732話 魔女様達は再会する
バタバタとした出発となってしまいましたが、何とか時間通りに魔導連合に到着することができた私達は、総長室の前に立っていました。
「レナさん、準備は良いですか?」
迎えに来ていただく時間も無かったため、転移で跳んできたせいか、レナさんがまだ少し荒い呼吸を繰り返してしまっています。
そんな彼女は、私からの問いかけにふるふると小さく首を振ると、右の手の平を見せながら私に言いました。
「ちょ、ちょっとだけ待って……すぐ、息を整えるから……」
レナさんに苦笑を返し、彼女が呼吸を整え始めたのを見ながら、私は今日からの目的を再確認することにしました。
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「私達の特訓、ですか?」
レオノーラを心象世界から連れ帰ったあの日。
我が家に帰宅し、食卓を囲みながらシリア様が放った言葉を、私はそのまま復唱してしまいました。
『うむ。常日頃から、お主らの鍛練は欠かさぬようにはしておったが、あと一か月を切る今、さらなる追い込みが必要と思うてな』
「でもあたし達、今はそれどころじゃないんじゃ……」
『確かに時間は無い。じゃが、手分けをすれば何とでもなる段階じゃ』
シリア様はそう言うと、マジックウィンドウを出現させながら私達に説明を始めました。
まず、魔族領内に仕掛けられたと思われる“記憶干渉の術式”は、シューちゃんを始めとした各地域の領主、もしくは相応の実力者が担当。
シリア様から受け取った疑似神創兵器を打ち込み、魔族領全域を魔術師から保護する目的ですが、これは既にシリア様が仕込んだ魔法が発動していて、“魔術師に洗脳された魔族達が、魔女を探し出すための魔道具を各地に仕掛けている”と魔術師側に認識させるものなのだとか。
当時、シリア様がかなり疲弊しながら作られていたため、私も手伝いを申し出たのですが。
『これはお主の力を見越した対策じゃ。その本人が加担すれば、内側から妾の術を食い破ってくるやも知れんからな』
とのことで、全てシリア様に託さざるを得ませんでした。
そして、同じものを人間領にも仕掛ける必要があったのですが、これは予め各地で協力関係を取り付けることに成功した皆さんにも手伝っていただくことになっていて、そこに私達も加わる運びとなっていました。
それなのに、私とレナさんだけ外されると言う事に、どうしても疑問を感じざるを得ません。
レナさんと共に疑問を浮かべていた私へ、フローリア様が補足するように答えます。
「鉄壁の守りのシルヴィちゃんの対応幅を広げたいのもそうなんだけど、レナちゃんを特に鍛えてあげたいんだって~」
「え、あたし?」
「ほら、レナちゃんってばシルヴィちゃんには一回も勝ててないでしょ? それはシルヴィちゃんみたいに、魔法と神力を臨機応変に切り替えられてないからってことなんだって~……あむっ」
パスタを口に運んだフローリア様に続き、シリア様が口を開きます。
『レナは反射神経と運動能力の高さに目を見張るが、魔法が人並みに使えない欠点がいつまでも足を引っ張っておる。そこさえ克服できれば、シルヴィに並ぶことも容易なはずじゃ。それほどまでに、お主が会得した“理外の力”は可能性を秘めておるからの』
「そこで、二人には特別講師を付けてもらうことになりました! ぱちぱちぱち~!」
「「特別講師?」」
言葉を重ねた私達へ、シリア様は頷き。
『お主らは三日後の十時に、トゥナの下へ向かうのじゃ。全てはそこで分かろう』
と、謎を含んだ指示を出すのでした。
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一通り再確認を終え、これから魔導連合で行われる特訓とは別に、来月に迫っている決戦までの下準備に不安を募らせていると、ようやく落ち着いたらしいレナさんが私に声を掛けてきました。
「お待たせシルヴィ。もう大丈夫よ」
「分かりました。では、入りましょうか」
レナさんが頷いたのを確認し、扉をノックしてから中へ声を掛けます。
「アーデルハイトさん、【森組】です。遅くなりましたが到着しました」
「お? シルヴィちゃんか? いいぞー、入ってくれ!」
今の声はアーデルハイトさんではなく、ヘルガさんのものです。
きっといつものように、お二人が中にいらっしゃるのでしょう。
失礼します、と前置きしてから扉を引きます。
すると、中にいたのは――。
「お久しぶりですね、シルヴィさん」
「シルヴィちゃん、はろはろ~♪」
「ラティスさん! それに、エリアンテさんも!」
今日は騎士風の見た目ではなく、魔女らしい服装に着替えているラティスさんと、先日会った時と変わらないエリアンテさんがいらっしゃいました。
しかし、肝心のアーデルハイトさんの姿は無く、中にはヘルガさんを含めて三名しかいらっしゃらないようです。
そんな私の疑問に気が付いたのか、ヘルガさんが笑いながら言いました。
「トゥナならちょっと用事があるからって出かけてるぜ。午後には帰ってくるはずだ」
「そうでしたか。では、私達の特訓は午後からになるのでしょうか?」
「いや? 特訓の相手ならここにいるだろ?」
「え?」
まさか……と思い、ラティスさんとエリアンテさんの顔を見てしまいます。
すると、彼女達はそれぞれ頷き。
「シルヴィさんの今日の鍛練の相手は、私が務めます」
「レナちゃんの相手は、この美少女大魔導士であるエリアンテさんが務めてあげよう!」
「「え……えぇー!?」」
私達の予想もしない回答を口にするのでした。




