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762話 ご先祖様達は合流する

 朝食を終え、競技場へと全員で向かうと、そこには久しぶりのシリア様達の姿がありました。


「レナちゃ~ん!! 会いたかったわぁ~!!」


「お姉ちゃん久しぶりー!!」


「お母様お母様ー!!」


「わわっ! 二人共、元気そうで何よりです」


「わぷっ!? ちょ、ちょっとフローリア! 苦しいんだけど!?」


「んふぅ~、久しぶりのレナちゃんたまんないわぁ……あら? 何かいつもと違う匂いね」


「え、あたし何か臭う!?」


「別に臭いって訳じゃないんだけど……何かしら、レナちゃんとは違う人の匂い?」


 ビクッと身を強張らせたレナさんは、しどろもどろになりながら言い訳を考え始めます。

 そんな彼女に嘆息しながら、まだ実体を保てていたシリア様が私に声を掛けてきました。


「久しいの、シルヴィ。日々鍛練に励めておったか?」


「はい。おかげさまで、実りのある鍛練を積むことができました」


「うむ、それは何よりじゃ。ラティス、お主から見てこ奴らの仕上がりはどうじゃ?」


「そうですね、今のところ上々でしょう。あと一週間でほぼ完全な仕上がりになるかと」


「ほぅ、やはりお主らに任せて正解じゃったな」


「貸しひとつです。見返りは期待させてもらいますよ?」


「くふふ! 【魔の女神】を相手に貸しを作れる機会なぞそうそう無いからの! 存分に期待しておくがよい」


 挑発的に、それでいて楽しそうに返すシリア様に、ラティスさんも同じように笑います。

 とても仲の良い雰囲気を出すお二人につられて笑みを浮かべていると、視界の端で誰かがしゃがみ込んだような気がしました。

 そちらへ視線を向けると、エリアンテさんとネフェリさん、そしてセリさんが、シリア様に対して片膝を突いて敬意を払っていました。


「ん、何じゃお主ら。妾に何か用か?」


「我らが始祖、始まりの大魔導士シリア=グランディア様。こうしてお目に掛かれり、大変光栄です」


 いつものエリアンテさんからは想像もできない畏まった様子に、レナさんが信じられないものを見るかのようにぎょっとしています。それは私も隠し切れないものでしたが、あのネフェリさんも(かしず)いることの方が驚きでした。


 一方で、シリア様はもう慣れ切っているようで、面倒くさそうに返します。


「妾は形式上で敬えとは言うが、何も言葉通りに(こうべ)を垂れよと言うつもりは毛頭ない。お主らが目上の者に接すると同等程度に楽にせよ」


「流石シリア様! 懐が広いなぁ~!」


「そういう事なら、楽にさせてもらうぜ」


「お、お二人共!?」


 シリア様から楽にしていいと言われた直後に、口調を戻して立ち上がるエリアンテさんとネフェリさん。

 そんなお二人に仰天するセリさんの反応が正しいものだと私も思いますが、これまたシリア様は何とも思われなかったようでした。


「くふふ! 王家に嫁ぎ神になったとは言え、妾も堅苦しいのは苦手でのぅ。お主も楽にするが良いぞ、セーリンデよ」


「なっ――!?」


 シリア様を見上げながら、信じられないものを見たと言わんばかりに目を見開き、口を大きく開けてしまったセリさんに、シリア様は少し眉をひそめながら小首を傾げます。


「む、お主がセーリンデでは無かったのか? シルヴィからの報告では、こ奴のように前髪で片目を隠しておると聞いておったのじゃが」


 妾が間違えたか? とこちらを伺って来るシリア様に、合っていますと頷き返します。

 シリア様が怪訝そうにしながらセリさんへと視線を戻すと、今度はシリア様がぎょっとした表情を浮かべました。


「な、何故泣いておるのじゃお主!?」


「え……?」


 なんと、セリさんがシリア様を見上げたまま、涙を零していたのです。

 自分でも指摘されるまで分からなかったらしく、セリさんは慌てて目元を拭いますが、涙は止まることが無く零れ続けてしまいます。


「も、申し訳、ございません! あれ……? (わたくし)、どうして……!?」


「あ~、シリアってばサイテー。こんな可愛い子を泣かせるなんて、神様失格じゃない~?」


「黙らんか!!」


「きゃん!!」


 にやにやと底意地の悪い笑みを浮かべながら、耳元で囁いてきたフローリア様のお腹を肘で鋭く打ち抜いたシリア様は、困惑しながらもセリさんと目線を合わせるように膝を突きます。


