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679話 ご先祖様は見繕う

 その後も色々試してみましたが、私ではどうすることもできなかったことから、今後も女性として生きていくしかないという結論に至ってしまったアーノルドさんは、それはもうこの世の終わりのような顔をしていました。


「いいじゃない! 何だかんだ言って、その体も気に入ってたんでしょ?」


「気に入ってねぇよ!! 高いところに手が届かねぇし、子ども扱いされるし、剣もシリアに作り直してもらうまで扱いづらかったし!!」


「でも夜はお楽しみしちゃうくらい気に入ってたんでしょ?」


「それは……っ!!」


 テオドラさんの意地悪な問いかけに反論しようとしたアーノルドさんでしたが、顔を赤くしながら俯いてしまいました。

 そんな彼に、ユニカさんはすっと耳元まで顔の位置を合わせると。


「変態」


「うるせぇ!! 仕方ねぇだろ! 興味持っちゃ悪いか!?」


「興味持つのは悪くないけど、童貞卒業ほやほやのアーノルドには刺激が強すぎたかもねー。それでそれで? 実際どうなの?」


「どうなのって、何がだよ」


「男と女、どっちが気持ちよか――痛あああああああっ!?」


 テオドラさんの最低な質問には答えず、彼はテオドラさんのつま先に剣の柄を鋭く突き刺しました。

 足を抱えて泣きながら転がりまわるテオドラさんに苦笑していると、やれやれと溜息を吐きながらリィンさんが口を開きます。


「何を聞いてるんですか。そんなもの、女の快楽に決まってえええええええええええ!?」


 即座に雷撃が撃ち込まれ、リィンさんはエビぞりになりながら痙攣し始めました。

 この方はどうして、口を開くとこうなってしまうのでしょうか……と思っていた私の隣で、鼻を鳴らしたシリア様が移動を始めます。


「ほれ、いつまでも阿呆なことを言っとらんで、さっさと取るものを取って帰るぞ」


「ん」


「そうだな」


「はぁ……。俺は何を貰うかな……」


 お二人をこのままで放置していいのでしょうか、とも一瞬考えましたが。


「ねぇリィンちゃん。本当に女性の方がいいの?」


「当たり前です。男性は瞬間的、女性は継続的です。その時点で、どちらがより快楽に沈むことができるか分かるでしょう?」


「なるほどねー」


 など、全く凝りていない会話を繰り広げ始めたため、私は聞かなかったことにしてシリア様の後を追うことにしました。





「ほれ、お主にはこれが良かろう」


「これは?」


「体内の魔力量に応じて、魔法の刃が形成される魔道具じゃ。お主は銃しか戦う手段が無いが故に、先のシルヴィのように接近戦を迫られると対処がし辛かろう。そこで、緊急手段としての手札を持っておくのも選択肢のひとつじゃ」


「なるほど」


 シリア様から手渡された、短剣の柄のみのそれを手に取ったユニカさんが力を込めると、薄紫色の魔力の刃が生成されました。

 ユニカさんは感動を覚えながら軽く振り回し、逆手に構えてシュウさんに見せつけながら言いました。


「どう?」


「いいんじゃないか?」


「ふふん」


 少し嬉しそうに微笑んだ彼女は、それを自分のポーチの中に格納します。

 その様子に頷いていたシリア様は、続けてシュウさんへ腕輪を手渡しました。


「お主はこれじゃな」


「腕輪か?」


「うむ。それは“鬼神の腕輪”と言ってな、使用者の身体能力を大幅に引き上げる代わりに、体力を大きく削る諸刃(もろは)(つるぎ)じゃ。一見デメリットも多く感じるが、引き上げられる効果量が途轍もなく高い。ちと試してみるがよい」


 シュウさんは頷き、腕輪を腕にはめて効果を発動させました。

 すると、彼の全身から凄まじいオーラが立ち昇りました!


「これは……!!」


「全身に力が滾るじゃろう。効果量はざっくりとではあるが、先のシルヴィがお主らに掛けたエクサライズの四乗と言ったところじゃな。もう切って構わんぞ」


 シリア様に従って腕輪の効果を切った瞬間、シュウさんは顔に汗を多量に浮かべ、荒い呼吸をし始めました。どうやら、使用者への体の負担は嘘偽りなく大きすぎるものであるようです。


「はっ……! はっ……!! なるほど、これはキツいな……!」


「常用こそできんが、お主ならば使いこなせようと思ってな。ほんに窮地に追い込まれた時、それを使って仲間を守ってやるとよい」


「……あぁ、そうさせてもらう」


 彼は額の汗を拭うと、腕輪を改めて見せつけてきます。

 そこには、自分が最後の砦になるとでも言いたげな覚悟が浮かんでいました。


「さて、次にアーノルドじゃが」


「俺は何を選べばいいんだ?」


 シリア様は彼を見ながら、ご自分の顎を指でつまみます。


「お主は……妾が作ったそれが一番マシやもしれぬのぅ」


「そうなのか?」


「うむ。お主も魔法への適性が低いが故に、下手に魔道具を持ち出すよりもそれを強化するべきじゃろうな。どれ、妾にそれを貸すがよい」


 アーノルドさんから大剣を預かったシリア様は、テーブルにそれを置いて吟味し始めます。


「力を得るには、何かしらの代償が必要じゃ。お主の場合は体躯が小さすぎるが故に、シュウのように体力を犠牲にする訳にはいかんじゃろう」


「元は同じくらいだったんだがな……」


「さて、そこで何を代償とするかじゃが……何がよい? 対価が大きければ大きいほど、得られる力も大きいぞ?」


「そうは言われても、俺が払える代償なんてなぁ」


 アーノルドさんは腕を組み、頭を悩ませます。

 確かに、魔力という代償が払えない状態で力を得るとなると、犠牲にできるものは限られてきます。

 彼の場合は何になるのでしょうか……。


「性欲でいいんじゃないんですか?」


「は?」


 いつの間にか復帰していたらしいリィンさんが、そう口を開きました。


「ですから、性欲です。テオドラに聞いた話ですが、この人はほぼ毎晩ゴソゴソしてるらしいですから、それに制限を設けることで大きな負担とすることができるのでは?」


 シリア様の侮蔑の視線が、容赦なくアーノルドさんへ向けられます。


「い、いや待ってくれ! 毎晩は嘘だ!」


 彼は慌てて訂正を試みますが。


「ユニカよ、こ奴が罠に掛かったのはいつじゃ」


「二週間くらい前」


「それからダンジョンに行ったり、余計な罠に掛かったりはしたか?」


「してない。アーノルド以外でちょっとしたクエスト行っただけ」


「なるほどのぅ。それから呪いが馴染むほどにやっておった訳じゃな」


 ユニカさんによる証言を受け、シリア様の中で何かが確証へと変わってしまったようでした。

 シリア様は深く溜息を吐くと、小さく何かを唱えながら剣へ魔法を使います。

 しばらくして、剣身にぼんやりと赤い光が灯りましたが、それは次第に剣の中へと消えていきました。


「……これでいいじゃろう」


「うーん、中々にエグい代償を掛けましたねシリア様」


「盛っておる輩にはこのぐらいがいい薬になろう」


「な、なぁ。どんな代償になったんだ……?」


 恐る恐る聞いたアーノルドさんに、シリア様は非常にあくどい笑みを浮かべながら告げました。


「お主が自慰をせん日に応じて効果量が伸びる、という特殊な強化を施しておいた。せいぜい耐えることじゃな」


 その宣告を受けたアーノルドさんの顔は、男性に戻れないと告げられた時と同じくらいのものでした。

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