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706話 領主様も戦いたい

 カイナでの会合を終えた私は、一度家にフローリア様を送り届け、続けざまにネイヴァール領へと向かいます。

 今日だけで二件重なってしまっているのは忙しくはありますが、領主という立場であるミーシアさんの予定が付いたのが今日しかなかったため、仕方がありません。


 そんなことを考えながら、ミーシアさんのお屋敷から少し離れたところへ転移し終えると、既に待っていてくださったエルフォニアさんから声を掛けられました。


「あら、早かったのね」


「こんにちは、エルフォニアさん。お待たせしてしまいましたか?」


「来て十分も経ってないわ。それに、時間よりは大分早いのだから気にしないで頂戴」


「すみません、ありがとうございます」


 エルフォニアさんに待ってもらっていたことのお礼を述べると、彼女はくるりと背中を向けて、ネイヴァール家へと向かっていきます。

 彼女に続いて歩き始めようと思った矢先、どこかエルフォニアさんの様子がいつもと違うことに気が付きました。

 何でしょうか。上手く口で説明することができないのですが、疲れている……に近いのでしょうか。


「エルフォニアさん。その」


「何かしら」


「私の気のせいかもしれませんが、何かありましたか? 何となくですが、疲れているようにも見えまして」


「別に何も無いわよ」


 そうは言うものの、少し体調がよくなさそうにも見えますし、彼女が持つ魔力も、いつもより乱れているように感じられます。

 気になってしまい、心配してしまう私を鬱陶しく感じたのかは分かりませんが、エルフォニアさんは溜息を吐くと足を止め、私に振り返りました。


「……私も私で、今やれることをやっているだけよ。剣技、魔法、アザゼルの扱い。その全てを見直すために、師匠の下で修行しているだけ」


「師匠と言いますと、ネフェリさんでしたか」


「そうよ。だから心配する必要なんて無いわ」


 話は終わりとでも言うように、エルフォニアさんは再び歩き出します。

 レオノーラやラティスさんから、エルフォニアさんは色々と隠していると聞いてはいましたが、修行も含めて私に聞かれたくない事なのでしょう。

 できれば、ネフェリさんが元気にされているかも聞いてみたかったところですが、また今度にすることにしましょう。





「シルヴィさんお久しぶりー! 元気だった?」


「お久しぶりです、ミーシアさん。おかげさまで、食事には困っていません」


「そっかぁ、それは良かったよー。あ、今日もお土産用意してるから、エミリちゃん達にたくさん食べてもらってね!」


「いつもありがとうございます。ありがたく使わせていただきます」


「お礼なんていいよー! 私の方こそ、シルヴィさんにはお礼したいんだから! さ、入って入って! 美味しいお茶とお菓子も用意してるから! ほらエルちゃんも!」


「……えぇ」


 落ち着いた紺色のドレスを身に纏っているミーシアさんに歓迎され、私達は応接間へと向かいます。

 席に座ると、給仕の方がお茶を淹れてくださり、茶葉のいい香りが私の鼻をくすぐりました。


「今年のお茶は渾身の出来なんだよー? シルヴィさんから預かったお金で、畑の質がグンと良くなったからね!」


「それは何よりです。では、いただきます」


 お茶を一口いただくと、確かに以前よりも紅茶の味がより深くなっている気がしました。

 やや渋めであった苦みは爽やかさを増し、紅茶のコクが一層際立っているように感じられます。


「……すごく美味しいです。畑の状態で、こんなにも変わるものなのですね」


「でしょー? でも、茶畑だけじゃないのよ? レナちゃんに聞いて、一部の家畜の食事を変えてみたんだけど、これがまぁ凄いこと凄いこと! 油の乗りや柔らかさが段違いなの! 卵も栄養価が高くなってて、より美味しい卵が作れるようになったんだよー!」


「ふふっ。それは楽しみですね」


「楽しみにしててね! ……っと、いけないいけない。今日はうちの領地の話じゃないんだよね」


 ミーシアさんはコホンと咳払いをすると、表情を改めて私へ尋ねてきました。


「シルヴィさん。あの手紙に書いてあった内容は本当なの? 私は魔法とか魔術には詳しくないから分からないんだけど、世界が終わっちゃうって……」


「はい、全て本当のことです。このまま三月を迎えてしまったら、本当に世界が終わってしまいます」


「そう、なんだ……。ごめんなさい、やっぱりまだ現実味が無くて」


「当然よ。あなたは魔法とは縁遠い世界にいたんだもの」


 エルフォニアさんの一言に、ミーシアさんは表情を曇らせます。

 その姿に、私はエミリと重なるものを見てしまいました。


 エルフォニアさんが身を置く環境には近づけまいと、不器用な優しさから遠ざけられていたミーシアさん。

 そんな彼女が感じているものは、この前エミリが打ち明けてくれた想いと同じものなのでしょう。


「大丈夫です、ミーシアさん。エルフォニアさんからも許可をいただいていますので、これから少しずつ、私達がどのような立場にいたのかを知っていただければと」


「うん。ありがとう、シルヴィさん。それじゃあ早速だけど、詳しく聞かせてもらえないかな? 魔法が使えない私が、エルちゃん達とは別の場所でこの世界を護る方法を」


 領主としての表情へ切り替えた彼女へ私は頷き、私達の作戦の内容と、ミーシアさんにお願いしたい内容を話すことにしました。

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