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34話 暗影の魔女は先生役になる

『あぁ、【慈愛の魔女】か。どうした?』


「こんばんは、アーデルハイトさん。その、ひとつお聞きしたいことがありまして」


『聞きたいこと?』


 アーデルハイトさんに尋ねようとした矢先、シリア様に代わるようにと言われました。

 シリア様の乗っているテーブルの上にウィズナビを置き、以降の通話を交代します。


『……トゥナよ、聞こえておるか。妾じゃ』


『先生! 私に聞きたいことというのは、一体……?』


『今、我が家にエルフォニアが来ておる。お主に差し向けられたようじゃが、これはどういうことじゃ? なぜ妾に一言も無い?』


『エルフォニアが? いえ、私はそのような指示は…………。おいヘルガ、お前何を笑っている。何か知っているな?』


『だっはははは! わりぃわりぃ、それは俺なんだわ!』


『お前! また勝手に私の署名を使ったな!? あれほど勝手に使うなと――』


『おいおい、俺だって悪戯に使ってる訳じゃないぜ? ちょっと代わってくれ……。おーっすシルヴィちゃん、いきなりエルフォニアが来てびっくりしたよな。悪かったな! あ、今はシリア様が聞いてらっしゃるのか?』


『妾も聞いておるが、シルヴィもおる。構わぬ、続けるがよい』


『えーっとですね、程度エルフォニアから説明はあったと思いますが、シルヴィちゃんとレナちゃんに魔女としての一般教養を教えるっていうのがひとつの目的なんですが、エルフォニアに頼んだ理由が別にありまして』


 別の理由? と私達が顔を見合わせると、ヘルガさんはそれを察しているかのように続けます。


『エルフォニア、今まで誰かに興味を示すこと一切なくてずっと孤立してたんですけど、珍しくシルヴィちゃん達に反応してたんで、せっかくだから人との接し方を学ばせようかと思って今回依頼したんです』


 ヘルガさんの言葉を聞いた私達は、同時にエルフォニアさんへと視線を送りました。


「……今まで、誰かに負けたことなんて無かったのよ。それこそ師匠くらいしかないわ」


『自分の方が強ければそ奴には価値が無いと感じるタイプか。面倒な性格をしておるのぅ』


「そこまでは言わないわ。その人からは学ぶものが無いと思うだけ」


 それは同じ意味では無いでしょうか……。

 ともあれ、魔導連合の中で孤立していた彼女を何とかしたい、というヘルガさんの気遣いだったことは分かりました。


「シリア様。私としては、エルフォニアさんから魔女の歴史を教えて頂くことに異論はありません」


『じゃが……』


『シリア様、どうか後進の魔女の育成だと思ってお願いできませんか! 何かあればこっちでもチェックできる体制は取っておきますから!』


『……私もやるのか?』


『当ったり前だろ!? 加盟してる魔女の面倒ひとつ見られなくて何が総長だよ!』


『お前なぁ、自分で好き勝手やっておいてあとは投げるってどうなんだ?』


『お前ひとりとは言わねぇよ! 俺も見るからさ! な? な!?』


『はぁ……。先生、お手を煩わせてしまいますが、どうかお願いできませんでしょうか』


 アーデルハイトさんにも頼まれたシリア様は深く考え込み、しばらく悩んだ末に嘆息混じりに答えました。


『あい分かった。シルヴィ達の教師役兼、コミュニケーションを図る友人役として妾の方でも様子を見よう』


『いよっしゃ! さすがはシリア様! お話が分かる偉大な神祖様ですね!!』


『都合よく持ち上げるでないわ、たわけ。しかし、うちに住み込みという訳では無かろうな?』


『それは勿論です! 必ずそちらへ向かうときは魔導連合に顔を出させるようにしますから!』


『うむ、ならば定期的に通ってもらうことにするかの』


『すみません先生、ありがとうございます。エルフォニアをよろしくお願いします』


『あとは本人次第じゃがな。では切るぞ』


 シリア様はウィズナビを前足で操作し、通話を終了させました。

 そしてエルフォニアさんに向き直り、これまでの話を要約して伝えます。


『という話じゃ。お主にはこれから定期的に通いながら、シルヴィ達に歴史と知識を教えてやってほしい。見返りは……そうじゃな、お主の魔法技術の向上を妾が確約しよう』


「あら、【慈愛の魔女】達の魔法式の組み方から見て学ぼうかと思っていたけど、そこまで見て頂けるのね」


『無償でやらせる訳が無かろう。お主に提示できる対価としては十分か分からぬが、それでも構わぬか?』


「えぇ。神祖様から直接学べる機会なんて、通常なら叶わないもの。こちらからお願いしたいわ」


『うむ、ならば契約成立じゃな。日程は追々決めるとして、これからよろしく頼むぞ』


「エルフォニアさん、よろしくお願いします」


 エルフォニアさんに笑みを向けると、技練祭で時折見せていた柔らかな表情が返ってきました。

 もしかしたら、エルフォニアさん自身はコミュニケーションが苦手なのではなく、本当に強い人にしか興味が湧かないストイックな人だったのかもしれません。


『さて、今晩はもう時間も遅い故、うちで一泊して行くがよかろ。シルヴィよ、妾は講義部屋を客間に戻してくる。その間に飯の支度を頼む』


「分かりました」


 シリア様がテーブルから飛び降り、エルフォニアさんのために客室を整えに向かって行きました。


 これからゆっくり、彼女についても知って行こうと思う私ですが、この時、エルフォニアさんを迎えるにあたって重要なことを忘れていたのでした。

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