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718話 魔女様は一太刀浴びせる

「どうした人間!! 先ほどから逃げ回ってばかりでは無いか!! 我を討ち取りたいのだろう? ん?」


「私は、あなたと戦いたくて来た訳では――きゃあ!!」


 私の逃げ道を塞ぐように、前後に黒炎弾が撃ち込まれます。

 そして足が止まった私を、再び影の槍を差し向けられました。

 ディヴァイン・シールドでそれを弾き飛ばし、再度距離を取ろうとする私に、魔王レオノーラが苛立ちを込めた舌打ちをしてきました。


「我の魔法をいとも容易く防ぎおって、忌々しい……。ならば、これでどうだ!?」


 魔王レオノーラは両手を大きく広げると、魔力を爆発させながら詠唱を開始しました。


「帳は降りた。ここがお前の領地である。己が領土を侵さん者を排斥せよ! 影に飲まれ(ソーンブラ・)し闇騎士(エスパーダ)!!」


 あの魔法は見たことがあります。

 かつて、【始原の魔女】が五人がかりで魔王レオノーラを相手にしていた時に使用した、漆黒の騎士の召喚魔法です。


 その詠唱に応じて、シリア様の記憶の中で見せたままの姿をした漆黒の騎士が、大剣を手に魔法陣の中から現れました。

 あの時は空中で戦っていたのを見ていたためサイズ感が掴めませんでしたが、いざ対峙してみると、メイナードを縦に二体……いえ、下手したら三体分はあるかもしれません。


 私なんかひと薙ぎで断ち切れそうな大剣を弄んだ騎士は、それを肩に乗せ、こちらの出方を伺うように構えて見せました。

 その奥では、魔王レオノーラも同様に私がどう対応するのかと、玉座に腰掛けて高みの見物をしています。


 あの巨体を相手に、私の猫騎士が戦えるかは分かりませんが、私自身の手札にあれを抑える手段はひとつしかないため、時間を稼ぐ目的でも召喚してしまった方がいいかもしれません。

 そう判断した私は、杖の柄を床に突き、神力を発動させながら詠唱を開始します。


「我が親愛なる友を護るため。我らが未来を切り開かんがため。我が想いよ、剣となりてここに形を成せ! 勇猛(ニャイツ)なる(・オブ・)猫騎士(ブレイヴリー)!!」


「「ニャーッ!!」」


 私の頼もしい猫騎士達は、今日も勇ましく各々の獲物を掲げながら姿を現しました。

 私の三分の一程度しかない体躯の猫達を見た魔王レオノーラは、しばらく呆気にとられたかのように表情を失っていましたが、やがて堪えきれないと言うかのように笑いを爆発させました。


「クハッ! クハハハハハハ!! なんだそのふざけた猫共は!? それが貴様の従者なのか!? クッフ、フハッ、フハハハハハ!! そうか! 力では及ばぬと理解し、我を笑い殺す策に出たのか!! 良い、良いぞ人間!!」


 魔王レオノーラのその言葉に、猫達がプルプルと震えているのが分かります。

 どうやら、彼らもバカにされて怒っているようです。

 私は猫騎士達に支援魔法を掛け、魔王レオノーラへ言います。


「私の騎士は愛くるしい見た目だけが武器ではありません。時に、ドラゴンですら倒せるほどの実力を持っています」


「クッハハハハ!!! ドラゴンだと!? 大きく出たな人間! 神話の生物を、どう倒すと言うのだ! 虚勢は見事だが、冗談は見た目だけにしておけ!! やれ!!」


 彼女の指示に従い、漆黒の騎士が私達をまとめて薙ぎ払わんと大剣を振りかざしてきました。

 それを真っ向から受け止めて見せると言うように、大盾を構えた猫が先頭に立ち、腰を低く構えます。

 それから数秒と経たずに、大剣と大盾が激突し、鈍い金属音と共に衝撃波が私を襲いました。

 しかし、襲って来たのはあくまでも激突の際に生じた衝撃波のみで、大剣本題はガッチリと盾に防がれています。


「バカな!? その猫の何倍の質量だと思っている!?」


「言ったはずです。私の騎士は、ドラゴンを相手に勝って見せたと」


「人間風情が、粋がるなよ……!」


 魔王レオノーラから莫大な魔力供給を受けた漆黒の騎士が、声なき咆哮を上げ、再び大剣を振るってきました。

 それに合わせて大盾を構えた猫が飛び上がり、空中でその一太刀を防いで見せます。

 圧倒的な質量差なのに吹き飛ばされない猫に驚いてしまいますが、彼らの連携はそこからでした。


「ニャニャ!」


「「ニャー!!」」


 可愛らしく猫語でやり取りをした騎士達は次々と飛び上がり、盾で防がれている大剣へと飛び移ります。

 その大剣を駆け上った騎士達は、漆黒の騎士の顔に渾身の一撃を繰り出し、彼らが飛び降りてくると同時に、杖と弓を構えた猫達による遠距離攻撃が漆黒の騎士の顔を襲いました。


 堅牢な鎧で身を護っていると言えども、人型である以上は顔が弱点。

 それを証明するかのように、漆黒の騎士の巨体が揺らぎ、地響きを立てながら後退しました。


「ほう、我が下僕にダメージを与えるとはな。存外、侮れぬものよ。ならば、趣向を変えるとしよう」


 魔王レオノーラはそう言うと、パチンと指を鳴らしました。

 すると、漆黒の騎士の巨体が一瞬で掻き消えたと思ったのも束の間。

 一般的な男性よりは背丈の高い大きさとなった漆黒の騎士が、こちらの猫騎士達の数に合わせて出現したではありませんか!

 目を凝らして魔力の流れを見てみると、それぞれが同じ魔力を保有していることから、あの一体が細かく分裂したと考えた方が良さそうです。


「さぁ、第二ラウンドと行こうではないか。無論、我も傍観するだけでは無いぞ?」


 漆黒の騎士達の前にふわりと降り立った魔王レオノーラは、くるくると影の槍を弄びながら構えます。

 あの槍を捌きながら、万象を捕らえ(アーレスト・)る戒めの槍(ジ・オール)を発動させるための印を刻める自信がありませんが、とにかくやれるだけのことは全てやるしかありません!

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