699話 魔女様は会合する・前編
「もう、シルヴィ先生ったらそんなことで悩んでいたんですか!? 今さらですよ~!」
「うぅ、ごもっともです……」
応接室へと移動した私は、当然のように先ほどの動転の様子について尋ねられ、イルザさんに笑われていました。
「大丈夫ですお母様! お母様の服、ティファニーは何も恥ずかしがることは無いと思います!」
「お姉ちゃんの服、シリアちゃんとお揃いなんだよね? だったら仲良しだから大丈夫だよ!」
「エミリ、ティファニー……!」
「きゃあ! お母様~!」
「お姉ちゃん、苦しいよ~!」
エミリ達に励まされてしまい、思わず二人をぎゅっと抱きしめてしまいます。
皆さんの言う通り、確かに悩むのも今さらです。それにこの服は初代女王であるシリア様が着ていた物でもあるので、由緒正しいグランディア王家の魔女服とも言えます。
そんな衣装に、誰がケチを付けられましょう。私は何も、恥じる必要など無いのです。
「長年生きてきた経験からですけど、シルヴィ先生は体型に恵まれていますし、そのくらい肌を見せていた方が殿方も声を掛けやすいと言うものですよ」
「イルザさん!!」
「うふふ! 冗談ですよ~」
あまり冗談に聞こえないそれに赤面しながら抗議していると、扉の外からノック音が聞こえてきました。
どうやら、魔法庁の重役の方々がお見えになったようです。
私は大きく深呼吸をして席を立ち、扉の外へと声を掛けます。
「どうぞ」
「失礼致します」
魔法庁の職員の方が扉を引き、中に入って来たのは初老の男性二名と女性が一名でした。
男性二名は身なりも非常に整っていて、各々が重役を担っているという責任感の強い眼差しをしています。
一方で、女性はやや鋭めの眼光ではありますが、彼らのように気負った感じはなく、書類や本を抱えていることから、彼らの秘書、あるいは書記担当であるようにも見えました。
「初めまして。私が【慈愛の魔女】シルヴィです。この度は、皆様とお話しする時間を設けてくださり、ありがとうございます」
「初めまして、【慈愛の魔女】殿。いや、フェティルアの英雄とお呼びした方がよろしいですかな?」
黒髪のショートヘアの男性が放った冗談に、私は軽く微笑みながら言葉を返します。
「できれば、【慈愛の魔女】と呼んでいただけると嬉しいです。さらに欲張るのなら、名前で呼んでいただけるととても嬉しいです」
「はっはっは。それでは、シルヴィ殿とお呼びさせていただきましょう」
彼らが席に座るのを見届けてから、自分も腰掛けます。
さて、どこから話を始めましょうか。と模索し始める前に、中央に座っていた黒髪のショートヘアの男性が口を開きました。
「改めまして、自己紹介から失礼させていただきます。私はボーマン。魔法庁の官房長官を勤めております」
「私はヘリオーグ。魔法学教育局長です」
「私はキリエと申します。本日の会合の書記を勤めさせていただきます」
先程冗談を交わさせていただいた、黒髪の男性がボーマンさん。
隣の栗色の髪の男性がヘリオーグさん。そして、書記の方がキリエさん。
名前の呼び間違いが無いように気を付けなくては……と脳に刻みつつ、こちらも紹介を始めます。
「改めまして、私は<不帰の森>で診療所を営んでいる魔女、シルヴィと申します。こちらは、私の助手のエミリとティファニーです」
「え、エミリと言います。十歳です、よろしくお願いします!」
「ティファニーと申します! 種族は植妖族で、エミリと同い年です!」
「はっはっは! 元気があってよろしいですな。もしかして、このお二人もイルザ先生の教え子ですかな?」
「はい。先日の騒動で一時休学しておりますが、我が校の可愛い生徒です」
「そうでしたか。いやはや、あの一件は大変でしたな。ハールマナ魔法学園の被害もさることながら、我々魔法庁の内部からも魔術師がいたことが判明し、その収拾に追われておりました」
「彼らは彼らで、魔法の権威を貶めるために長年画策していたようですね」
「えぇ……。ですが、シルヴィ殿がハールマナに赴任してくださったおかげで、生徒達の魔力は向上し、ハールマナの未来も安泰となった。魔法庁を代表して、お礼を申し上げます」
「いえ、お礼を言われるようなことではありません。むしろ、謝らなければならないのは私の方なのですから」
そう前置きし、巻き込んでしまったことを詫びようとした私へ、イルザさんが強引に話の流れを打ち切りました。
「まぁまぁ、過ぎた話に時間を使うのは勿体ないですよ。それに、今日はその話をしに来た訳ではありませんよね?」
「イルザ先生の仰る通り、我々も謝罪を求めてこの場にいる訳ではございません。まずは、シルヴィ殿からいただいたこちらの手紙について、詳しくお聞かせ願えればと」
彼がそう言うと、秘書の方はファイルから一通の手紙をテーブルの上に置きました。
それは、私が先んじて魔法庁とハールマナ魔法学園に宛てて送っていた物です。
「魔術師によって魔女はこの世界から消され、やがて世界すらも終わる。それを防ぐために、力を貸してほしい――。これはどういうことか、お話しいただけますか?」
「はい。そのために、この場をお借りしています。では、まずは今の世界からお話させていただければと思います」
そして私は、彼らにも分かるようにゆっくりと話し始めました。
この歪められている世界の真実と、魔術師の目的、そして訪れる世界の終焉を。




