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690話 魔導連合の長は不機嫌

 魔導連合に所属している皆さんから、無事に協力を取り付ける事ができた私達は、魔導連合の大食堂でお昼をいただいてから、この事を報告する為にアーデルハイトさんのいる総長室へ訪れていました。


「――ということで、エイバンさんの後押しもあり、皆さんからも協力していただけることになりました」


 議会の書記の方から預かってきた書類に目を通しつつ、私達からの報告を受けていたアーデルハイトさんは、「そうか」と小さく答えると、細く息を吐きながら背もたれに体を預けました。


「なんか総長さん、疲れてない?」


「どこかの魔女が問題しか運んでこないからな」


 どこかの魔女、という言葉が誰かを指し示すかのように、彼はちらりと私を見ます。


「魔導連合を巻き込んだことについては謝ります。ですが」


「いや、責めてるつもりはない。これがお前達だけの問題では無いことくらい、私も分かっているつもりだ」


「じゃあ何でそんな事言うのよ」


 アーデルハイトさんは天井を仰ぎながら、溜息を吐くように答えました。


「抱えてる問題が多すぎるんだ。たまには私の息抜きとして毒を吐かれるくらい、大目に見てくれ」


「それは構いませんが……。私達の問題以外でも、何か困りごとがあるのですか?」


「あたし達で手伝えるなら手伝うわよ。ね、シルヴィ?」


 レナさんに頷き、話せる内容なら話して欲しいと視線で促してみます。

 そんな私へ、アーデルハイトさんは力無く笑います。


「お前達に頼れるならとっくに頼っていたさ。だが、これはシリア様からの依頼なんだ」


「シリア様からですか?」


 アーデルハイトさんの発言を受け、私達は互いに何か知ってるかと顔を見合せました。


「気にするな。そう遠くない内に嫌でも分かることになる」


「え、それって何か悪いこと……?」


「さぁな」


 答える気が無さそうな口ぶりに、レナさんはややイラッとした表情を浮かべながらも、それ以上聞き出そうとはしませんでした。

 ですが、シリア様からの直々の依頼で、私達に協力を求められないこととは、一体何なのでしょうか……。


 考え始めそうになる私へ、アーデルハイトさんは体勢を戻して尋ねてきました。


「それで? お前達はこの後どうするんだ?」


「そうですね……。今日の目的としては達成しましたので、知り合いへ挨拶をしてから家に帰ろうかと思ってます」


「そうか。なら、この後少し付き合ってくれないか?」


「何か手伝うことがあるのでしょうか?」


「あぁ。とは言え、私の手伝いという訳では無いんだが」


 レナさんと揃って首を傾げてしまう私に、彼は言葉を続けます。


「以前、イースベリカでうちの技術局長と会ったのを覚えているか?」


「もちろん。相葉(あいば)さんよね?」


 アイバ……アイバ……。あぁ、思い出しました。

 確か、普段はラティスさんと一緒にいらっしゃると言う、ごく普通の男性であり、魔導連合の技術開発担当であるリョウスケ=アイバさんだったはずです。


「あぁ。アイツも今後の仕込みで色々やってる最中なんだが、どうも研究に詰まってしまってるらしくてな。神力を扱える【慈愛の魔女】と、同じ異世界出身という【桜花の魔女】達なら、何かの刺激になるだろうと思っている」


「ですが、レナさんはともかく、私は異世界の知識や技術は全く分かりませんよ?」


「そんなものは期待していない。今のアイツに必要なのは、技術提供よりも休息だろうからな。適当に菓子でも振る舞いながら、話し相手になってやってくれ」


「はぁ……」


 よく分かりませんが、リョウスケさんの話し相手となって息抜きの手伝いをすればいいのでしょうか。


「分かったわ。でもあたし達、技術局がどこにあるのか分からないんだけど」


「そうか。お前達は知らないのか」


 アーデルハイトさんはウィズナビを取り出すと、手早く操作して誰かへ連絡を取り始めます。


「私だ。お前、今はどこで何をやっている? ……嘘をつくならもう少し頭を使えと何度言えば分かるんだ? おい、笑って誤魔化そうとするな! はぁ……まぁいい、今すぐ私の部屋に来い。【慈愛の魔女】達の案内を頼みた――はぁ!? 誰がお前なんかに夜の誘いなどするか!! 大至急で来い! 私の堪忍袋の緒が切れる前にな!!」


