686話 魔女様は議会に出席する
久しぶりに訪れた魔導連合では、既に私達が来ると知っていたフードを被っている方が出迎えてくださいました。
「お久しぶりでございます。【慈愛の魔女】様と【桜花の魔女】様」
「お久しぶりです。少し早めに来たつもりでしたが、もう皆さんお揃いでしたか?」
「いえいえ。まだ三割程度しかお見えになられておりません」
「魔女ってかなり時間にルーズよね。自由過ぎるとも言えそうだけど」
「魔女の皆様の大半は、他者に生き方を縛られるのを良しとはされておりませんので、何卒ご容赦いただければと」
「全然気にしてないわ。むしろ、急なお願いだったのにこうして時間を設けてもらえただけでも、ありがたい限りよ」
レナさんの言う通りです。
既にアーデルハイトさんには一部事情を説明していて、お小言をいただきながらも承諾していただいているのですが、私達のために秋季連合議会の日程をずらしていただいた上に、議会の終わり際にスピーチの時間を用意していただけているのですから、これ以上望める立場ではありません。
フードの方は私達に恭しく一礼すると、「では、ご案内いたします」と先導し始めました。
アーデルハイトさんに用事があり、時々魔導連合に顔を出すことはありましたが、こうして議事堂に向かう道を進むのは去年以来かもしれません。
そう考えていたのは私だけでは無かったらしく、隣を歩いていたレナさんが私に声を掛けてきました。
「去年のシルヴィは歩きながらおどおどしてたのに、すっかり落ち着いたわね」
「あの頃は魔女として認めていただけず、処刑されてしまうのではないかと不安しかありませんでしたから。それに、あの頃に比べれば色々な経験を積むことができましたので、自分に自信を持てるようになったのもあるかもしれません」
「確かに、言われてみればあたし達、凄い人達を相手にする機会が多かったわよね。領主や商会の会長を始め、王様や魔王とかとも話したりしてたし」
「そうですね。なので、同じ魔女である魔導連合の皆さんであれば、そこまで気負う必要も無いかと思いまして」
「あはは! ホント、成長したわねシルヴィ」
レナさんと談笑を交えながら廊下を進み、議事堂の中へと足を踏み入れると、ローブの方の仰る通り、今日はまだ席が半分以上埋まっていない状況でした。
もう少し、落ち着く時間が取れそうです。そんなことを思いながらも、私達を先導してくださるローブの方についていくと、やはりと言いますか何と言いますか、私達に案内された席は最前列でした。
「あはは。今年も最前列なのね」
「まぁ、中途半端に挟まれて立ちづらいよりはいいのかもしれません」
「それもそうね」
私達が席に着くと、ローブの方は再び一礼し、足音も無くその場から去っていきました。
体感としてはあと三十分ほどだとは思いますが、実際はどのくらい早く来てしまっていたのでしょうか。
そんなことを考えながらウィズナビを取り出し、画面を表示してみると、私とエミリがシリア様を挟む形で抱き合っているお気に入りの写真の上に、『八時四十分』と表示されていました。
あとニ十分。短い様で長い時間ですね。
ふと隣へ視線を送ると、レナさんはウィズナビを使って何やらポチポチとメッセージを送っているようにも見えました。
「レナさん、誰かにメッセージを送っているのですか?」
「うん。ヒマジョのフォロワーに今日のことをお知らせしてたんだけど、結構リプ来ててね。その返信をしてるとこ」
いつの間にそんなことを……と、私もヒマジョを開いて確認してみることにします。
自分のプロフィール画面からレナさんのアカウントを探そうとした矢先、自分のフォロワー数がこの前見た時よりも、かなり多くなっていることに気が付きました。
たった一か月そこそこで、数千人も増えることがあるのでしょうか。
そもそも、魔導連合に所属している方々の総数は、一体何人いるのでしょう……。
いえ、考えるのは止めておきましょう。魔女について詮索するのはマナー違反だったはずです。
強引に思考を止め、レナさんの顔がアイコンになっている『RENA』のアカウントを開きます。
「レナさんも、フォロワーの数が凄いのですね」
「シルヴィほどじゃないけどね。でも、ここ最近でグッと増えたのよねー」
「あ、レナさんも急に増えたのですか?」
「ん? ってことはシルヴィも?」
レナさんはポチポチと操作し、私のアカウントを開きます。
「二万七千!? この前見た時は一万も無かったわよね!?」
「毎日料理の写真を投稿していただけなのですが、気が付けばこんなに増えていまして……」
「もうシルヴィ、料理系配信者になったらいいんじゃないかしら」
「配信者、とは何でしょうか」
「料理しているところを動画で撮って、今日はこんな料理を作りまーすみたいに編集して投稿する人のこと」
「私なんかの料理を見ても、面白くないと思うのですが」
「料理中に面白いことを言う人もいるけど、可愛い女の子が料理してるだけの動画ってそれなりに需要は高いのよ。中には、ただ料理を食べてるだけの動画を挙げてお金を稼いでる人もいるしね」
「そ、そうなのですか……?」
やはりレナさんの世界の需要はよく分かりません。
レナさんに苦笑しながら返信の様子を見ていると、唐突に私を呼ぶ声が聞こえてきました。
「シルヴィちゃんー!」
「ローザさん! お久しぶりです!」
【薔薇組】と呼ばれている、風魔法を操る魔女の一人、ローザさんでした。
今日も可愛らしくも大人っぽさを感じさせる、薔薇をモチーフにした魔女服に身を包んでいる彼女は、深紅色の髪を耳の裏に掛けながら笑いかけてきます。
「本当に、こうして会うのは久々だよ~! 元気にしてた? っていうか、ちょっと背が伸びた?」
「元気にしていましたが、背は伸びていないと思います」
「あれ? 何か前に会った時より大きくなったような気がしたけど、気のせいならいっか!」
「あれじゃない? シルヴィ自身に自信が持てるようになってきたから、前より背筋が伸びてるとか」
「あぁ~! 一理しかない! 最近のシルヴィちゃんの活躍凄いもんね!」
「そんなことは……」
「そんなことあるある! 私が知ってる限りでも、フェティルアとラヴィリスを救った偉大な魔女ってなってるもん!」
あながち間違ってはいないかもしれませんが、それは私だけの功績ではありません。
しかし、私が口を開く前にレナさんが同意し始めてしまいました。
「ホント、シルヴィってば凄いわよねー。今日だって、また凄いことするためにみんなに呼びかけようとしてるんだもの」
後半はその通りなのですが、と異を唱えようとした私の袖を、レナさんがクイクイと引きます。
「ここはシルヴィの手柄ってことにしておいて。あたしとかフローリアが目立つと問題だから」
「え、えぇ……?」
レナさんは私にだけ見えるようにウィンクをすると、さらに話を進めてしまいます。
「今日お願いすることは魔女全体に影響があることだから、ローザも協力してくれると嬉しいわ」
「もっちろん! シルヴィちゃんは友達だからね、何でも協力するよ!」
「へぇー、何でもねぇ?」
「あ、嘘嘘。ちょっと待ってね。何でもはちょっと言いすぎ。出来ることなら何でも!」
「あはは! あんま変わってないじゃない!」
「えへへー」
楽し気に冗談を交わすお二人に、私もつられて笑みがこぼれます。
そのまま三人で談笑を続けていると、時間はあっという間に流れていき、秋季議会が始まるのでした。




