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736話 異世界人は力の差に凹む

 私の敗北という形で決着となり、競技場へ戻ってくると、既に戻って来ていたレナさん達が迎えてくださいました。


「あ、シルヴィおかえり。どうだった……って、その様子だと聞くまでも無さそうね」


 ただし、彼女も疲労困憊の様子で、です。

 その横では、傷一つないエリアンテさんが腰に手を当てながら、もう片方の手をこちらへひらひらと振って来ていました。


「おかえり~シルヴィさん! うちのラティス様、強かったでしょ?」


「勝手にあなたの所有物みたいに言わないでください。それよりも、そちらの方はどうでしたか?」


「ん~……戦いなれてるけど、かなり力任せな単調な攻撃が多いかなって感じ。五指レベルには辛うじて戦える素質はありそう」


「そうですか」


「で? お目当てのシルヴィさんを見れた感想は?」


 ラティスさんは私をちらりと見下ろすと、視線をエリアンテさんへ戻しながら言います。


「流石、と言えましょう。攻撃ができない分、勝ち筋がワンパターンにならざるを得ない点と、詰めが甘いのが課題ですが、状況判断能力と適応力は群を抜いて高いので、この一か月で目標には到達させられそうです」


「ひゅう!! ラティス様にそこまで言わせるなんて、やっぱりシルヴィさんは凄い魔女だねぇ~」


 にひひ、と笑いかけてくるエリアンテさん。

 続けて彼女は、「さて」とラティスさんへ向き直り話し始めました。


「それじゃ、事前確認も終わったことだし、プランニングの時間になるのかな?」


「そうですね。ではシルヴィさんとレナさん、あなた達は今日は休んで結構です。明日から本格的に鍛練を始めますので、今の内に英気を養っておくように」


「分かりました」


「ありがとうラティスさん。それじゃ行きましょ」


 レナさんに頷き、彼女と共に競技場を後にします。

 城内の廊下をお互いに無言で進み、あてがわれた客室へと戻ってくると、レナさんがソファーにドサッと腰を下ろし、深い溜息を吐きだしました。


「何か、嫌なことでも言われてしまいましたか?」


「嫌なことって言われればそうなんだけど、エリアンテが悪いわけじゃないから気にしないで」


 そうは言いながらも、レナさんはかなり凹んでいるように見えます。

 私は彼女の隣に腰を下ろし、話を聞いてみることにしました。


「私はレナさんの友達です。友達が凹んでいるなら、励ましてあげたくなるのも当然では無いでしょうか」


 レナさんは少し驚いたような顔を見せましたが、「何よそれ」と小さく笑いだします。


「じゃあ、そんな優しい友達に少し愚痴らせてもらおうかしらね」


「はい。誰にも言いませんよ」


「あたし達ってさ、シリアやフローリアに毎日見てもらってたじゃない? 戦い方だったり、対応の仕方だったりって」


「そうですね。それぞれの戦い方に合わせた鍛練をしていただいていました」


「うん。だからあたしも今まで戦えてたし、魔法を使った身体強化もかなり上手くなってる自信があった。でもそれって結局、あくまでもあたし達基準なのであって、大魔導士って言う尺度で見るとまだまだ新米だったんだなーって痛感させられちゃったのよ」


「エリアンテさんの魔法は、そこまで凄い物でしたか?」


「凄いなんてもんじゃないわよ。同じ風属性使いとして、そんな使い方できるの!? って驚かされ続けたし、あたしがあの力を使っても平然と受け流され続けて、一回も攻撃が当てられないまま負けたのよ?」


 魔力反転状態のレナさんが全力を出しても、一撃すら当てることができなかったのは初めてだったのではないでしょうか。

 力量を見定められていた中で、エリアンテさんから何を言われてしまっていたのかは分かりませんが、今までのレナさんの自信をへし折るには十分すぎるものだったようです。


 ここはひとつ、メイナードの言葉を借りてみることにしましょうか。


「ですがレナさん、メイナードはこう言っていました。“強さを求める時は、己より遥かに格上の存在と戦うのが早い”と。何が自分に足りないから負けに繋がったのか、相手は何を持っているから有利なのかなど、戦いながら原因を探っていくことで、メイナードは自身の糧としていたそうです」


「へぇ、あいつがそんなことを言ってたのね」


「とは言え、死んでしまったら学ぶこともできないので、絶対に逃げ切ることができる相手であることが前提であるそうですよ」


「あはは! 自然界に生きてるあいつらしいわね!」


 レナさんの沈んだ気持ちが少し戻って来たのを感じながら、私は自分なりの言葉で締めます。


「ですので、ここで私達が命を落とすことはありませんし、格上である皆さんの技をできるだけ見て盗んでしまいましょう。大魔導士とも渡り合えるという自信は、何よりの心の強さになるような気がします」


「そうね。シルヴィの言う通りだわ」


 レナさんはパシンと頬を叩くと、ぐぐっと大きく伸びをしました。

 心身共にリラックスできたらしい彼女は、いつもの表情に戻して私へ言います。


「それじゃ、もう一本付き合ってくれない? エリアンテが使ってた魔法があたしでも使えないか、試してみたいのよ」


「ふふ、いいですよ」


「あ、でもその前に」


 小首を傾げる私の前で、レナさんはベッドの上に身を投げ出すと。


「体の疲労を取ってほしいんだけど……ダメ?」


 と、可愛らしく強請ってくるのでした。

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