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693話 魔女様は協力する

「頑張ってシルヴィ! やりづらいだろうし恥ずかしいかもしれないけど我慢よ我慢!」


「終わったら美味いもんでも食わせてもらおうぜー!」


「え、ヘルガさん何しれっと俺のおごりで飯を食おうとしてるんですか?」


「なんだ? 可愛い魔女が頑張ってるのに飯のひとつも奢ってやらないのか?」


「いやそれは喜んで奢らせていただきますけど! 推しにこんなことさせて、飯だけで許されるなんて思ってませんけども!!」


「だそうだ! 頑張った分だけいいもんが食えるぞー!」


 くぐもって聞こえてくるそんな会話に苦笑しながら、改めて自分が置かれている現状を把握し直します。

 先ほどまでの研究室ではなく、一つ隣の部屋で作業をすることになった私は、誰もいない薄暗い部屋で、下着姿に杖のみという姿で立っています。

 と言うのも、ラティスさんが作ったあの魔導石の神力版を作るには、可能な限り肌面積を多くした状態で魔力放出精度を高める必要があるようなのです。


 極限まで精度を高めるのであれば全裸が望ましいと言うのは、作り方を聞くためにラティスさん本人からもウィズナビで確認を取ってはいたのですが。


「いやいやいやいやいやいや!? 待ってくださいラティス様!! 無理です!! 俺はシルヴィちゃんに全裸になってくれなんて頼めません!!」


「私の時は平気で頼むのに、随分と待遇が違いますね」


「それはその、ラティス様がその方がいいと仰るから!!」


「ええ、ですからシルヴィさんにも脱いでもらった方がいいと言っています」


「無理です!! ダメです!! シルヴィちゃんはまだ十七歳なんですよ!?」


「それは私に対する暴言として受け取りました。リョウスケ、あとで話があります」


「あああああ!? 待ってくださいラティスさ――うわ……俺、死んだかもしれない……」


 と言うようなやり取りがあり、リョウスケさんからの強い要望で下着は着用となっていました。

 私としても、誰にも見られることはないと分かっていても、裸で何かをするのは流石に気が引けてしまいますし、これはこれでありがたいと思っています。


「――くしゅん!」


 残暑が残る九月とは言え、適温が維持されている魔導連合内で下着姿になると言うのは、少し肌寒く感じます。

 風邪を引いてしまわないよう、手早く取り掛かることにしましょう。


 私はラティスさんから聞いた手順を確認するべく、ウィズナビ越しにメモを取った内容に目を通します。

 まずは、室内全体に自分の魔力を浸透させ、室外に魔力が漏れないように壁を作る。

 その後、作業に用いる魔力を一気に放出し、先ほど張った壁で包み込むように一点に凝縮しながら魔導石を生成する。

 最後に、形や大きさを整えながら凝縮された魔力を調律し、魔力の出し入れができることを確認して完成……。


 書いてあること自体は難しくはありませんが、凄まじい集中力を求められる作業のはずです。

 失敗する可能性が高いことを前提にして、作業に取り掛かってみましょう。


 私は大きく深呼吸をして、意識を集中させます。

 シリア様の神力を活性化させ、それを全身に漲らせると、少し肌寒く感じていた室温もちょうどいいように思えてきました。

 神力の発動は、何も問題はありません。では続けて、壁を張るステップに移りましょう。


 魔力を少しずつ、杖を通じて部屋全体へと広げていきます。

 ドア、窓、天井、壁、そして床。その全てを覆い、隙間が無いことを入念に確認し終えた私は、一度瞳を開いて、その出来を目視でも確認します。

 倉庫として使われていた室内は、見渡す限り金色のベールが掛けられているようにも見えました。試しに壁の一部に触れてみると、しっかりと魔力でコーティングできていることが分かります。


 これならきっと、爆発的に魔力を放出しても問題は無いでしょう。

 あとはこれで、放出した魔力を包み込めばいいはずです。

 部屋の中央へと戻り、再び瞳を閉じた私は、大きく息を吸って集中し――体内の神力を一気に放出しました。


 すると、それは赤い稲妻を伴った暴風のように部屋全体で暴れまわると同時に、タオルを顔に押し付けられているかのような息苦しさを感じさせます。


 今までこんな密閉空間でやったことの無かった魔力の扱い方ですが、こうなることが分かっていたのなら、もっと広い部屋をお借りしてやるべきでした。

 そんな後悔も束の間。即座に思考を切り替えて、自分の魔力に溺れてしまわない内に終わらせることにしました。


 髪が乱れ続けるのを感じながらも、部屋全体を覆っていた魔力の壁を少しずつ縮小させ始めます。

 猛烈な反発を見せる私の神力が押し込められていくにつれ、息苦しさが徐々に改善されていきますが、それに安堵して気を緩めようものなら、一瞬で壁が押し戻されてしまいそうです。


 全神経を集中させ続け、ちょっとずつ、ほんのちょっとずつ凝縮されていく神力と格闘していると、ようやく形を整えられそうな大きさに落ち着いて来ました。

 このままだと私自身も閉じ込められてしまいそうですし、今の内に壁の外へと避難しておきましょう。

 壁を抜けて、少し遠めから見た私の神力は、ラティスさんが作ったそれよりも二回りほど大きく、天井と床を貫くような(いびつ)なひし形になってしまっていました。

 金色の宝石がほんのりと赤く発光しているようにも見えるそれを、もう少し小さくできないかと力んでみますが、どんなに力を込めてもこれ以上は小さくなる様子がありません。


 流石にこの大きさは邪魔になってしまうのでは……とは思いましたが、私自身の体力も底を突いてしまっていたらしく、ふらっと力が抜けそうになりました。

 いけません。こんな大詰めで失敗してしまっては、今までの労力が全て無駄になってしまいます。

 せめて最後の仕上げにと、包んでいた壁を強化して全表面を覆い、やや細長いひし形に整えたところで、私自身の限界を迎えてしまいました。


「痛っ!!」


 後ろに倒れていく体を支えようとするも、全身に力が入らず、したたかに頭と背中を床にぶつけました。

 手で押さえようにも体が言う事を聞かず、ただ荒い呼吸を繰り返すことしかできません。

 そこへ、扉が開けられる音と共に、レナさんが飛び込んでくるのが見えました。


「シルヴィ大丈夫!? って、うわぁ!? ちょ、ちょっと待ってね!?」


 レナさんは下着姿の私を見るや否や、慌てて私のローブを掴み上げると、それを被せてくれました。


「ありがとう、ございます……」


「気にしないで。それより、これって完成したの? 中の凄い魔力っぽい気配が収まったから入ってきちゃったけど、まだ作業中だった?」


「ひとまずは、完成だと思います。ですが、まだ、大きさの調整と、形を整えられていなくて……」


「確かに、ラティスさんのあれに比べるとかなり大きいわよね」


「それは当然でしょう。神力の質量は魔力の三倍以上なのですから」


 突然、背後から女性の声が聞こえたことに体を強張らせた私達は、ほぼ同時に後ろへ振り向きます。

 すると、そこにいたのは。


「お久しぶりですね、シルヴィさん。レナさん」


「「ラティスさん!!」」


 頭に大きなたんこぶを作って襟首を掴まれているリョウスケさんと、涼し気な私服を身に纏っていたラティスさんでした。

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