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717話 ご先祖様達は駆け回る 【レナ視点】

 シルヴィを残して走り出してから間もなくして、魔王城全体を揺るがすような振動があたし達にも伝わって来た。


『急ぐぞ。妾の推測が正しければ、あの魔術を受けた者は“魔女との関りを持った記憶”が消されておる』


「それってつまりどういうこと!?」


『簡単に言えば、妾が対峙した頃の魔王レオノーラに戻っておると言う事じゃ』


「えぇ!? じゃあシルヴィだけじゃ危ないんじゃないの!?」


『危険じゃ。じゃが、お主が加勢すればさらに危険が増す』


「なんでよ! あたしじゃ力不足だって言うの!?」


 シリアの言葉に、ついイラッと来てしまったあたしに、シリアは冷静に言葉を返してくる。


『レオノーラの魔法は非常に厄介での。僅かに掠めただけでも、そこから呪いが進行し始めるのじゃ。して、その呪いは一切の回復魔法を受け付けぬが故に、多少の被弾なら無視して攻め続けるお主とは最悪の相性なのじゃよ』


「シルヴィちゃんのことだから、何とかしてレナちゃんを守ろうとし続けた結果、無理したところを狙われて負けちゃうかもしれないってことよ」


『援護したいという気持ちは分かるが、今の妾達がやるべきことは、魔術師の術式に対抗策を撃ち込むことじゃ。幸い、こと守りに関しては右に出る者がおらんシルヴィじゃ。長くは持たぬやも知れぬが、妾達が戻るまでの時間は稼げるじゃろうよ』


 冷静に返すシリアだけど、その足取りはさっきよりも急いでいるように見えた。

 そうよね。レオノーラと直接戦ったことがある本人だもの。一人で戦うことがどれだけ危険かなんて、誰よりも理解しているはずだわ。

 そのシリアがシルヴィを信じているんだから、ここであたしが引き返すなんてことはできないわよね。


 悔しさと心配をぐっと飲みこみ、今やるべきことに集中するために確認する。


「あたし達は具体的には何をしたらいいの? 手分けできるならそっちの方が効率よく進められるはずよ」


『うむ。お主はフローリアと共にこれを配置してくれぬか?』


 そう言いながらあたしの前にポンっと出てきたのは、アウトドアでテントを張る時に使うような杭だった。

 やや大きめのそれには、何故か杖を抱いている招き猫っぽいのが付いているのが可愛らしい。


「もしかして、これが例のアレなの?」


『うむ。説明用に持って来た試作品ではあるが、魔王城を干渉から防ぐだけなら十分じゃろうて』


「オッケー。場所はどことかある?」


 シリアは器用に、走りながらマジックウィンドウ上で指定のポイントをマークしてくれた。

 そのポイントは全部で五か所。そのポイントを全て線で繋ぐと、ちょうど五芒星の形になるように見える。


『妾はエミリとティファニーを連れて三か所を回る。お主らは右側の二か所を頼むぞ』


「まっかせて! バッチリ終わらせてすぐに合流するわ!」


『……くれぐれも頼んだぞ、レナ』


「えぇ!? どうして私には頼んでくれないの~!?」


 あんたは日ごろの行いがあるからでしょ。


「分かったわ。それじゃ、終わり次第ウィズナビで連絡すればいい?」


『うむ。じゃが、終わったからと言ってシルヴィの下へ向かう事だけはするでないぞ』


「分かってるって」


『ではエミリよ。狼の姿になるのじゃ』


「うん!」


 元気に返事をしたエミリは、一瞬だけその姿をブレさせると、毛先が薄紫色の白い狼の姿へ変身した。

 もふもふとした毛並みにシリアが飛び乗り、続いてティファニーも手慣れた動きでその背中によじ登る。


「さぁエミリ! お母様を助けるために急いでください!」


『分かった! ちゃんと捕まっててね!』


「はいっ! ……きゃあ~!!」


 楽しそうな悲鳴を上げるティファニーを乗せて、どんどん小さくなっていくその背中を見ながら、あたし達も反対側へと向かっていく。

 えーと、一か所目は魔王城の東部だから、兵士訓練所になるのかな。となると、そこの窓から飛んだ方がショートカットできそうね。


「フローリア! そこから飛ぶわよ!」


「えぇ~!? めちゃくちゃ高いんだけどレナちゃん!?」


「あんた神様なんだからふわっと着地できるでしょ!」


「できるけど怖いことは怖いのよ~!」


「あーもう! つべこべ言わずに飛ぶの! ほら、抱っこしてあげるから行くわよ!!」


「え!? それってもしかしてお姫様抱っこしてもらえるのかしら!? やだ~! お城の中から脱出するのにお姫様抱っこだなんて、レナちゃん王子様~!!」


 あ、なんかイラっと来た。

 このままあたしだけ先に行こうかしら。


「わ~!! 待ってレナちゃん! 嘘! 嘘よ嘘! お願いだから抱っこして飛び降りて~!!」


「普通、体格的に逆なんだけどね? ほら」


 フローリアを抱き上げると、身長の割りに重さを感じさせない反則的な重量があたしの腕に伝わって来た。

 ホント毎回思うけど、この身長でこの胸の大きさで、何でこんなに軽いのよ……。納得いかないわ。


「どうしたのレナちゃん? 私はいつでもおっけ~よ♪」


「……また太ったかなーって思っただけよ」


「ふ、太ってないもん! ちょーっと、冬に向けて貯蓄してるだけだもん!!」


「それ太ったって言ってるのと同じだから。んじゃ、行くわよ!!」


「きゃあ~! 空を翔ける少女~!!」


 どこかから怒られそうな形容をされながら、あたしは魔王城の三階からひょいと飛び降りた。

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