687話 魔女様は演説する・前編
「――であるため、今年度の冬季遠征はイースベリカとティエルナの合同演習に、魔導連合も参加する形となります」
春季から秋季にかけての、魔導連合の活動内容の取りまとめや、昨年に比較した収益状況、各地の問題などが取り上げられていましたが、つつがなく議題は流れていきます。
やがてそれらも片付き、一時間程度で議会そのものは終わってしまいました。
「えー、それでは。秋季連合議会は以上で閉幕となりますが、最後に皆様へ、【森組】より重要なお話がございます。【森組】のお二人、前へお願いいたします」
「はい」
遂に、私達の番が来ました。
緊張で強張る体を、レナさんがぽんっと軽く叩きました。
「大丈夫よ。ほら、深呼吸して」
レナさんに微笑み、言われた通りに深呼吸をすると、若干緊張がほぐれた気がしました。
そうですね。緊張しすぎて上手く伝えられず、協力が得られないと言うのは最悪のパターンです。
いつも通り、冷静に取り組むことにしましょう。
「ありがとうございます、レナさん」
「いいのよ。さ、行きましょ」
二人で席を立ち、ステージの上へと移動します。
皆さんに向かって一礼し、司会の方から拡声器を受け取ってスピーチを始めることにしました。
「皆さん、こんにちは。【森組】こと、【慈愛の魔女】シルヴィです。今日は私達のために、お時間を割いてくださってありがとうございます」
感謝と共に頭を下げると、それを合図に拍手が沸き上がりました。
微笑み返しながらそれが収まるのを待ち、スピーチを続けます。
「本日、こうして皆さんの前でお話させていただいているのは、皆さんに協力していただきたいことがあるためです。また、これからお話しする内容は、すべて真実です。どうか、そのことを念頭に聞いていただけると幸いです」
私はこれまでに見て来たこと、経験してきたことを、可能な限り全て隠さずに話しました。
今生きているこの世界は、既に【夢幻の女神】ソラリア様によって一部歴史を歪められていること。
私達魔女と敵対している魔術師が、この世界から魔女を消そうとしていること。
その魔術師との敵対の理由を作ってしまったのが、何を隠そう、魔導連合の設立者でもあるシリア様であること。
「そして、十二月に魔術師の本拠地があると思われるオルゲニシア山脈の頂上で、魔女と魔術師の存亡を賭けた決戦が行われます。ですが、この戦いは既に私達魔女側が負けることが決まってしまっていると、【運命の女神】であるスティア様より告げられてしまっています」
魔女の存亡を賭けた戦いなのに、敗北が決まっている。
私達でもすぐには受け止めきれなかったその事実に、議事堂内が一斉にざわつきます。
そこへ、私から拡声器を借りたレナさんがやや声量を上げながら続けました。
「みんな落ち着いて聞いて。負けが決まってるけど、そこであたし達魔女が世界から消されるって訳じゃないの。あたし達の本当の戦いは、三月の下旬。そこで負けたら、魔女が世界から消されるどころか、世界そのものが終わっちゃう。だから、それを防ぐためにみんなの力を借してほしいの」
レナさんの言葉は皆さんのざわめきを止めることはできましたが、納得させるには至らなかったようで、私達の場所から見える範囲でも、あまりいい顔をされていないのが分かります。
ですが、ここまでは事前の想定通りです。私達も、最初から全てを受け入れてもらえるとは考えていません。
どこから質問されるでしょうか。と頭の中で想定される質問を思い浮かべていると、やがて一人の男性が手を挙げたのが見えました。
視界の方がその男性へ手を向け、スポットライトを当ててくださいました。
「質問、いいですかな」
「はい。もちろんです」
「我々と魔術師には、確かに長い敵対の歴史がある。しかし、それがシリア様によるものだと決めつけるのは、些か乱暴過ぎないかな? 【森組】は新米とはいえ、仮にも魔導連合に所属する魔女。その君達が目指すべき、始祖の大魔導士であるシリア様に責任を押し付けるのは、流石にいただけないのだが」
これも想定していた質問です。
これに関しては、シリア様からこの回答を行うようにと言われていました。
「その疑問は当然だと思います。ですが、私達も無根拠でこんな不敬とも受け取れる発言をしている訳ではありません」
「では、その根拠とやらを見せていただきたい」
「分かりました。では、こちらのマジックウィンドウをご覧ください」
私は事前に用意していた資料を見せるべく、拡大したマジックウィンドウを表示します。
そこには、生前のシリア様が魔術師――当時の錬金術師達を相手に、土属性魔法の有用性を説いている場面が描かれています。
「今から二千年前。魔王を討った功績を認められ、王家へ迎え入れられることになったシリア様は、かねてからの大願であった土属性の地位向上を行います。具体的な内容としては、有から有を錬成し直す錬金術より、魔力と言う無限のリソースを用いた土属性魔法の有用性を国民に広く知らしめました」
「待ちたまえ! それは我々でも聞いたことがない!」
やはり魔導連合と言えども、ソラリア様によってシリア様に関する情報が有耶無耶にされてしまっているのか、二千年という長い歴史の中で異なる形で伝承されてしまっているのかは分かりませんが、生前のシリア様の功績を把握していない方がいらっしゃるようです。
であれば、まずはシリア様の功績から説明することにしましょう。




