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716話 魔王様は我を失う

 レオノーラからの不意打ちを受けた私でしたが、ソラリア様の加護のおかげで直接的なダメージは無かったものの、その衝撃までは無効化できませんでした。


「あっ……!!」


 壁に激しく叩きつけられ、肺の中の空気が押し出されます。

 続けて襲い来る全身の痛みに顔をしかめ、ずるりと床に崩れ落ちる私を、レオノーラは先程と変わらない体勢のまま睨みつけてきていました。


 その目には明確な殺意が浮かんでいて、数秒前までの私を案じてくれていたレオノーラとはまるで別人のようです。


「レオ、ノーラ……?」


 私の呼びかけに、彼女は再び手のひらに魔力を集中させ始めると。


「気安く我の名を呼ぶな、人間が」


「……っ!?」


 普段からはまるで想像できない低い声でそう言い、再び私へ魔法を放ってきました!

 慌てて横に転がってそれを躱し、爆音と共に大穴が開けられた壁と、穴を開けた張本人を見比べます。

 今の一撃は、牽制や威嚇などではありません。確実に仕留めるつもりのそれです。


 シューちゃんやレオノーラの話では、私と関わった記憶が消されているとの事だったはずですが、今のレオノーラからはそれ以上の憎しみや怒りを感じます。


 まるで、シリア様の記憶の中で見た魔王そのもの――。


 そんなことを考えていると、レオノーラは続けざまに影で出来た槍を数本出現させ、それをこちらへ投げつけてきました!


「ディヴァイン・シールド!!」


 鋭利な矛先を盾で防ぎますが、十分な魔力の練り上げが出来ていなかったせいで、重すぎるその威力の一部が盾を通してフィードバックされます。

 ビリリと瞬間的な痺れが私の腕を襲い、苦悶の声を漏らした私へ、ゆらりと立ち上がったレオノーラが問いかけて来ました。


「貴様、どうやって我が城へ入って来た」


「私はあなたに招かれて来た友人です! 気をしっかりしてください、レオノーラ!」


「気安く我が名を呼ぶなと言ったはずだ!!」


「ぐっ……!!」


 レオノーラの怒りに呼応して現れた多数の槍が、私の盾を貫こうと飛来してきます。

 ソラリア様との共闘でディヴァイン・シールドを会得できていなかったら、とっくに串刺しになっていたかもしれません。と、今更ながらに痛感していると、レオノーラは槍を投げつけるのを止めて別の魔法の準備をし始めました。


「まぁ良い。久方ぶりの客人だ、盛大にもてなしてやらねば無礼と言うもの」


 魔力の波長から、転移魔法だと思われます。

 そう気付いた時には既に遅く、レオノーラと私の足元に紫色の魔法陣が現れ、強く発光を始めました。

 それから間もなく転移魔法が使用され、若干の浮遊感を経て移動した先は、魔王城の玉座の間でした。


「この城を汚らわしい人間の靴で踏み荒らされたのは、貴様で二度目だ。生きて帰れるなどと思うてくれるなよ?」


「えっ……?」


 手のひらの上で、闇の炎を燃え上がらせながら言い放った彼女の言葉に、私は違和感を覚えました。

 私の記憶違いでなければ、魔王城の内部まで攻め込まれたのは、シリア様が行動を共にしていた勇者一行の時で二度目だったはずです。


 数え間違えでしょうか。いえ、レオノーラに限ってそんなことはあり得ないと思います。

 となると、つまり――。


「我を前にして呆けるなど、舐めてくれたな人間!!」


「きゃあ!?」


 声を怒りの色に染め上げたレオノーラから、黒炎が投げつけられました。

 それを防ぐと同時に目の前で爆発が起き、私の視界を一瞬奪ってきます。

 その一瞬でレオノーラは私との距離を詰めていたらしく、私の盾を下から強く弾き飛ばしてきました。


「隙だらけではないか、小娘。もっと我を楽しませよ」


「あぐっ……! ああああああああっ!!」


 即座に体を捻ったレオノーラに、私のお腹が鋭く蹴り飛ばされました。

 痛みこそ無いものの、その衝撃で再び壁に叩きつけられた私が顔を上げると、そこには槍で私を串刺しにしようと構えているレオノーラがいました。

 全身に魔力を流し、身体強化を施してその場から横っ飛びに逃げると、レオノーラが放った槍は、私が叩きつけられていた場所を穿ちながら黒い炎を立ち昇らせます。


 あの炎の効果は、恐らくシリア様達を苦しめていた呪刻魔法でしょう。

 万が一にでも受けてしまえば、私の治癒魔法でも解除できない呪いが刻まれるのだと思います。


 最早、私の友達のレオノーラとして見るのではなく、かつて世界を統べようとしていた魔王レオノーラとして対峙しているのだと判断するほかありません。


 シリア様。可能な限り時間は稼ぎますが、なるべく早く戻ってきてください。

 全力の魔王を前に、無事でいられる自信がありません……!

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