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754話 魔女様は介抱される

 次に私が目を覚ますと、見慣れない天井が真っ先に視界に入ってきました。

 ゆっくりと視線だけを動かすと、どことなく私の診療所の内装に近しい物を感じます。


「ここ、は……」


「お目覚めになりましたか、【慈愛の魔女】様」


 隣から聞こえてきた声に顔を向けると、そこには見知らぬ女性が腰掛けていました。

 夕日に照らされて輝いている、綺麗な金色の髪を持つ彼女は、橙色の目を片側だけ前髪で隠しています。


 服装から見て、修道女の方でしょうか。ですが、魔導連合に派遣されている修道女の方がいるなんて聞いたことがありません。

 困惑する私に気付いたらしく、その女性は少しだけ慌てたような仕草を見せました。


「これは大変失礼致しました。(わたくし)、【豊穣(ほうじょう)の魔女】セーリンデ=クルトワと申します。どうぞ、セリとお呼びください」


 にっこりと笑って見せるセーリンデ――セリさん。

 修道女ではなく魔女だったことに驚きはしませんでしたが、彼女が口にした家名に、私は驚きを隠すことができませんでした。


「クルトワ、と言いますと……その、かつてシリア様から師事を仰いでいたという、名家の末裔の方でしょうか」


「まぁ! 当家のことをご存じでしたか! しがない一貴族ではございますが、まさかグランディア王家の、それも第一王女様に認識していただけるなんて、至極光栄でございますわ」


 セリさんは修道服に見立てた魔女服の裾を摘まむと、貴族の方々がやるような優雅な礼を披露しました。

 彼女のその所作からして、まごうこと無き貴族の出身であることが容易に伺うことができます。


 今まで意識したことはありませんでしたが、私もグランディアの人間な訳ですし、同じようにした方がいいのでしょうか。などと考えていると、軽く慌ててしまっていた私をセリさんはくすくすと笑います。


「私の癖のようなものですので、どうかお気になさらないでくださいませ。出自を捨てた魔女と言えども、一度沁み付いたお作法と言うものはどうにも抜けませんの」


「そうでしたか、すみません……」


「謝らないでくださいませ。それよりも、お加減はいかがですか? 私の方で簡単な治癒は施させていただきましたが、どこか痛む場所などはございませんか?」


「……いえ、特には無いようです。気になると言えば、体内の魔力量がかなり減っているくらいでしょうか」


「それは当然かと。不発とは言えども、固有結界の発動に消費する魔力は戻ることがございませんので」


 セリさんはそう言うと、近くにあった水差しから水を注ぎ、グラスを私に差し出してきました。


「【反魂(はんごん)の魔女】様が血相を変えて飛び込んできたときは何事かと思いましたが、大事無くて何よりでございますわ。皆様、大層心配されていらっしゃいましたので、一息つかれましたら共に参りましょう」


「ありがとうございます、いただきます」


 水を喉に流し込み、一息つきながら改めてセリさんを観察します。

 柔らかな物腰に、親しみやすさのある表情。そして、レオノーラと似ているものの、こちらが本場だと思わされてしまう口調。

 それらを総括して一言で言い表すならば、間違いなく“お嬢様”と言えるでしょう。

 こうして本物の貴族令嬢の方を目の当たりにしたのは初めてかもしれません。と感慨に耽っていると、脳内でミーシアさんが抗議の声を上げたような気がしましたが、ひとまず置いておくことにします。


 そんな私の視線に気が付いたセリさんは、こちらに優しく微笑み返してくださいました。

 片目を隠していても伝わってくる、安心させようとしてくださる態度を見ながら、私もこんな風に見られているのでしょうか……などと考えていると、「ところで、話は変わるのですが」とセリさんが口を開きました。


「【慈愛の魔女】様は、かの始祖様の先祖返りであると小耳に挟みました。不躾な質問となり恐縮ではございますが、【慈愛の魔女】様は始祖様と接触なさっておられるのでしょうか」


「接触……そうですね。普段はシリア様と共に生活を送っています」


「それはつまり、始祖様と日夜触れ合いの機会があると言う事でしょうか」


「触れ合いと言われると少し語弊があるかもしれませんが、そうですね。食卓を囲みますし、お風呂や就寝も共にしています」


「お風呂!?」


 セリさんはぎょっとした様子で驚くと、しばらくぶつぶつと独り言を呟き始めてしまいました。

 やはり、魔導連合の創設者であり、【魔の女神】であるシリア様と距離が近いことを快く思われていないのでしょうか……と不安になりかけていると。


「【慈愛の魔女】様!」


「は、はい!」


「もしよろしければ、貴女様を抱かせていただけないでしょうか!?」


「……え?」


 突拍子もない要望を投げかけて来るのでした。

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