681話 魔女様達は帰路に着く
例の如く、若干の浮遊感を経て到着した場所は、フェティルアの街から少しだけ離れた場所です。
流石に街中に転移するのはいろいろな意味で危険とのことから、シリア様に言われるがままにこの座標にしていましたが、この人数でいきなり転移して来たら確かに騒がれてしまうかもしれません。
「あっという間に街だ……。本当にすげぇな、シルヴィ」
「今はルミナと呼んでください。フェティルアでの私は、かなり有名人のようですので」
「おぉ、そうだったな。何から何までサンキューな、ルミナ」
「いえいえ。こちらこそ、ダンジョン探索に付き合ってくださってありがとうございました」
「礼を言うのは俺達の方だ。ルミナがいなければ、俺達もスカルプリーストの仲間になっていたからな」
「命の恩人」
シュウさんやユニカさん達からも感謝されてしまい、気恥ずかしさが込み上げてきます。
そんな私へ、シリア様は足を突いてきました。
『ほれ、渡すものがあるのじゃろう?』
「そうでした。皆さん、最後に私からプレゼントがあります」
「お? もしかしてワイルドボアの肉か!?」
「ふふ。それももちろん入っていますよ」
「マジか!? って、入ってるってどういう事だ?」
私は亜空間収納から、ひとつの魔導石を取り出してアーノルドさんへ手渡しました。
「お手製の、亜空間収納魔法が込められている魔導石です」
「なっ――!?」
アーノルドさんはこれ以上ないくらいに目を剥き、思わず魔導石を落としてしまうほどに驚愕しました。
それをすかさずユニカさんがキャッチし、瞳を輝かせながら持ち上げます。
「憧れの、亜空間収納!」
「い、いいのか!? その、俺達これを買えるだけの金も無いんだぞ!?」
「魔法を込めたのは私ですが、実はその魔導石を作ったのはテオドラさんなんです」
「テオドラが!?」
未だ意識を取り戻していないテオドラさんへ、皆さんの視線が集まります。
そう、あの宝物庫を出る前に実験として作っていたのですが、シリア様の教え方が上手だったこともあり、テオドラさんはすんなりと作り方を習得できていたのです。
「今は一日に一個が限界ですが、慣れてくれば何個か作れるようになると思います。その魔導石を売るだけでも、毎日の宿代には困らなくなるはずです」
「すげぇ……。テオドラ、お前いつの間にそんなすげぇ魔法使いになってたんだ」
「歩く猥談から、できる魔女に進化」
「もう少し手加減してやれ……」
ユニカさんの評価に皆さんで苦笑しながら、私は言葉を続けます。
「私の持っていたワイルドボアの肉や野菜も移しておいたので、当面は食料も問題は無いと思います。もし魔導石に異常が出てしまったら、その時は森の中にある診療所に来ていただければと」
「あぁ、絶対行く! 用が無くても行く!」
「ルミナのご飯、食べに行く」
「俺達でも問題なく行けるのか?」
「はい。一応、街はずれに猫の石像を設置していますので、そこから転移できるようにはしてあります。街で知ってる人もそこそこいるはずですので、良かったら教えてもらってください」
「俺達そんなの聞いたことなかったぞ……。んだよ、こんなとこでも仲間外れかよ」
「強いって罪」
「全くだ」
呆れるように笑う三人に、シリア様も笑いながら言います。
『大怪我した時でも、教会に頼むより安上がりじゃからな。遠慮なく来るがよい』
「シリア様の仰る通り、怪我をした際もポーションを買う値段と同じ金額で診ますので、遠慮なく訪ねてきてください」
「おう! 本当に、お前と知り合えてよかったよルミナ。普段は魔女の仕事で忙しいかもしれねぇけど、また時間があれば一緒に冒険に行こうぜ」
「俺達“ドリームチェイサー”は、いつでもお前を歓迎するぞ」
「もう仲間」
「ははっ! ユニカの言う通り、お前はもう俺達の仲間みたいなもんだ!」
アーノルドさんはそう言うと、右の拳をグイっと私に突き出してきました。
「この三日間、楽しかったぜ。ルミナ」
「……こちらこそ、とても楽しかったです。ありがとうございました」
彼の拳に、私の拳をコツンと当てます。
こうした冒険者らしいやりとりも悪くありませんね、と小さく笑うと、アーノルドさんもにぃっと笑いました。
「それじゃ、俺達はギルドに戻って報告してくる。ルミナのことは現地で解散したって言っておくよ」
「達者でな、ルミナ」
「すぐ遊びに行くから」
「はい。皆さんもお元気で」
私達に片手をあげ、街へと向かって歩いていく彼らの背中を見送ります。
夕焼けに照らされながら、仲睦まじく話している姿を見て、私はこの三日間の冒険を振り返ります。
無力と分かっていても、困難に立ち向かう彼らの勇気。
寝食を共にし、絆を育み続けている彼らの結束力。
そして、大切な時は仲間であろうと本心でぶつかることができる、彼らの強い心。
それらに触れることで、私もまた、成長できたような気がします。
「ルミナちゃああああああああん!!!」
そんなことを考えていると、遠くから私を呼ぶ声が聞こえてきました。
そちらへ視線を向けると、シュウさんの肩の上で暴れているテオドラさんがいました。
どうやら、今になって意識を取り戻していたようです。
「ちょっと降ろしてよ変態! いつまで私のお尻を触ってんの!? 高いわよ!?」
「暴れるな」
「もう綺麗に別れを済ませたんだから、跡を濁すなよ!!」
「やだ!! 私だってお別れしたああああい!! ルミナちゃああああああああん!!!」
『くふふ! あ奴は最後までブレぬのぅ!』
「本当ですね」
シリア様と笑いあい、私は声を張り上げるべく大きく息を吸い込みました。
「テオドラさーん!! また会いましょうー!!」
「絶対会いに行くからぁ!! 明日にでも行くからねえええええええ!!!」
『分かれた意味が無かろうに! ほんに変な奴じゃな!』
楽しそうなシリア様につられて、私も笑いながら彼らに手を振り続けるのでした。