 な、何だか非常にお怒りの様子です。通話の相手は誰だったのでしょう……。

 やや息を荒くしながら通話を終えたアーデルハイトさんは、机の上に置かれていたドーナツを掴み上げると、八つ当たりのように大きく頬張りました。


「……ったく、アイツは本当に何なんだ。まだ私を女だと思っているのか? 顔も体格も何もかも、どこから見ても男だろうに」


 ブツブツと不満を述べながらも、ドーナツを口に運ぶ手は止まらず、ひとつ、またひとつとお皿から姿を消していきます。

 そんな風に、不快感を顕にしているはずのアーデルハイトさんなのですが、何故かどことなく不快以外の感情も見え隠れしているようにも思えてしまいました。


 それは私だけではなく、レナさんも感じ取っていたらしく。


「総長さんって、男になったのって最近なの?」


 嫌な予感がする質問をぶつけ始めました!

 思わず愛想笑いが固まってしまう私の視界の先では、ピクリと反応を示したアーデルハイトさんが、視線だけをこちらに向けてきています。


「藪から棒に何だ、【桜花の魔女】」


「いやぁ、ちょーっと気になっただけよ。ほら、男性として生きることを選んでるし、好きな食べ物とか好みとか変わってるのかなーって」


 さり気なく、好きな食べ物を二回言っているように見せかけて、恋愛対象としての好みの意味を含ませているように聞こえます。

 そんな彼女の意図を汲まず、アーデルハイトさんは少し遠くを見ながら答えました。


「私がこの体になったのは、だいたい四百年くらい前だが、その頃から味の好みは特に変わっていないな」


「そうなの? てっきり、もっと変化が出るかと思ってたわ」


「あくまでも私の場合は、だ。私以外にも己の性別を変えた者も何人かは知っているが、そいつらは唐突に辛い物が好きになったり、渋い物が食べられなくなったりしていたな」


「へぇー……。え、まさか副総長さんも元は女だったとか言わないわよね!?」


 レナさん。誘導できたのが嬉しいのは分かりますが、もう少し声色を変える工夫をしてほしかったです。

 声色に喜色を含ませているレナさんの問いかけに、アーデルハイトさんは鼻で笑いました。


「アイツは昔からだらしのない男だ。幼い頃のアイツを知ってる私が保証しよう」


「幼い頃と言う事は、ヘルガさんもアーデルハイトさんの同期の方なのでしょうか?」


「いや、アイツは違う。アイツは今いくつだったか……? 少なくとも、私より六百年は若いはずだぞ」


「「ろっ!?」」


 今の話を整理すると、アーデルハイトが千と四百歳くらいの頃に、ヘルガさんの幼少期があったと思われます。そこからの付き合いと言う事は、最低でもヘルガさんも六百歳を超えている計算です。


「お、何だ何だぁ? みんなして俺の噂話か?」


 そこへ、当の本人が楽しそうにドアを開けながら姿を現しました。

 金色の髪を短く切り揃えた、爽やかな好青年。それがヘルガさんの印象でしたが、実年齢を聞いてしまうと、どうにも見え方が変わって来てしまいます。


「お前の年齢の話をしていたところだ」


「あー、シルヴィちゃん達は知らないんだっったか? 俺は今年で六二四歳だぜ。んでもって、トゥナの彼氏になってから五百と――」


「余計なことは言わなくていい!!!」


 何か凄いことを言いかけたヘルガさんでしたが、即座に距離を詰めたアーデルハイトさんに部屋の外へ連れ出されてしまいました。

 その後、ヘルガさんの悲鳴と共に爆音が聞こえてきたのは、気のせいだ思うことにしましょう……。

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