704話 魔女様は女神様達に襲われる
『くはは! そうかそうか! 風のスカウト担当の阿呆が魔法庁の責任者をやっておったか!』
「はい。さらにですが、どうやら彼女はシリア様の生前に仲が悪かった方の血縁者であったようです」
『妾と仲が悪かった者なぞ山ほどおるが……いや、待て。もしやそ奴、グラスベルの姓を名乗っておったか?』
「覚えていらっしゃいましたか」
家に帰り、諸々を終えてシリア様とお風呂に入りながら報告をしていると、シリア様はこれまた楽しそうに笑いました。
『忘れるはずがなかろう。妾が初めて覚えた極大魔法を操る血統じゃぞ?』
「そうですね。ですがエリアンテさんは炎ではなく、風に適性があったようです」
『まぁ生まれ持った適正なぞ、時代の移り変わりや取り入れた血の変化でいくらでも変わっていくからのぅ。ほれ、お主がいい例じゃろ。妾の適正は土であったにもかかわらず、希少な光なぞに恵まれおって』
「それはそうかもしれません」
『しっかし、これはまたいい手駒を手に入れられたのぅ。お主に任せて正解であったやも知れぬ』
シリア様は楽し気に言うと、火照った体を冷まそうとお風呂の淵に寝そべりました。
そのままご自身の周囲に冷気を纏った風を起こしながら、私に続けます。
『魔導連合、イースベリカ、ハールマナ、ラヴィリス……。うむうむ、悪くないペースじゃ。これならば、十二月までには間に合うじゃろう』
「あとはネイヴァール領とカイナを回って、最後に魔族領にも協力を取り付けられれば万全ですね」
『うむ。じゃが、最近レオノーラの奴を見ん気がするが、お主何か知らんか?』
「一応、この話は先週の段階で通してはあります。ですがタイミングが悪かったようで、今の時期は忙しいから十一月くらいにしてほしいと言われました」
『そうか。まぁあれでも魔王じゃ、十月ともなれば冬に向けた政策の取り決めなどで追われるのじゃろうよ』
「ネイヴァール領へはどうしましょうか。私だけで行きますか?」
『いや、次いでじゃからエルフォニアを呼ぶがよい。あ奴と共に行き、ついでに妾達の置かれている現状を教えてやれ』
「分かりました」
正直、ネイヴァール領は大切な場所ではありますが、エルフォニアさんが魔法関連から距離を置かせたがっているミーシアさんに協力を仰ぐのは、かなり心苦しいものがあります。
ですが、だからと言って彼女に黙ったまま話を進めて十二月を迎えてしまえば、間違いなくネイヴァール領はソラリア様達の影響を受けてしまうことになります。
このことにエルフォニアさんがどう出てくるかが若干不安ではありますが、ネイヴァール領に関してはそのくらいです。
問題は、カイナの方でしょう。
「フローリア様と共に行って大丈夫でしょうか……」
『あの地はあ奴のテリトリーじゃからな。いくらコーレリアがおるとは言えども、あ奴抜きで話をするには、ちと厳しいものがあるじゃろう』
体を冷まし終えたシリア様は、再び湯船に体を鎮めると、『くふぅ~』と幸せそうな声を漏らしました。
最近レナさんから教わったそうなのですが、この湯冷めさせて湯船に入り直すと言う行為は、レナさんの世界では“トトノイ”というものだそうです。
厳密には、蒸し風呂と言うもので汗を流す工程が抜けてしまっているため、正確なものでは無くなってしまっているのですが、それでもそれなりに効果があるようで、最近のシリア様のお気に入りの入浴スタイルになっています。
『なに、そう案ずるでない。あ奴とて、腐っても信奉されておる【刻の女神】じゃ。己が力の源とも言い換えられる信者を守るべく、上手く立ち回るはずじゃよ』
「そうですね。あの街はフローリア様のことが大好きみたいでしたからね」
