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703話 ハイテンション魔女は詰められる

「やっとゆっくり話せるね。ずっと会いたかったんだよ~? 【慈愛の魔女】シルヴィさんっ♪」


 にっこりと笑いかけてくる彼女に、どうしても身構えてしまいそうになるのを必死に押さえつけながら、私は努めて平静を装うことに成功しました。


「ええと……私のことをご存じだったのですか?」


「もっちろん! 一目見た時から可愛い子だなぁって思ってたよ!」


「ということは、私達はどこかでお会いしたことがあったのでしょうか。もしそうであれば、本当に申し訳ないのですが……」


「あ~あ~! 仕方ないって! だってあの時、シルヴィさんは数千人の前で話してたんだから、その内の一人だなんて覚えてるはずがないもの」


 数千人を相手に話していた。

 そこから結びつく記憶は、魔導連合に初めて行った時の挨拶か、先日の協力要請の演説の時くらいです。


 私が二択の中から正解を提示するよりも早く、エリアンテさんは楽しそうに言いました。


「あの頃、私達を前におどおどしてたシルヴィさんが、今ではこんな会合で堂々とできるくらいになるなんて……。きっと、この一年で沢山のことを経験してきたんだね」


「あの頃はその、自由になってすぐだったと言うのもあって、魔女とは認められないと弾劾されるのかと不安だったのもありますので」


「あはは! シリア様のお墨付きって言われてるのに、それに異を唱える人なんていないよ~」


 エリアンテさんはそう笑うと、私に握手を求めてきました。


「改めてよろしくね。私は【飄風(ひょうふう)の魔女】エリアンテ=グラスベル。表向きは、魔法庁の最高責任者もやらせてもらってるけど、これでも風属性に素質のある、新米魔女候補のスカウト担当だよ」


「よろしくお願いします、エリアンテさ――ん?」


 手を握り返し、そう微笑もうとした矢先、ふと彼女が放った言葉に引っかかりを覚えました。

 風属性に適性のある魔女をスカウトしている。その人物のことを、どこかで聞いた記憶が……。


「あの、少し変なことをお聞きしてもいいでしょうか?」


「ん? いいよ~」


「ファミエラ、という名前に聞き覚えはありませんか?」


「ファミエラ?」


 彼女は腕を組むと、「ファミエラ、ファミエラ……」と何度もつぶやきながら頭を捻らせ始めました。

 これは本当に、彼女のことを忘れていらっしゃるのかもしれません。


「ええと、声に魔力を帯びている変わった体質の女性で、光属性に適性がある方なのですが」


「声? 声、声、声……あぁー!!!」


 エリアンテさんは見当が付いたらしく、両手をパシンと合わせながら立ち上がります。


「あのノートの子でしょ!? 喋ると言葉が魔法になっちゃう子!」


「はい」


「懐かしいなぁ~! 光属性だったけど素質はバッチリだったから、私が認めちゃってもいいやーって思ってピンバッジ上げたんだっけ! シルヴィさんが知ってるってことは、今は魔女として上手くやれてるってことだよね? どう? あの子元気にしてる?」


 ……少し、頭が痛くなってきた気がしましたが、彼女が元凶でもあるので、あの件の顛末を話しておくことにしましょうか。



 ☆★☆★☆★☆★☆



「お嬢」


「いや、ホントにすみませんでした」


「謝ればいいという問題ではありませんぞ。あなたの身勝手で、少女の人生が終わりかけたどころか、街が危険な目に遭っていたのですから」


「はい……」


 仮にも、魔法庁の最高責任者である魔法大臣のエリアンテさんが、その部下であるボーマンさんに正座で怒られていると言う姿は、何とも言えない光景でした。

 しかしながら、彼女が気まぐれにスカウトしては放置すると言った行為は、魔導連合だけに留まらず、ボーマンさんから見ても目に余るものであったらしく、かれこれ三十分ほどお説教が続いています。


 申し訳なさそうに顔を伏せるエリアンテさんですが、その表情は申し訳なさだけではなく、何かに耐えているような苦悶の色も浮かんでいるように見えます。

 顔から少し視線を下げてみると、正座を強要されている彼女の足が、小刻みに震えているのが分かりました。どうやら、足が痺れてしまって話どころではなくなってしまっている模様です。


「あの、ボーマンさん。もう過ぎたことですし、その辺で終えていただけませんか?」


 私が助け舟を出した瞬間、エリアンテさんは瞳を輝かせて私を見てきましたが、それを見ていないボーマンさんが彼女を絶望に叩き落とします。


「なりませんぞシルヴィ殿。エリアンテ嬢がこうして他者様にご迷惑をお掛けするのは、もう両の手で数えられないほどです。この度の責任は、きちんと取っていただかねば」


「あぅ……」


 今にも泣きそうな顔をしているエリアンテさん。

 流石にエミリ達も可哀そうだと思い始め、私に視線を向けてきていますし、何とかして終わらせてあげたいのですが……。


 そう考えていた時、イルザさんが「それでしたら」と手を打ちました。


「エリアンテ様には、シルヴィ先生達の作戦に全面的に協力していただくということでいかがでしょうか?」


「と、仰いますと?」


「そのままの意味ですよ。シルヴィ先生達が魔法庁の協力が必要となった時には、魔法庁の代表として率先して働いていただきます。また、魔導連合に所属する大魔導士としての力が必要となった時にも、ご迷惑をお掛けした分、身を粉にして働いていただけばよろしいのでは?」


 イルザさんの言葉を受けたエリアンテさんが、先ほどの絶望した表情よりもさらにひどい顔を浮かべています。

 先ほどのように、ヘリオーグさんの不正を暴くくらいには勤勉な方かと思っていましたが、他者から強要されるお仕事ではなく、本当に気分が乗った時にしかお仕事をしたくない方なのかもしれません。


 その言葉に対して「でも」と抗議しようとしていたのを見てしまい、私は追い打ちをかけることに決めました。


「そう言えば、シリア様も仰っていましたね。“そんなに無責任な奴ならば、即刻資格をはく奪してレナを据え置くことも考えておる”と。この件は協力が取り付けられなくてもシリア様に報告しなければなりませんので、もしエリアンテさんが協力していただけないとなると、魔女としての立場が危ういかもしれません」


「なっ!? ちょっ、え!? 嘘!? え、嘘だよね!? ねぇ!?」


「お姉ちゃんは嘘が言えないんだよ!」


「お母様は嘘を吐くと、罪悪感がすぐに顔に出てしまいます! 今は出ていませんので、本当のことです!」


 その援護は嬉しいのですが、あまり喜べないかもしれません……。

 悪意の無い二人からの思わぬ攻撃に若干顔をしかめていると、ボーマンさんが愉快そうに笑いました。


「これは決定ですな。お嬢には拒否権が用意されていませんぞ」


「うふふ! 魔女を辞めたくなければ、頑張ってくださいね。エリアンテ様」


「そんなぁ~!!」


 心底嫌そうな彼女の悲鳴は、部屋の中によく響き渡っていました。

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