「すまぬ、妾に非があったのならば詫びよう。事前にお主の名と外見の特徴のみしか把握しておらんかったが故に、名を呼び間違えたやもしれぬ。そうならそうと、お主の名を教えてくれぬか?」


「いえ……間違っておりませんわ……! 私は、私の名はセーリンデ=クルトワと申します!」


「そ、そうか。ならば、何故泣いておるのじゃ? やはりシルヴィが呼んでおったように、セリと呼ぶべきであったか?」


 しどろもどろになりながらも、原因の究明を行おうとするシリア様に、セリさんは顔を押さえながらふるふると首を振ります。

 私も間に入るべきでしょうかと思い始めた矢先、ふと先日のセリさんとの会話を思い出しました。


『私共が信仰するタウマト教では、【魔の女神】であられるシリア様を崇拝しております』

『そして、日夜シリア様と寝食を共にされている上に、生前のシリア様とほぼ同じお姿である貴女様に触れることができれば、貴女様を通してシリア様からご利益を賜れるのではないかと考えた次第です』


 そう言えば、あの時からシリア様の話を持ち出すと、セリさんは異様なほどに興味を示していたような気がします。

 もしかしたら、これは敬愛しているシリア様ご本人を見てしまったことに加えて、自分の名前を覚えられていたということに対して感情が溢れ出してしまっているのではないでしょうか。


『シリア様、少しよろしいでしょうか』


『何じゃ!? 今、妾はあまり余裕がないのじゃが!?』


『その、セリさんは以前から、シリア様をかなり深く信心していらっしゃいました。だからこそ、自身が信仰している神様本人と出会っただけではなく、自身を認識してもらえていたことに感極まってしまっているのではないでしょうか』


『……なるほど、そういう事じゃったか』


『全く、あなたと言う女神は人の心を理解できないのですね。信仰深いセリが哀れです』


『貴様は念話に入ってくるでないわ!!』


 しれっと入って来たラティスさんはともかく、私からの可能性の提示に理解を示したシリア様は、コホンと咳払いをすると、落ち着いた口調で語りかけ始めました。


「我が親愛なる信徒、セーリンデよ。妾にその顔を、良く見せてはくれぬか?」


「はい……」


 涙に濡れてしまっている顔を上げたセリさんの涙を拭ったシリア様は、ふわりと優しく微笑みます。


「お主からすれば、一信徒の名を神が覚えるはずもないと思うじゃろう。じゃが、妾からすれば、人から神へ成ったこの身を崇めてくれる希少な信徒なのじゃ。お主のような信心深い信徒に恵まれ、妾は幸せ者じゃよ」


「シリア、様……!!」


「しかし、妾はちと涙に弱い節があってのぅ。面倒を掛けるが、涙ではなく笑みを見せてくれると助かるのじゃが……どうじゃ?」


 シリア様の言葉にセリさんは何度も頷くと、目元をごしごしと手の甲で拭い、心底嬉しそうな笑みを浮かべました。

 それを見ながら満足そうに頷いたシリア様は、彼女の頭を優しく撫で始めます。


「うむ、お主は涙よりも笑顔の方が良く似合っておるよ。流石はクルトワの娘じゃ、先代のあ奴と目元が似ておる」


「ご先祖様のことも、覚えていらっしゃるのですか?」


「当然じゃ、妾の希少な弟子の一人じゃからの。まぁ、積もる話もあるが、それは後にするかの」


 これで終わりとセリさんの頭をぽんぽんと軽く叩いたシリア様は、すくっと立ち上がりながら私達へ向き直りました。


「さて、本題に入るとするぞ。決戦まで既にひと月を切っておるが、妾達の切り札でもあるお主らには、一日でも早く魔術五指以上の者との戦闘を見越した技術を習得してもらわねばならん。故に、残りの一週間は、妾達もお主らの鍛練を見ることにした」


「もちろん、人間領の下準備は終わってるから安心してちょーだいね!」


「今日からの割り振りはこうじゃ。シルヴィには妾とセーリンデ、レナにはフローリアとエリアンテとメイナード、エルフォニアにはネフェリとラティス、そしてリィンを付ける。これまで以上に厳しい鍛練となるが、血反吐を吐いてでも食らいついてくるように。よいな?」


 私とレナさん、そしてエルフォニアさんはほぼ同時に頷き返しました。

 気が付けば、十一月ももう間もなく終わりを告げ、あと数日で十二月になってしまいます。

 プラーナさん達との決戦は十二月の二十日。その日までに、できる限り実力を高めておかなければなりません。


 もうそこまで足音が迫ってきている決戦の日に、戦いの後で自分がどうなるのかという不安に押しつぶされそうになりますが、それを見せないようにぎゅっとこぶしを握り締めるのでした。

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