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713話 魔女様は共有する

「簡単に言えば、(わたくし)達魔族は現在、魔術師から一種の記憶消去魔法による攻撃を受けておりますわ」


「魔術師から!?」


 ガタッと席を立ったレナさんに、レオノーラは頷きながらマジックウィンドウを表示させました。

 そこには、魔族領の全土が表示されていましたが、その八割ほどが薄い赤で覆われているように見えます。


「こちらは現在の被害状況ですの。私が確認している限りでは、およそ八割の地域に影響が出ておりますわ」


「その影響と言うのは、やはり……」


「えぇ。いずれも“魔女”に関する記憶が消されておりますの。それに伴い、“魔女の橋渡しによってもたらされた人間との和平”も崩れかけております」


『待てレオノーラよ。何故あ奴らが魔族に攻撃を仕掛けてきておる? あ奴らはそもそも、十二月までは世界に不干渉だと約束しておったのではないのか?』


「えぇ、私もそう聞いております。そうでしょう、シルヴィ?」


「はい。私達から魔術師に干渉しなければ、決戦の時までは世界に干渉しないという約束だったはずです」


「なら何で……。もしかして、元々約束は守る気が無くて、魔女側の動きを鈍らせたかっただけってこと?」


「分かりません。ですが、少なくともあの時のプラーナさんは、その約束を軽んじていたような雰囲気は無かったと思います」


 そう言いながらも、当時のプラーナさんとの会話を思い返します。



『貴女に計画を理解していただく予定でしたが、対立してしまった以上は仕方がありません。魔女と魔術師の未来、そして世界の行く末を決める舞台を改めて用意することにします』


(きた)る十二月、オルゲニシア山脈の頂上で決着をつけましょう。時期が来たら、私達の方から使者を向かわせます』


『もし貴女達からこちらに手出しせず、半年後まで干渉しないと言うのであれば――。各地の魔術師を撤収させ、世界に不干渉の形を取りましょう』


『魔術師の方々が、各地で悪行を働いているという話は十分聞いています。仮にこの場で口約束をしたとして、本当に各地から撤収してくださるとは考えにくいのですが』


『そこは私を信用していただく外ありません。ですが、仮にも私は魔術師を率いる最高位の人物です。私の指示ひとつで、魔術師をどこに派遣するかも決められると言うことをお忘れなく』


『……分かりました。半年後に、あなた達と違う形で手を取り合えるように努力します』



 少なくとも私達は、あれから魔術師関連の事件に巻き込まれたことはありませんし、魔導連合からも魔術師に関する情報提供や報告なども受けていないはずです。

 そう考えると、やはりプラーナさんのあれは口約束だったのでしょうか。

 多少でも分かりあえるのかもしれないと期待していた分、ショックを受けてしまいそうになっていた私へ、シリア様が声を掛けてきます。


『妾達は奴らに干渉した覚えはない。そもそも、あれ以降奴らを見たことすらなかったからの。お主もそうじゃろう?』


「はい。私も見た覚えは――」


 ありません。そう言いきろうとして、私の脳裏に一つの可能性が浮かび上がってしまいました。



 もしかしたら、あの“時の牢獄”に囚われていた時のことで、私達から干渉されたと判断されてしまったのでは?



 い、いえ。そんなはずはありません。

 あれは偶然が重なった不慮の事故ですし、そもそもソラリア様自身も他意はなく、“温泉に入りに来ただけで巻き込まれた”と仰っていたはずです。


 ですが、それが彼女の嘘だったとしたら?

 元々、何かしらの目的があって神住島へ訪れていたソラリア様が、偶然私という力の片割れが現れたことによって巻き込まれただけであったとしたら?

 あの一件を、プラーナさん達へ報告していたのだとしたら?


 疑惑が不信感を呼び、私の中で嫌な結論が出来上がり始めます。

 そんな私へ、シリア様から再び声を掛けられます。


『シルヴィ? どうした? お主まさか、どこかで接触しておったのか?』


「い、いえ。接触していたかと言われますと、していない……と思うのですが」


『煮え切らん答えじゃな。お主、何を隠しておる? 今はひとつでも情報が必要なのじゃ、知っていることがあるならば全て話せ』


 気が付けば、全員の視線が私へと集中していました。

 これはもう、あの時の一件を話した方がいいのかもしれません。


「すみません……。以前、神住島へ訪れた時の話に遡るのですが、あそこで私は、ソラリア様と行動を共にしていました」


『何じゃと!?』「何で!?」


 当然の如く、皆さんから驚愕と困惑の声が上がります。

 しかし、それを制したのはレオノーラでした。


「落ち着きなさい。シルヴィのことですわ、何かしら考えがあって黙っていたはずです。そうでしょう?」


「はい……」


「まずは、その話を全て聞いてから判断するべきです。さぁ、知っていることを教えてくださいまし」


 優しい口調で催促してくるレオノーラに頷き、私は七百回以上繰り返されていたあの夏の日のことを打ち明けることにしました。

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