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710話 魔女様は取り合ってもらえない

 ミーシアさんにこってりと怒られてしまった日から、あっという間に一週間が経過しました。

 今日もこれから魔族領へ向かう予定なのですが、やや気がかりなことに気を揉んでいた私へ、シリア様が声を掛けてきます。


『まだ行かぬのか? 直に十時になるぞ?』


「そうなのですが……」


『なんじゃ、領主連中から返事が無いことを気にしておるのか』


 シリア様の言葉に、私は頷き返します。

 そうなのです。先週のミーシアさんやコーレリア様との会合を終えて、すぐにゲイルさんやシューちゃんを始めとした領主の方々や、魔王であるレオノーラに手紙を出していたのですが、レオノーラ以外から手紙が返ってこなかったのです。


『魔族を取りまとめておるのはレオノーラじゃ。あ奴が確認しておるということは、その部下であるゲイルらも確認済みじゃろうよ。大方、レオノーラの奴が代表して出すから出さなくていいとでも言われておったのじゃろう』


 確かに、シリア様の仰ることには一理あります。

 シューちゃんはともかく、ゲイルさんは一存で動くような方ではありませんから、彼の下に私からの手紙が届いたとなれば、いち早くレオノーラに報せているでしょう。


「ですが、レオノーラからの返信にはそのことが書かれていなかったので、もしかしたら届いていなかったのではと気になってしまいまして」


『どうせあ奴らも暇しておるはずじゃ。直接行って、話を付ける方が早かろう。ほれ、行くぞ』


「あぁ!? 待ってくださいシリア様!」


 シリア様は私を置いて、一足先に外へと向かっていってしまいます。

 ここでずっと考えていても変わらないことは事実ですし、私も出かけることにしましょう。





 猫の転移像を使い、久しぶりにリノア領へ訪れた私達ですが、街に入った瞬間から謎の違和感に襲われていました。


「シリア様」


『うむ。やけに妾達を怯えた目で見ておるな』


 いつもの魔女服に身を包んでいるだけなのですが、リノア領に住んでいる魔族の方々から、まるで恐ろしい物を見るかのような視線を向けられているのです。

 中には小さく悲鳴を上げて逃げ出す方もいらっしゃるほどで、明らかに以前訪れた時とは反応が異なっていることが分かってしまいます。


 そこで、ふとあることを思い出しました。


「もしかして、この前のレオノーラ奪還の際に私の姿を使って暴れていたことが、記憶に根付いてしまっているのでしょうか」


『そう言えばそんなこともしたのぅ。くふふ! お主も遂に、魔女として恐れられる立場になったか!』


「私としては喜ばしくないのですが……」


『まぁよい。力のある者は恐れられるものじゃ。気にせず進むとするかの』


 先に進もうとするシリア様に続いて歩き出すと、またしても小さな悲鳴を上げながら私から大きく離れていく方や、露骨に私を避けて逃げようとする方々の動きが視界に入ってきます。

 あの時は仕方が無かったとは言え、この反応は少し辛いものがありますね……と溜息を吐いていると、やがてゲイルさんが住んでいるお屋敷が見えてきました。


 しかし、そのお屋敷の前は騒然としていて、お屋敷を警備している兵士の方々が慌ただしく駆けていく一方で、数名の兵士の方が私達へ槍を向けてきました。


「た、立ち去れ魔女!! 領主様の下へは行かせんぞ!!」


「え……?」


 困惑してしまう私へ、兵士の方は牽制を続けてきます。


「そこから一歩でも動いたら、侵略行為と見做して迎撃させてもらう!!」


「ま、待ってください! 私はただ、ゲイルさんにお話が」


「魔女が領主様に何の用だと言うのだ! 敵意が無いと示しつつ、領主様を殺すつもりだろう!?」


「そんなことはしません!!」


「黙れ! 不審な魔女め、我らの命に代えても領主様をお守りしろ!!」


「「はっ!!」」


 彼らは槍を構えなおすと、私達に向かって走ってきました!

 私は慌てて、シリア様を抱き上げて反対方向へと駆けだします。


『何じゃ!? 何が起きておる!?』


「分かりません! この前の一件で、私のことをある程度は認知されていたのではなかったのですか!?」


『間違いなく認知はされておるはずじゃ! じゃが、これはまるで――いかん、空に飛べ!!』


「はいっ! “フェアリーブーツ”!!」


 シリア様に言われるがままに、空を翔けるために風の加護を足元に付与し、地面を強く蹴ります。

 するとその直後に、私が走っていた場所を塞ぐように爆発が起きました!


 後ろを振り返ると、杖を構えている兵士の方が続けざまに詠唱を開始しているのが分かります。

 これはもう、話し合いなんて望める状況では無さそうです。


『一度退くぞ! 状況の整理がてら、他の領地へ向かうべきじゃ!』


「分かりました!」


 背後から多数の魔法が飛んでくる中を掻い潜り、私達はリノア領から逃げ出すのでした。

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