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760話 魔女様は一息つく

 ぐったりと脱力してしまっているエルフォニアさんを背負いながら外へ出ると、ネフェリさんがエルフォニアさんを奪い取り、肩を貸しながらバシバシと背中を叩いては大笑いし始めました。


「なっはははははは!! 見事な負けっぷりだなバカ弟子!! 捕らえてすぐにトドメを刺せばよかったのに、なーにしてんだか全くよぉ!!」


「捕えるまでで限界だったのよ」


「ホントかよー? 嘘だったら夕飯のおかず無しだぞー?」


「こんなことで嘘は言わないわ。それより、いい加減叩くのを止めてもらえるかしら」


「力づくで止めればいいじゃねえか。お得意の影はどうしたんだ? お?」


 底意地の悪い笑みを浮かべながら叩き続けるネフェリさんに、エルフォニアさんは殺意の籠ったすさまじい形相を浮かべていましたが、やはり抵抗する気力も体力も残されていなかったようでした。

 お二人のやり取りを、遠巻きに微笑ましく見守っていると、ラティスさんが小さく拍手をしながらこちらへ歩み寄ってきました。


「見事な対処でした。よく、呪刻魔法が使われていると気づきましたね」


「ありがとうございます。リィンさんと初めてお会いした際に、呪刻魔法の対処方法をシリア様に教えていただいたことがありまして、ほんの少しでしたがその時の波長と似ているような気がしました」


「なるほど。それなら納得できると言うものです」


 ラティスさんがそう言いながら、ちらりとリィンさんの方へと顔を向けると、視線を向けられた本人は腕組みをしながら首を横に振っていました。


「リィンであれば、もっと自然な形で呪いを刻みます。あれはまだまだ改良の余地しかありませんね」


「だそうですので、今後はリィンにもエルフォニアさんを見ていただく予定です」


「では、私は引き続きセリさんとですね」


「そうなります。贔屓目を抜きにしても、現時点で最も完成度が高いのはあなたですので、来月の決戦以降であなたがいなくなることを見越したプランへ変更します。あなたは引き続き、セリさんと共に励むように」


「分かりました。……ところで、他の皆さんの姿が見えないのですが」


 周囲を見渡しても、エルフォニアさんと戯れているネフェリさんと、私の前にいるラティスさんしか残っていなかったことについて尋ねてみると。


「レナさんについては、既にエリアンテさんが追加の鍛練を行うと言って連れていきました。セリさんはあなたに触発されて、神力の研究に戻っています」


「そうそう、忘れるところでした。シルヴィ宛てに、レナから伝言を預かっていますよ」


「伝言ですか?」


 オウム返しのように問いかけると、リィンさんは自身の髪を両手で握ってお下げを作りました。


「“あたし絶対グロッキーになってると思うから、今夜はスタミナが付く料理が食べたいわ!”だそうです。リィンとしても、夜の性活で体力を必要とするので概ね同意ですが、どうせならリィン自身があまり食べたことの無い物を所望します」


 途中聞こえてきたフレーズはともかくとして、またエリアンテさんにみっちりしごかれているらしいレナさんの希望は答えてあげたいところです。

 そこにリィンさんの希望を兼ね合わせるとなると、やはり手っ取り早いのは異世界の料理になると思うのですが、普段からこちらでは見かけない料理を出すのはどうなのでしょうか。


 先日から大食堂で提供していただける食事ではなく、自炊したい魔女達向けに開放されているキッチンをお借りして、全員分の料理を作ることになっている身として頭を悩ませていると、ラティスさんが口を開きました。


「レナさんの世界の料理でも私は構いませんよ。見聞が広がることは、魔女にとって何よりの楽しみです」


「であれば、リィンはあれが食べてみたいです! ウナ・ジューという、レナの世界では高級料理なのに大変元気が出るという不思議な料理です!」


「私は聞いたことがありませんが……シルヴィさんは知っていますか?」


 ラティスさんに問いかけられ、頭の中で該当の料理があったかと探し始めます。

 ウナジュー、どこかで聞いたことがあるはずなのですが……と照らし合わせていると、ふと神住島(かすみじま)の旅館で出していただいた料理のことを思い出しました。

 あの“重箱”と呼ばれる木箱の中に入っていた、非常に風味の良い丼ものの料理。リィンさんのイントネーションが異なっていたためすぐに思い出せませんでしたが、確か“うな重”であっているはずです。


「はい。ウナ・ジューではなくうな重という発音の料理ですが、確かにレナさん達が故郷を懐かしみながら食べていた貴重な料理でした」


「ふむ……。では、今日はそちらをお願いできますか? 食材が高価なら、魔導連合名義で領収証を切って構いません」


「一般的な市場では手に入らない食材ですが、神住島という魔族領の端にある小島なら、容易に入手できたはずです。すぐにでも出かけてきますね」


「えぇ、よろしくお願いします」


「リィンも味見係として付き添ってあげましょう」


「リィンは別の仕事がありますので、私と来るように」


 ラティスさんに首根っこを掴まれて、ずるずると連れていかれるリィンさん。

 私はネフェリさん達にも一言告げてから、転移で神住島まで買い出しに行くことにしました。

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