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682話 魔女様は一息つけない

 メイナードの背に乗って久しぶりの家に帰って来た私は、早速レナさんから質問攻めにあっていました。


「へぇー、それが古代兵器(アーティファクト)って奴なのね」


「正確には“神創兵器(レーツェ・アルマ)”という物だそうです」


 テーブルに置くには危険すぎることから、壁の隅に立てかけてある“黎明の杖”を見ながら尋ねてきたレナさんに、夕飯の支度を進めつつ答えます。


 今日は少し疲れていたので、できるならペルラさん達のところへ顔出しがてら、食事を取らせていただこうかとも考えていましたが、結局レナさんが料理をしていたのは一日だけだったと聞いてしまい、流石に外食続きもどうかと思ってしまったのです。


 エミリ達も「久しぶりのお姉ちゃんのご飯だー!」と喜んでいたので、疲れた体に鞭を打ち、トマトとレーゲンポークの角煮を作っていたという次第です。


 そんな私へ、一足先に席についていたフローリア様から声が掛けられます。


「それにしても、神創兵器なんてまだ残ってたのね~。全部大神様が回収したんだと思ってたわ」


「そうなのですか?」


「そうよ~。だって神様が使ってた武器なんて、どれも今の世界の武器に比べたら危険すぎるもの。ちょっと間違えたら国が三個は無くなっちゃうものだってあるのよ?」


 それは流石に誇張し過ぎでは……と思いそうになりましたが、純粋な魔法のみで国ひとつを消し飛ばせると言うシリア様の極大魔法が存在している以上、それもあながち嘘でも無いかもしれません。


「うわ、おっかな……。っていうか、そんな危険な武器が何でまだ残ってるの?」


「さぁ? 回収し忘れてるんじゃないかしら?」


「だとすると、大神様に返却するべきでしょうか」


 フローリア様は顎先に指を当て、うーんと考えられていましたが。


「いいんじゃない? だって忘れられる程度なんだもの!」


 と、何とも無責任な回答を笑顔と共に返してきました。

 その回答に私は苦笑し、レナさんは深く溜息を吐きます。


「あたし、フローリアが大丈夫っていう時はだいたいダメな気がするんだけど」


「そんなこと無いわよ~! だって、スティアが使ってた武器なのよ? そんなに重要じゃないことくらい分かるもの!」


 フローリア様の口から出た名前に、私はぎょっとしてしまいました。

 スティアという人物が使っていた武器。それはもしかしなくとも、【運命の女神】であるスティア様が愛用していた武器なのでしょうか!?


「フローリア様、今の話は本当」


「あらあら、随分と酷い言われよう。私だって、最低限は戦えますよ?」


 聞いているだけで落ち着くような、おっとりとした優しい声色に、私は耳を――そして、目を疑いました。

 だって、こんなことが起こりえると誰が予想できましょう。



 “話題に上がった当の本人が、いつの間にか食卓に着いている”だなんて。



「えっ、誰!?」


 突然、自分の正面に現れたその女性に、レナさんは至極普通の反応を示します。

 私も同じ反応をしつつ、警戒態勢に移るべきなのだとは思いますが、私は彼女を知っているのです。


 ふわりと長く伸びた、薄紫色の髪。センター分けの前髪の下から覗く、柔らかく細められた水色の瞳。

 女神の名に恥じないメリハリのある体型を隠さず、やや露出が強めな神衣のような服装。

 一度見ただけで、一生記憶から消えないほどの印象強さと神聖さを醸し出すその女性の名は――。


「スティア、様……」


「あら、私のことを知っているのですか? 流石はシリアの血筋の子ですね。こちらにいらっしゃい、祝福のキスをあげましょう」


 その声に導かれるがままに、料理の手を止めて歩み寄ろうとしてしまう私を止めたのは、シリア様の鋭い一喝でした。


『止まれシルヴィ!! 気を強く持つのじゃ!!』


「っ!!」


 一瞬、私の体が私のものでは無かったような感覚を覚えました。

 我に返り、今度こそ警戒の色を示した私に対し、スティア様と思わしき女性はクスクスと笑います。


「大神様の仰る通り、本当に神への抵抗力が低いみたいですね。これは確かに、ソラリアに目を付けられるのも無理はないのでしょう」


 大神様のことを知っている。さらに、私とソラリア様の繋がりも知っている。

 そして、シリア様とフローリア様が警戒していないと言う事から、ほぼ間違いなく彼女は【運命の女神】スティア様なのだと思います。


 ですが、彼女がここに現れた理由も分からなければ、私を試してきた必要性も分かりません。


「そんなに怖い顔をしないでください。私は貴女の敵ではありませんよ?」


「……では何故、今のようなことをされたのでしょうか」


 私の問いに、スティア様はきょとんとした表情を見せました。

 そして私を指で示しながら、フローリア様へ尋ね始めます。


「フローリア? 私が聞いていた話と少し違う気がしますが……。“シルヴィちゃんはピュアッピュアだから人を疑わないの”って言ってましたよね?」


「シルヴィちゃんも成長したのね~。お姉さん、嬉しくなっちゃうわ」


「は?」


 悪寒がするほどの殺意が籠った低い声に、思わず体が強張ります。

 今のはまさか、スティア様が発したものなのでしょうか……? と、恐る恐る視線を向けるも、当のご本人は何事も無かったかのようにフローリア様に困った笑みを向けていらっしゃいました。


 何とも気まずい空気の中、自分がその原因であると気づいたらしいフローリア様は、てへっとお茶目に誤魔化します。

 しかし、即座にそれでは乗り切れないと察したらしく、取り繕うように両手をわたわたとさせながら弁明を始めました。


「ち、違うのよ!? 何も変なことは言ってないから心配しないで!? 今日スティアが来たのも、シルヴィちゃんに会いたいって言ってたからで!」


『シルヴィに会いたいじゃと? スティアよ、それはこ奴の運命に関する話があると言う事か?』


 シリア様の問いかけに、スティア様はにっこりと微笑み、静かに立ち上がりました。

 そして、私を迎え入れるように両手を開くと。


「改めまして、こんばんは。【慈愛の魔女】であり、グランディア王家最後の生き残りであり、この世界の運命を委ねられし人の子、シルヴィ。私はスティア、【運命】を司る女神です。よろしくね」


 柔らかい笑みを携えながら、そう名乗るのでした。

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