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758話 魔女様は暗影の魔女に試される・前編

 外に出た私達を迎えた反応は、概ね予想通りの物でした。

 まずは、私がしっかりと固有結界の発動に成功させたことに対する賛辞です。


「流石でございます、【慈愛の魔女】様! 積み上げた努力が言葉通りの意味で花開く、素晴らしいものでしたわ!」


「ありがとうございます、セリさん。セリさんのアドバイスのおかげで、形にすることができました」


「ふふ! ではご褒美として、また神力に触れさせていただいてもよろしいでしょうか?」


「はい。私ので良ければ……」


 一方で、魔力を吸い尽くされたことで全力を出す前に行動不能とさせられてしまったレナさんは――。


「ぁ痛っ!? 何すんのよエリアンテ!?」


「頭チョップしただけですけど~? 不甲斐ない結果を見せた弟子に喝を入れてるだけですけど~?」


「やめっ、地味に痛いからやめて!」


「あっははは! いやー、毎晩お互いに情報は共有し合ってはいたが、まさかあれほどのものを仕上げてくるとはなぁ! レナももっと頑張らねぇと置いてかれるぞー?」


「あたしだって全力だったわよー!!」


「ま、あたしもあそこから逃げ出せるかって言われると、ちょっと自信は無いんだけどな! お前もだろ、エリアンテ?」


「ふふん、この天才美少女大魔導士であるエリアンテさんにかかればお茶の子さいさいです! ……と言いたいところだけど、魔力を根こそぎ奪って来る系はちょっとねぇ」


「だよなぁ。非戦闘に特化してるからこその発想だと思うが、まぁえげつないモンを使えるようになっちまったもんだ」


 失態を晒してしまったものの、あまり責められることも無さそうでした。

 ひとまず、作戦通りできて良かったですと気づかれないように安堵していると、頃合いを見計らったようにラティスさんが声を上げました。


「では、少し休憩を挟んだらエルフォニアさんの試験を行います。シルヴィさんは今の内に、魔力をしっかりと補充し直しておくように」


「はい」


 ラティスさんに頷き、亜空間収納からマナポーションを取り出して口にします。その直後、薬草を磨り潰したままのえぐみのある匂いと、茶葉を取り除き忘れたことで凄まじい苦みとなってしまった時のようなお茶の味わいがぶわっと広がっていきました。


 ポーションは作れてもこればかりは作れなかったので我慢するしかないのですが、かれこれ二千年は変わらないというマナポーションの味に、どうしても顔をしかめざるを得ません。

 眉間に深いしわを寄せながら飲み続ける私を皆さんが笑っていたような気もしますが、それを気にする余裕はどこにもありませんでした。





「ではエルフォニアさん、よろしくお願いします」


「えぇ、よろしくお願いするわ」


 改めて亜空間へと移動した私とエルフォニアさんは、いつでも戦闘が始められるように杖を取り出します。

 それを合図と言わんばかりに、エルフォニアさんから強い魔力の揺らぎが発せられました。この感じは間違いありません、固有結界の予兆です!


 私は自分の固有結界を展開することなく、あえてそれを受け入れて彼女の出方を伺うことにしました。

 周囲が一切の光を通さない影に飲み込まれていき、瞬く間に私の視界を黒く塗りつぶしていきます。


「悪いわね。あの姿をあまり見られたくないのよ」


「大丈夫です。この前教えていただいたおかげで、この暗闇の中でも動けますから」


「レナと違って、適応力が高くて助かるわ」


 エルフォニアさんはそう言うと、今度は悪魔の力を解放したらしく、肌を切り裂くような強い魔力を周囲に振りまきながら自身をも影で覆い包んでいきます。

 顔を腕で覆いながら、魔力視で彼女の動きを注視し続けること数秒。影の繭を吹き飛ばしながら姿を見せたエルフォニアさんは、先日見た悪魔のそれへと変貌していました。


 以前とは異なり、多くな翼をはためかせながら宙に浮いていることから、あれから相当な鍛練を積んでいることが伺えます。

 悪魔の中でもより上位個体であると言われるアザゼルさんの力を、一体どこまで使えるようになったのでしょうか……と神力を発動させながら身構えていると、エルフォニアさんがゆっくりとこちらへ手のひらをかざしてきました。


 その瞬間、私の全方位を囲むように無数の影の剣が出現し、その切っ先を一斉に向けてきました!


『まずは、小手調べよ』


 彼女本来の物と重なって聞こえる不思議な声がそう言うと、それを合図として剣の雨が私に向かって降り注いできます。

 慌ててその場に杖を突き、私を囲むように防護結界を展開させますが、その物量に敵うはずもなく、結界はヒビを作りながら悲鳴を上げていました。


 重すぎる威力と物量に苦しめられながらも、即座に魔力を集中させ、魔力圧を解き放ちます。

 私を中心とした魔力による衝撃波が発生し、周囲の剣が吹き飛ばされたのを確認したエルフォニアさんは、続けて腕を横に薙いで魔法を発動させました。それは影の兵士となり、私に向かってゆらりと剣を構えます。


 これは彼らを呼び出すしかありません。

 続けざまに魔力を集中させ、足元に金色の魔法陣を展開させます。


「我が想いよ、剣となりてここに形を成せ! 勇猛(ニャイツ)なる(・オブ・)猫騎士(ブレイヴリー)!!」


「「ニャー!!」」


「敵の数が多すぎますが、陣形を崩さずに持ちこたえてください! 私が本体を何とかします!!」


「ニャッ!! ニャニャー!!」


「「ニャー!!」」


 いつも来てくれる大剣を構えた猫騎士が指示を出し、それに応じて猫達が雄叫びのような鳴き声を上げながら影の兵士へと突撃していきます。

 混戦が始まるのを横目に見ながら、私はエルフォニアさんの方へと駆けだしました。

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