が据え置かれたままだとしたらどうする?」
「その時の策も講じてある。本来は無関係であった人間をむざむざ殺させるなぞ、あってはならんからの」
私とシリア様の説明に、シュウさんを始めとした皆さんが考え込み始めます。
正直、この場で回答が得られるとはあまり考えてはいません。この場に居合わせてもらった最大の理由としては、世界の認識が書き換えられた後のクーデターに参加していただけるように、彼らを守る術式をこっそりとシリア様に掛けていただくためです。
彼らからの回答を待つフリをしながらシリア様の作業を見守っていると、黙々とサラダを食べていたユニカさんが唐突に口を開きました。
「私は協力するべきだと思う」
「え?」
サラダをもう一口頬張ったユニカさんは、テオドラさんを見ながら言葉を続けます。
「もぐ……。突拍子もない話で分からないことは多いけど、シルヴィが本当のことしか言ってないのは分かる。なら、仲間として手伝うのが当然」
彼女は自分の意見は終わりだと言わんばかりに、再びサラダを食べ進めてしまいます。
そんな彼女に呆気を取られていた皆さんでしたが、やがて誰からともなく小さく笑いだしました。
「……それもそうだな。何も難しく考える必要なんかねぇ」
「そうね。シルヴィちゃんが困ってるのなら、助けてあげるのがパーティの務めでしょ」
「あぁ。俺達に出来ることで支援すればいい。そうなんだろ?」
「皆さん……。はい、可能な限り、皆さんの安全を確保しながらの作戦遂行になります。よろしくお願いします!」
「おいおい、よろしくお願いしますなんて他人行儀はやめろよな」
「え?」
分かってないと言わんばかりに呆れながらも、アーノルドさんはにぃっと笑いながら言いました。
「そこはありがとうだろ? 俺達は仲間なんだからさ」
「――はい! 皆さん、ありがとうございます!」
彼らの優しさに触れ、気持ちが温かくなるのを感じます。
隣でくふふと笑っていらっしゃるシリア様でしたが、そんな彼らにも分かるように、今後の大まかな流れについて説明してくださるのでした。




