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772話 魔女様は引き合わせる

 フェティルアに到着した私達の耳に真っ先に入って来たのは、聞き覚えのある少女が声を張り上げているものでした。


「くっそー! また買えなかったじゃねーか! お前がのんびり飯食ってたからだぞ、ユニカ!!」


「私は悪くない」


「そうよそうよ! そもそも、アーノルドが寝坊しなければよかっただけでしょ!?」


「寝坊じゃねーし! こちとら色々身支度しなきゃなんねーんだよ!!」


「あらそう! ならどんな身支度が必要なのか、一からちゃんと説明してみなさいよ!」


「そりゃお前、色々だよ!!」


「全然説明になってないじゃない!!」


『くはは!! あ奴らはどこにいても変わらぬやかましさじゃのぅ!』


 シリア様に苦笑しながら、久しぶりに会う面々へ声を掛けます。


「こんにちは、“ドリームチェイサー”の皆さん。お久しぶりです」


「だからそれは――って、おぉー!! ルミ……じゃなかった、シルヴィじゃねぇか! 久しぶりだな!!」


「シルヴィちゃ~ん!!」


「わっ!?」


 口喧嘩を止め、こちらへ駆け寄ってきてはそのまま抱き着いてきたテオドラさんを受け止めると、彼女は嬉しそうに私を抱いたままぴょんぴょんと飛び跳ね始めます。


「ひっさしぶり~! ここ一カ月くらい遊びに行っても会えなかったから、引っ越しちゃったのかと思っちゃった!!」


「ふふ、遊びに来ていただいていたのにすみません。少し所用があったので、遠征に出ていまして」


「そっかそっかぁ~! あ、そうだシルヴィちゃん丁度良かった! ひとつお願いしてもいいかな!?」


「お願いですか?」


 テオドラさんは頷くと、アーノルドさん達の背後に控えていたユニカさんとシュウさんを指さしました。

 お二人が手にしているのは、私もよく知る“森の魔女特製ポーションの瓶”です。


「ポーションが無くなっちゃったから買い足そうと早起きしたんだけど、アーノルドが朝から鏡を見ながら猿みたいに耽っちゃってたみたいで出遅れたの……」


『お主、あの制約を込めても止まらんのか』


「だからやってねぇって言ってんだろ!? あとシルヴィとシリアもそんな目で俺を見るな! 信じてくれよぉー!!」


 今にも泣き出しそうなアーノルドさんですが、彼の呪いが解けなくなってしまった理由を知っている身としては、信じようにも信じ切れないのが非常にもどかしい所です。

 複雑な感情を誤魔化して苦笑していた私に、ユニカさんが歩み寄ってきました。


「お昼食べた?」


「いえ、まだです」


「なら、私達が奢る。代わりに、ポーションが欲しい」


「ポーションなら、街にある生成器では……」


 そう言いかけ、私は先日のシリア様とのやり取りを思い出しました。


『各地域に置いておいたポーション生成機じゃが、あれを改造して疑似神創兵器にした』

『外見こそ変えておらんが故に、街の人間がポーション生成機が故障していると認識することで、ソラリアの認知から逃れる作戦じゃ』


 そうでした。確か、お金を投入することでポーションを汲むことができるアレは、今は決戦後に備えて疑似神創兵器へ変わっているのでしたっけ。

 となると、街に卸している数が売れ切ってしまった後は、翌日以降の再入荷を待つしかないのですね。


「分かりました。ですが、私も人に会う予定があるので、良ければ一緒の席でも大丈夫ですか?」


「私達は構わない」


「だけど、見ず知らずの私達が同席しちゃって大丈夫なの? シルヴィちゃんの知り合いって、きっと魔女なんでしょ?」


「いえ、これから会う予定の人は魔女ではありません。それに、皆さんもたぶん知っている方々だと思います」


「ってことは冒険者なのか?」


「遠からず、近からず……と言ったところでしょうか。ともかく、一度は名前を聞いたことがあるはずです。一緒でも良ければ案内しますね」


 小首を傾げながらも了承してくださった皆さんを連れて、私達は約束のお店へと足を向けることにしました。





「お待たせしました」


 貸しきりにしていただいている酒場に入った私に、先に到着していた現勇者一行が振り向きます。

 その中でも、最も人当たりの良い修道女であるサーヤさんが、笑顔を咲かせながらこちらに手を振ってくれました。


「あっ! シルヴィさん来た! って、あれ? そちらの人達は?」


「Aランク冒険者で、ドリームチェイサーというパーティ名で活動されている皆さんです。彼らにも話しておくべきかと思って同席させていただきたいのですが、よろしかったでしょうか?」


「え、あ、うん。私は大丈夫だけど……」


 サーヤさんは他の面々は分からないと言わんばかりに、セイジさん達へ視線を送ります。


「俺も別に構わないっすよ。むしろ、聞かれて大丈夫なのかどうかを決めるのはシルヴィさんだと思いますし」


「同感」


「……お前がそうしたいなら好きにしたら?」


「おいメノウ、その言い方は無いだろ」


「別に私には関係ないもの」


 ツーン、と顔を背けるメノウさん。

 この前のレオノーラ奪還の時で少し距離が近くなったかと感じていたのですが、相変わらずのようでした。


 そんな彼女に苦笑し、私はドリームチェイサーの皆さんへ振り向きながら紹介します。


「ご存じかもしれませんが、グランディア王家の勇者一行の皆さんです。男性の方が勇者のセイジさん、魔法使いの方がメノウさん、修道女の方がサーヤさん、シーフの方がアンジュさんです」


 私からの紹介にセイジさんが立ち上がり、パーティの代表としてドリームチェイサーの面々へと歩み寄っていきます。

 そして右手を差し出しながら、彼は堂々と挨拶を行いました。


「初めまして。俺はセイジ、セイジ=グランディアだ。この国の王子でもあるんだが、今は父上の意向で勇者として腕を磨いている。よろしくな」


「は、初めまして殿下! お……私はアーノルドと言います! まさか殿下がおられるとは露知らず、このような身なりでご拝顔する無礼をどうかお許しください!」


 差し出された手は取らず、かつて王国に仕えていた騎士であった頃のように片膝を突いてしまうアーノルドさんとシュウさん。

 そんな彼らに困惑するセイジさんへ、私が代わりに説明します。


「ええと……彼らは元々、グランディア王家の騎士団に所属していたそうです」


「こんなに小さな子がですか!?」


 そうでした。アーノルドさんの今の見た目からでは、この挨拶をしていること自体が不自然に思われても仕方がありません。

 これはややこしくなりそうです……と苦笑しながら、私は一つずつ説明をすることにしました。

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