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711話 関西系領主は困る

 急いで猫の転移像まで戻り、一旦不帰(かえらず)の森まで戻って来た私は、その場に座り込みながら息を整えていました。


『ほんに何が起きておったのじゃ? 演出で街を焼いたとは言えども、被害は無かったはずじゃろう』


「何か、気に障るようなことでもしてしまっていたのでしょうか」


『いや、気に障っていたのであれば、そのことに触れて怒りを示すはずじゃ。じゃがあれは、まるで妾達を知らん者の反応じゃぞ?』


「私達を知らない、新しい警備の方……と言う可能性は」


『無いじゃろうな。仮に新人を置くにしても、その上司となる者が必ずおるはずじゃ。そやつまでもが知らんと言う事は、考えにくいじゃろう』


 シリア様はひょいと転移像の上に飛び乗ると、その上に座り込んで腕組みをし始めます。


『うーむ……。よくわからんが、あそこは後にするかの。次はブレセデンツァ領に行ってみるとしよう』


「分かりました」


 立ち上がって服を軽く払い、シリア様が起動した転送陣の中に立ちます。

 若干の浮遊感を経て私の視界に広がったのは――。


「あぁ、丁度良かった! これからシルヴィちゃんの家に行こかー思っとったんやで!」


「シューちゃん! お久しぶりです!」


「久しぶりー。元気にしとった?」


 レナさんの世界で言う“着物”を動きやすく改造した着こなしのシューちゃんが、いつものように笑いながら手を振ってくださる姿でした。

 シューちゃんは変わりが無さそうです。と胸を撫で下ろして微笑み返す私の腕を、彼女はくいっと引きながら転移像を起動させ始めます。


「シューちゃん?」


「ええから、ちょい先に移動させてな」


 そう言うと彼女は有無を言わせずに転移を起動し、私達を連れて再び不帰の森の広場まで転移しました。

 そのまま私の手を引きながら移動したシューちゃんは、やがて少し離れた川辺で足を止めました。


「ふぅ。ここなら誰にも聞かれることは無さそうやし、いけるやろ」


「シューちゃん、どうかしたのですか?」


 私が問いかけると、シューちゃんは溜息を吐きながら言葉を返します。


「どうもこうもあらへんよ。どないなっとるか、ウチも教えてもらいたいくらいやわ」


『どういう事じゃ。妾達にも分かるように話せ』


「あー、堪忍な。なんか昨日かおとついくらいから、うちの領民の様子がおかしいんよ。何でかは知らへんけど、みんなしてシルヴィちゃん達のこと忘れてるような感じでな? あないに人気やったトンカツも、急に知らへん料理やーなんて言うて売れへんくなってんねん」


「私達のことを、忘れてる?」


 その回答に、私とシリア様は心当たりがありました。

 それは言うまでも無く、先ほどリノア領で体験してきた出来事です。


『確認じゃが、お主は妾達のことは認識できておるのじゃな?』


「当たり前やん。そうやなかったら、こうして話せてへんやろ?」


「となると、やはり魔族領で何かが起きているのでしょうか」


『そうじゃな……』


「ん? なんなん? 他の地域でも、似たようなこと起きてるん?」


「はい。ついさっき、シューちゃんのお屋敷に向かう前にリノア領へ行ったのですが、そこで私達への扱いがおかしかったのです。シューちゃんの言っている内容と一部重なるのですが、私達のことを知らない魔女と呼び、領地侵犯だと言って攻撃される始末でした」


「なんやそれ!? ゲイルはどないしとん!?」


「分かりません。ゲイルさんのお屋敷の前で追い払われてしまったので、会えておらず……」


 シューちゃんは怪訝そうにしながら、袖の中から連絡用の魔石を取り出すと、そこに魔力を流し込み始めました。

 魔石はしばらく点滅を繰り返していましたが、やがてふっと光が消えてしまいます。


「ダメやわ。何か知らんけど出られへんらしい……ちょい待ってな。レオノーラにも連絡してみる」


 彼女が続けてレオノーラへ連絡を試みると、そちらはすぐに繋がったらしく、魔石からレオノーラの声が聞こえてきました。


『何ですのシュタール!? 今、貴女に構ってられるほど暇ではありませんのよ!?』


「ウチかて暇やから連絡してるとちゃうわアホ! 単刀直入に聞くけど、魔王城周辺でけったいなことは起きてへん?」


『けったいって、何がけったいですの?』


「あー、そうやなぁ。例えばやけど、シルヴィちゃんのこと話しても反応があらへんやら、知らへんって言われるやら、そないなこと起きてへん?」


『あぁ! そのことですの!?』


「レオノーラも何か知ってるんですか?」


『まぁ! その声は愛しのシルヴィではありませんこと!? 貴女の可愛らしい声は魔石越しでもハッキリと感じられますわ!!』


『阿呆言ってないでさっさと答えよ。まさか、お主の周りでも似たようなことが起きておるのか?』


『何か猫のような鳴き声が聞こえましたわね? 近くに猫でもいらっしゃいますの?』


『貴様……ッ!!』


「お、落ち着いてくださいシリア様!」


 全身の毛を逆立て、怒りの声色を出すシリア様を抱き上げて、宥めながらレオノーラへ問いかけ直します。


「私達もそのことで聞きたいことがあるのです。もしレオノーラも知っていることがあるのなら、今日の予定に組み込ませて欲しいのですが、これからそちらへ向かっても大丈夫ですか?」


『えぇ、構いませんわ! ですが、(わたくし)が少々政務に追われていて手が離せませんので、二時間後に魔王城の裏手から来ていただけます?』


「分かりました。では、また後で」


『えぇ、お待ちしておりますわ! それとシュタール、貴女は先にゲイルの屋敷へ行ってもらえます? 先ほどから連絡が付きませんの』


「それは構へんよ。ウチもリノア領の様子を見ておきたいとこやったしな」


『では任せますわ。もしゲイルを見つけたら、私から話があると伝えていただけます?』


「おー、怖! 魔王直々のお話やら聞きたないなぁ」


『うふふ! さ、そんな冗談は置いておいて、もう切りますわよ。私、今日はかなり忙しいんですの』


「はーい。ほな、またなぁ」


 通話を終えたシューちゃんは、袖の中から別の魔石を取り出しました。

 中に込められている魔法の波長から、恐らく転移の魔石です。


「ほな、ウチはゲイルんとこ見てくるわ。そないに時間も掛からへんと思うし、ウチも後で魔王城で合流するさかい」


「分かりました。もし可能であれば、ゲイルさんも一緒に連れてきていただけるとありがたいです」


「ええよー。ほな、また後で」


 彼女は魔石を手の中で砕き、転移の魔法を起動すると、即座に姿を消しました。

 消えていったシューちゃんの光の粒子を見上げながら、私はひとつ、効きそびれてしまっていたことを思い出します。


「そう言えば、何故シューちゃんが手紙の返信をくれなかったのかを聞き忘れていました」


『そんなもの、後で確認すればよかろう。それよりも、一旦家に帰るぞ。飯を食いつつ、状況の共有が先決じゃ』


「そうですね」


 私はシリア様に頷き、一旦帰宅することにするのでした。

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