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744話 異世界人は抑えない 【レナ視点】

「ごめんネフェリ、このことは……」


「分かってるって。シルヴィには言わないで、だろ? 知ったからってシルヴィが軽蔑するとかは絶対ないと思うが、心配させたくないんだろ?」


 落ち着くまでしばらく付き添ってくれていたネフェリに小さく頷くと、ネフェリはカラカラと笑った。


「しかしまぁ、あれだな。お前は本当に友達想いだな」


 ネフェリの言葉に顔を上げると、彼女はニッと笑いかけて来た。

 そのままあたしの頭をわしゃわしゃと撫でながら、ネフェリは言葉を続ける。


「何かあってからじゃ遅いからって力を抑えるのは、ある意味正しいかもしれない。でもな、何があっても止めてくれるから全力を出せる、って言うのも友達の形だとあたしは思うんだ」


「何があっても……」


「そう、何があっても。例えばだが、シルヴィが神力を暴走させてなんかヤバそうな化け物になったとしたら、お前はどうする?」


「え? うーん……。その状況が想像できないけど、たぶん何とか元に戻す方法が無いか探すと思うわ」


「だろ? それはお前がシルヴィを大切に思ってるから取れる行動だ。どうでもよかったら討伐するなり封印するなりすればいいしな。で、そこを逆にお前で当てはめてみろ。暴れ狂ってるお前を見て、シルヴィはどうすると思う?」


 そんなの、考えるまでも無い。

 優しすぎるあの子のことだから、何としてでもあたしを落ち着かせようとするはず……。

 そう考えた時、あたしの中で何かが腑に落ちた気がした。


「そうだ。エリアンテがお前に言いたかったのは、お前がいくら暴走しようが止めてくれる仲間がいるんだから、好きなだけ暴れて、少しでもその力を制御できるようになれってことだよ」


「そう、だったんだ」


 ちらりとエリアンテの方へ視線を向けると、宙に腰掛けていたエリアンテはサイドテールの毛先を弄びながら、少し恥ずかしそうに顔を赤く染めていた。


「まぁ、お前のその魔力反転って言う力が未知数な以上、あたしも何とも言えないところはあるぞ? でも、少なくともあたしやエリアンテは現代において最高峰の魔女の一人なんだ。新米魔女一人くらい、どうとでもしてやる自信はある」


 ネフェリはそこで言葉を切ると、あたしの方を少し強めに叩いて笑った。


「だからあたし達に見せてみろよ。シリア様が期待している、お前の本気って奴をさ」


「ネフェリ……。うん、分かったわ。出来るだけ全力でやってみる」


「おう! もしどうにもならなくて手足を切ってでも止めなきゃいけなくなっても、シルヴィを呼べばいいから気にすんな!」


 いやそれ、すっごい気にするんだけど……。

 そう抗議したいところだったけど、今の雰囲気では言い出せそうにない。

 あたしはシルヴィに倣って苦笑で誤魔化し、立ち上がって大きく伸びをした。


「うっし。それじゃ、あたしも見ていてやるからやってみろ。エリアンテも真面目にやれよ?」


「私はいつだって真面目です~」


「お前で真面目だったらあたしはクソ真面目になるな」


「うわっ!? ネフェリさん、クソとか言ったら品が無いですよ! せめて“お”を付けてそれっぽくしないと!」


「おクソって何だよ。訳分からないこと言ってないで早くしろー」


「はーい」


 エリアンテはひょいっと地面に降り立つと、どこからでも来いと言わんばかりに格闘の構えを取った。


「いつでもいいよーレナさん。その代わり、これで本気出せなかったら流石のエリアンテさんも容赦しないからね」


「分かってるわ。もう、さっきまでのように抑え込まない。今のあたしが出せる全力でやらせてもらうわ。……魔力反転――憎悪に舞え、墨染ノ桜!!」


 あたしはもう一度、あたしの中にある憎悪を燃やして墨染ノ桜を使う。

 それに呼応して、あたしを中心とした黒い桜吹雪の渦が発生した。

 ……うん。いつもより抑えない気持ちでいるせいか、かなり力が溢れてくる気がする。全身の隅々まで熱い魔力が行き渡ってるのが分かる。


 でもその代償として、気を抜けば我を失ってしまいそうな破壊衝動があたしを襲い続けている。

 正直、これ以上憎悪に飲まれればあたしはあたしじゃいられなくなるのは確実だと思う。


『でもやるわよね? 散々あたしを煽ってくれたあいつ、いい加減泣かせたいわよね?』


「――当然ッ!!」


 もう一人のあたしに力強く答え、さらに憎悪の出力を上げる。

 その瞬間、あたしを包んでいた衣装が様変わりし、墨染ノ桜モードの踊り子のような衣装へと切り替わる。


 衣装の変更、魔力の反転が終わり、渦が突風を伴って周囲へ散っていく。

 その中心で、あたしはこれまでに無いほどに燃やした憎悪の魔力に包まれていた。


 今なら、イケる気しかしない。


 口の端が自然と釣り上がるのを感じながら、フローリアの加護である“加速”の力を最大限に引き出しつつ、地面を強く蹴る。

 目標は当然、エリアンテの顔だ。


「えっ、早――」


 半秒にも満たない瞬間でエリアンテの真横に出現したあたしに対し、虚を突かれたとでも言うようにエリアンテは目を剥いている。

 もう抑えない。憎悪に飲まれてもいい。

 あたしは、ここにいる二人を信じるんだ!!


「だああああああああああああっ!!!」


 鞭のようにしならせた右足が、エリアンテの横顔を捉えた。

 この三日間で初めて一撃が入った瞬間に、あたしは達成感に満たされていた。

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