『他所の宗教にはかなり雑な扱いをしてくる連中じゃがのぅ……』
「そう言えば、そんなこともありましたね……」
フローリア様を信奉する“クロノス教徒”に冷たく扱われた苦い記憶が、薄っすらと蘇ってきました。
今回もあんなことにならなければいいのですが……と小さく嘆息していると、私を笑ったシリア様が湯船から上がり、全身を大きく振るわせて水しぶきを飛ばしてきました。
「きゃあ! もう、シリア様!」
『む、すまん』
「私の気のせいならいいのですが、だんだんと猫に引き寄せられていませんか? この前も魔法でではなく、手で毛づくろいしそうになっていらっしゃいましたし」
『うーむ、この体は燃費は良いのじゃが、意識せんところで魂が引っ張られている可能性は否めんな。どれ……』
シリア様は湯船の淵を二度叩くと、ポンッという音と共に――。
「これで良かろう」
「ま、前を隠してください!!」
「なんじゃ、お主も見慣れた体であろう」
「そう言う問題ではありません!」
「全く、あれよこれよと注文の多い……っくし! うぅ、やはり人の体は冷えやすい! 入り直すとするかの」
私の体を模した魔力体に器を移し、もう一度温まろうと湯船に入ってきました。
そんなシリア様と入れ替わりで、私がお風呂を出ようとすると、シリア様は行かせないと言わんばかりに腰に抱き着いて来ました!
「ちょっ、シリア様!? な、何を!?」
「くふふ! たまにはお主の成長を抜き打ちチェックしてやろうと思うてな」
「け、結構です! そんなこと、今やらなくて――んひゃぁ!?」
「む? お主もしや、またちぃとばかし育ったか? やはり妾の子孫じゃ、大きくなるのは必然と言えような」
「し、シリア様!!」
「ふむ、肉付きは以前と変わらぬが、尻も若干大きくなったか? お主に限ってあり得んとは思っておったが、太った訳では無さそうじゃ――むおっ!?」
このままでは全身の隅々までチェックされてしまうと判断し、思い切って逆にシリア様を捕まえます。
後ろから逃がさないように抱き着こうとした瞬間、手の位置を誤ってしまい、シリア様の胸を掴んでしまう形となってしまいました!
「んぅ!?」
「す、すみませんシリア様!!」
「な、何、構わんよ。元はと言えば、この体もお主の物じゃ。他者の胸に触れてみたいと言うのであれば、まずは妾で試すがよかろう」
「そう言うつもりでは……って、シリア様!?」
「どうじゃ? 自分の体とは言え、また違った感覚じゃろう?」
シリア様は私の手を掴み、ご自分の胸に押し付けてきています。
確かに、自分のそれと全く同じ大きさであるにも関わらず、こうして持ち上げてみるとかなりずっしりとした重みと柔らかな弾力が……ではありません!!
慌てて手をどけようとするも、手首を掴まれてしまっている以上それも叶わず、私と同じサイズのそれに触れることしかできません。
すると、唐突にお風呂場の扉が開かれ、今一番会いたくない人物が姿を現しました。
「おっふろ~おっふろ~、おっふっろ~♪ 今日はのんびり、ひっとり風呂~……って、あら?」
突然のフローリア様の登場に、私達は全身を強張らせ、顔が引きつります。
フローリア様は私とシリア様を交互に見比べると。
「やだ~! シルヴィちゃん、シリアに自分の体を貸してまで触ってみたかったのなら言ってくれたら良かったのに! お姉さんも混ぜて混ぜて~!!」
「ち、違いますフローリア様!! 待っ――きゃあああああああ!!」
「っぷは!! やめんかこのたわけ!! 妾に触れて良いのはシルヴィだけんやぁ!?」
「ふっふっふ~♪ シリアは体が変わってもここが弱いのね~? うりうり~!」
一糸まとわぬ姿で浴槽に飛び込み、あり得ないくらいの力の強さで私達を弄り倒すのでした。




