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753話 魔女様は連想する・後編

「煉獄よ、燃え盛れ!!」


「水よ、渦巻け!!」


「雷鳴よ、轟け!!」


「風よ、荒れ狂え!!」


「大地よ、隆起せよ!!」


「光よ!」


「闇よ!」


 あれから、様々な属性で結界を生成できないかと試してみてはいるのですが、どれも周囲を囲もうと一瞬だけ姿を現しては即座に霧散してしまい、まともに発動すらままならない状況が続いていました。

 リィンさんはとっくに飽きていて、私が不発し続ける様子を見ながらお菓子を食べ始めてしまっている有様です。


「どれか一種類に絞ってみた方がいいんじゃないんですかー?」


「それはもう試しました!」


 焦りからか、やや口調が強くなってしまいました。

 冷静さを欠いてはいけません。と自分に言い聞かせ、もう一度だけ光属性を強く励起しながら発動を試みます。


「光よ、悪しきを捕らえよ!!」


 体内の魔力が消費される感覚と共に、私達の周囲に光の壁がせり上がろうとします。

 全神経を集中させて維持を試みますが、やはり腰元あたりまでせり上がったところで止まってしまい、そこが最高到達点であるかのように崩れていってしまいました。


 ただ、いたずらに魔力を浪費し続けているせいか、私の体が強い疲労を訴え始めているのが分かります。

 頬を伝う汗を拭いながら呼吸を整えていると、仰向けの状態でこちらに顔を向けていたリィンさんが口を開きました。


「逆に気になったのですが、シルヴィの“心象世界の創造魔法”って言うのは何をイメージしながら発動しているんですか?」


「はぁ、はぁ……。あれは、何かをイメージしながらと言ったものではありません。大神様から教えていただいた詠唱を、そのまま口にしているだけです」


「それはおかしいですね。本来、魔法と言うものは詠唱だけで発動できる手軽な物じゃないんですよ?」


 リィンさんはクッキーを頬張り、咀嚼しながら続けます。


「それこそ、詠唱だけで発動できるなら魔術と一緒です。魔法はそこに、術者のイメージ力を付加することでさらに効力を増します。なので、実際に発動した例の魔法はシルヴィのオリジナルであるはずなんですよ」


 リィンさんの理論は、一理あると思います。

 塔とは無縁であるはずの大神様が、発動後の対象にあの塔を選ぶ理由は無いはずです。そう考えると、私の生きてきた中で最も辛かった塔が優先されたと捉える方が自然でしょう。

 ですが、あの塔は私個人としても見たくないものだからこそ、今まで固有結界のイメージと結びつけていなかったのも事実です。


「何を躊躇っているのかは知りませんけど、それじゃあいつまで経ってもできないと思いますよ。まぁ、例の魔法以外で強く想起できる場所があるなら、また話は別ですけど」


 私に縁のある場所……。診療所か不帰の森くらいしか思いつきません。

 あそこを戦いの場にするのは絶対に嫌ですし、何より閉じ込めるという行為と結びつきません。


 やはり、あの塔を対象にするしかないのでしょうか。

 考えるだけで気分が悪くなりそうですが、試してみるしか無さそうです。


 塔の中に幽閉されていた時のことを強く想起しながら、最適と思える魔法の属性を選択します。

 火、水、風、雷、闇。これらは無縁でしょう。であれば、残りは土と光ですが、あの塔に光を関連させたくないと私の心が否定しています。

 となると、土しか残りません。建造物であることも考えると、土属性で励起させるのが適しているのでしょう。


 思い返したくない記憶に気分が悪くなるのを感じながらも、私は発動を試みました。


「……大地よ、塔となりて形を成せ!」


 私の詠唱に応じ、私とリィンさんを囲むように灰色のレンガが急速に積み上がっていきます。

 それはやがて、殺風景な内装の部屋となり、私達を薄暗い一室へと閉じ込めました。


「できるじゃないですか。やっぱり例の魔法と関連付ける方が――シルヴィ?」


「はっ……はっ……」


 どうしてでしょうか。呼吸が、上手くできません。

 そんなこと、考えるまでもありません。私の体が、心が、この塔を強く拒絶しているのです。

 遂には立っていることすらままならなくなった私は、杖を支えに膝を突こうとしましたが、その力すらも入らず前のめりに倒れ込んでしまいました。


「シルヴィ、今すぐ術を解いてください! このままではあなたが危険です!!」


 遠くなりつつある意識を必死に繋ぎ止め、固有結界を解除します。

 塔が音を立てて崩れ始めると同時に、私の意識も完全に黒く塗りつぶされていくのでした。

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