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33話 暗影の魔女は押し掛ける

 案内係の方に家まで送っていただき、先にお風呂に入りたいと言うレナさんとフローリア様にエミリもお願いし、私とシリア様はメイナードの背に乗ってハイエルフの集落へと向かいます。技練祭に向かう前日に、この前フローリア様が持ち帰ってきたお米が出来たというお話を頂いていたので、それを受け取りに行くためです。


 集落の入口で降ろしてもらい、偶然外を出歩いていたスピカさんに声を掛けます。


「こんばんは、スピカさん。先日お話しいただいたお米を頂きに参りました」


「おぉ、魔女殿か! 今取ってくるから、少し待っていてくれ!」


 スピカさんは近くにいた方に指示を飛ばして取りに向かわせると、その方は凄い速さでお米を取って来てくださいました。


「お待たせしました魔女様! これすっごい美味しかったですよ~!」


「本当ですか?」


「あぁ。実ったままでは調理には向かないようだが、外の殻のようなものを取ってから蒸すと驚くほどふわっとした仕上がりになってな。そのまま食べても自然の甘みを感じる、いい植物だ」


「育てて頂いてありがとうございます。もし良ければ、今後も育てて頂いて、治療と引き換えに分けて頂ければと思うのですが……」


「むしろ我らからも頼みたい。こんな植物は初めてなものでな、どのように手を加えて美味しくしようかと楽しみなのだ。出来上がったものは魔女殿の治療代としてお分けしよう」


 それでお願いします、とスピカさんに礼を言って握手すると、「そうだ魔女殿」と何かを思い出したようにスピカさんが話始めました。


「魔女殿が来る少し前だが、魔女殿の知り合いという方が見えていたぞ。その方も魔女だという話だったが」


「知り合い、ですか?」


「あぁ。なんでも魔女殿の先輩にあたる魔女らしく、魔女殿に貸しがあるのだとかなんとか言っていたか」


 シリア様に何かご存じですかと尋ねるも、首を振られてしまいました。私の先輩で、何か借りがあるような人物は私の記憶には誰も該当しません。一体誰の事なのでしょう……。


「スピカさん、その方は今どこへ?」


「それがだな、居合わせた獣人族の者が魔女殿の家を教えてしまって、そちらへ向かったようでな……」


 もしかしたら、私の家で待ち伏せされていたのかもしれません。だとすると、レナさん達が危険です。


『戻るぞシルヴィ、何かあってからでは間に合わぬ』


「ありがとうございますスピカさん! これから急いで戻りますので、また!」


「あぁ、気を付けてくれ魔女殿!」


 メイナードに乗り、私達は急いで家へ帰ります。レナさん達はお風呂へ向かいましたが、大丈夫でしょうか……!?

 ドタバタと別棟の中へ入り、脱衣所の扉を開きます。ここは特に荒らされたり、戦闘があったような形跡はありません。

 続けてお風呂場に入ると、ちょうど三人が仲良く湯船に浸かっているところでした。


「な、なに!? そんなに息切らせてどうしたの!?」


「レナさん! お風呂に入る前に、私達以外に誰かいませんでしたか!?」


「み、見てないけど……。フローリア知ってる?」


「う~ん、誰も見てないと思うけど……。あ、でも言われてみれば家の中に誰かいるわね~」


「はぁ!? なんでそれ言わないのよ!?」


「だって言われるまで気づかないくらい、薄い魔力反応だったんだも~ん」


 レナさんに怒られながら揺さぶられているフローリア様をそのままにして、私達は急いで家の中へと駆け込みます。


『シルヴィ、妾もようやく掴めた! 診療所ではない、二階じゃ!』


 シリア様に教えていただき、二階へ続く階段を駆け上ります。すると、食堂へと続く扉が開かれていることに気が付きました。


 杖を取り出し、拘束魔法を準備しながら食堂の中へ飛び込みます。


「動かないでください! ここは私の家――で……?」


「あら、遅かったのね。お邪魔してるわ【慈愛の魔女】」


「え、エルフォニアさん……?」


 食卓で寛いでいたのは、昨日死闘を繰り広げた相手である【暗影の魔女】エルフォニアさん、その人でした。


 私の疑問の意図を汲んだエルフォニアさんは、当然のように答えます。


「獣人種に教えてもらったのよ」


「いえ、そういうことではなく……。その、うちへご招待した記憶はないのですが……」


「あぁ、そっちの話ね。いきなり聞くようで悪いけど、あなた達魔女になってから日が浅いんですって?」


「え、えぇ」


「そこで、あなた達に魔女としての知識を教えて欲しいと、総長から少し頼まれているのよ。シリア様がいらっしゃると言う話も聞いているけど、シリア様自身も現界されたのはここ最近の話でしょう? なら、シリア様がいなかった時代の魔女の歴史とかは誰も教えることが出来ないんじゃないかしら」


 彼女の言葉は、一理あるかもしれません。

 如何にシリア様と言えど、ご自身が現界されたのはつい半年ほど前の事ですし、それよりも前の知識となると生前の二千年前のものに遡ることになります。


 それはシリア様自身も感じていたようで、やや悔しそうに口を開きました。


『……確かに、お主の言う通りじゃ。この二千年の間に何が起きたかなぞ、妾と言えども細かくは分からぬ』


「そこを補うようにと、総長からのお達しよ。詳しくは総長自身に聞いて頂戴。私も閉会式の後に手紙越しに言われたばかりだから、もしかしたら上手く伝えられてないかもしれないし」


 そう言うとエルフォニアさんは、どこからか取り出した一枚の赤い手紙を私達に見せてきました。

 手に取って内容を確認すると、確かにアーデルハイトさんの署名が入った行動命令書のようなものです。


『シルヴィよ、ウィズナビでトゥナに連絡をせよ。いまいち状況が理解できん』


 シリア様に頷き、ウィズナビでアーデルハイトさんの顔を選択して連絡を開始します。少し呼び出し時間がありましたが、すぐにアーデルハイトさんは私からの呼び出しに応じてくださいました。

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