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707話 領主様は約束したい

 一通り話し終えた私は、念押しのために言葉を付け足します。


「もちろん、ミーシアさんには戦っていただくことはありませんし、領民の皆さんにもそれを求める訳ではありません。あくまでも、私の力を使った世界の認識改変を防ぐための、妨害策に過ぎませんので」


「うん。それは今の話で何となくは分かったの。でも、その認識の阻害? っていうのをしただけで大丈夫なのかしら?」


「大丈夫、と言いますと?」


 ミーシアさんは不安そうな表情で、手にしていたカップに視線を落としました。

 彼女の言いたい言葉が汲み取れず、反応に困ってしまっていると、私の隣に腰掛けていたエルフォニアさんが溜息を吐きながら口を開きました。


「シルヴィが捕まって魔女が表向きに劣勢になった後、ネイヴァール領は再び襲われないかって心配なら不要よ」


「そ、そんなことは!」


「思ってない訳が無いでしょう。仮にも私は、あなたの姉なのよ? あなたが考えそうなことくらい分かるわ」


 冷たく、それでいて優しく言葉を遮るエルフォニアさんに、ミーシアさんが口を閉ざします。

 そんな彼女を見ながら、エルフォニアさんは膝を組み替えると、お茶を一口啜ってから言葉を続けました。


「この際だから教えてあげるけど、ネイヴァール領が襲われて以来、魔術師が姿を見せていない理由……分かるかしら?」


「エルちゃんが強い魔女になったから、その強さに怯えて干渉してこないんじゃ……」


「そんなに世界は平和じゃないのよ」


 エルフォニアさんは指をパチンと鳴らすと、テーブルの上にマジックウィンドウを出現させました。

 そこには、ネイヴァール領と思われる地形が描かれていますが、そのあちこちに黒いバツ印が付けられています。


「確かにネイヴァール領は、ネイヴァールの悪魔と呼ばれている私がいるから手出ししづらいとは思われているわ。でも、実際はあの後、何度も襲撃されそうになっていたのよ」


「そんな!? エルちゃん、そんなこと一言も」


「教える訳ないでしょう。無駄に心配されて、変な行動を取られたくないもの」


 再びミーシアさんを冷たく突き放した彼女は、一つのバツ印を指で示します。


「このバツ印が付けられている場所は、全て魔術師が入り込もうとしていた場所。そしてその全部が、私があいつらを消した場所でもあるわ」


「こ、こんなに……!?」


 そのバツ印の数は、軽く数えても二十近くはあります。

 それだけ、このネイヴァール領は魔術師にとって重要な地域だったのでしょうか。


「でも、なんでエルちゃんはこんなに襲われそうになってたって分かるの? エルちゃん、昔からネイヴァールにいなかったって言ってたよね?」


「それは簡単よ」


 彼女がマジックウィンドウの上を手のひらでなぞると、ネイヴァール領のほぼ全域が格子状の線に覆われました。


「ネイヴァールの全域に網を張ってるの。そのおかげで、魔術師の反応があった瞬間に転移で戻って殺すことができていたという訳」


「……ごめんねエルちゃん。エルちゃんばかり、こんな辛いことさせて」


「別に辛いだなんて感じたことは無いわ。私が好きでやってるだけよ」


「うん、そうだね」


 申し訳なさそうに笑うミーシアさんに、エルフォニアさんは鼻を鳴らして腕を組みました。


「本当に世界の認識が書き換えられたとしても、この網は残り続けるはずよ。だから、いつ何時(なんどき)にあいつらが奇襲してきたとしても、問題なく迎撃できるから安心しなさい」


「本当に、いつもありがとうエルちゃん。エルちゃんのそういうところ、大好きよ」


 ミーシアさんから好意を告げられたエルフォニアさんは、ふいっとそっぽを向いてしまいます。

 そんな彼女に苦笑しつつ、私からもミーシアさんへ告げます。


「ミーシアさん達の安全は、私達が約束します。ですから、安心して協力していただけませんか?」


「もちろんよ。私にできることなんてほとんどないけど、その作戦が失敗しないように頑張らせてもらうわね」


「ありがとうございます、ミーシアさん」


 ミーシアさんに微笑みながら握手を求めると、ミーシアさんも同じように微笑みながら手を伸ばしてくださいます。

 優しく、それでいて決意の籠った力強さの握手を交わしながら、ミーシアさんは私に言いました。


「シルヴィさん、絶対に死なないでね。うちで育った物、まだまだたくさんあるんだから」


「はい。絶対に、全員揃って全てを終わらせてきます」


「うん。約束だからね」


 そのままミーシアさんは握手を解くと、私の小指に自身のそれを絡めてきました。


「エルちゃんとレナちゃん、エミリちゃんやティファニーちゃん。もちろんシリア様やフローリアさんと一緒に、またうちに来てね。私はここで、みんなの帰りを待ってるから」


「分かりました。必ず、戻ってきます」


「うん。信じてるから」


 どちらともなく指を離し、小さく微笑み合うと、今度はエルフォニアさんに向けて小指を差し出し始めました。


「ほら、エルちゃんも!」


「なんで私まで……」


 口では嫌そうにしながらも、エルフォニアさんはミーシアさんの小指に指を絡めます。

 嬉しそうに笑みを浮かべたミーシアさんは、手を上下に軽く揺すりながら約束を口にしました。


「絶対に無茶はしないで、生きて帰ってきてね。エルちゃんがいなくなったら、私はひとりぼっちになっちゃうんだから」


「善処はするわ」


「善処じゃなくて約束して」


「……約束するわ。あなたを一人にはしないと」


「ふふっ! 絶対だからね?」


「はぁ……」


 エルフォニアさんはめんどくさそうに溜息を吐いていましたが、その横顔はどこか満更でも無さそうでした。

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